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KENDRIX Media データラボ みんな新曲聴いてる?

データ

音楽業界のトレンドや音楽クリエイターの皆さんが気になるテーマをピックアップして、データによる検証・分析を行っていく「KENDRIX Media データラボ」。

今回取り上げるテーマは「みんな新曲聴いてる?」です!

米国でのとある調査結果

「MUSIC BUSINESS WORLDWIDE」(MBW)というWEBサイトが2022年1月6日に公開した「OVER 73% OF THE US MUSIC MARKET IS NOW CLAIMED BY CATALOG RECORDS, RATHER THAN NEW RELEASES (UPDATE)」と題する記事のなかで、MRCデータ(現:LUMINATE)による調査結果が紹介されています。

その調査結果は、2021年の米国音楽市場の「アルバム消費」における「カタログ」楽曲のシェアは69.8%である、というものです。

関連記事:OVER 73% OF THE US MUSIC MARKET IS NOW CLAIMED BY CATALOG RECORDS, RATHER THAN NEW RELEASES (UPDATE)

※MBWの記事タイトルには「73%以上」という数字が入っています。これは、2021年通年だと「69.8%がカタログ楽曲」ですが、2021年下半期だけだと「73.1%がカタログ楽曲」という結果が出ており、この直近の数字に注目しているためです。

「カタログ」という用語の定義は非常に難しいのですが、この調査においては「カタログ=18か月以上経過した楽曲」とされています。
リリースから18か月以上経過した楽曲、ということで、「新曲」や「新譜」ではない「旧譜」、ということになります。

ちなみに、この調査で「カタログ」ではない楽曲は「カレント」(Current)と呼ばれています。

また「アルバム消費」についても注釈が必要と思われます。
MRCデータによる調査結果を直接参照すると集計方法の詳細が明らかにされています。

「アルバム消費」とは以下の数値の合計となっています。
・販売されたフィジカルアルバムの数
・販売されたデジタルアルバムの数
・販売されたシングルトラック×10=1アルバム(とみなす)
・有料モデルのストリーミング×1,250回=1アルバム(とみなす)
・広告モデルのストリーミング×3,750回=1アルバム(とみなす)
※ラジオ放送、デジタルラジオ放送は含まれない。

この調査では、2020年の米国音楽市場のアルバム消費における「カタログ」楽曲のシェアは65.1%だったのが、2021年には69.8%に拡大している、ということも明らかにしています。

ここからは筆者の私見ですが、ストリーミングサービスの浸透とともに、たとえば「1990年代R&Bヒッツ」「2010年代アニメベスト」などといったプレイリストを介して、気軽に思い出の曲を聴けたり、当時聴いていなかった旧譜を発見したり、というスタイルが一般化していることが一因だと思われます。

さらには、社会現象になるようなヒット曲が生まれにくい状況、ということもあるかもしれません。その要因は多岐に亘ると思いますが、価値観や趣味の多様化だけでなく、コロナ禍によるライブやクラブ等の「現場」の欠如により、リスナーの一体感を伴って人気に火が点くアンセムのようなものが生まれにくくなっている、という側面もあるのではないでしょうか。

クリエイター、アーティスト目線での捉え方

上記はあくまで米国での状況ですが、「新曲」や「新譜」のシェアが30%である、ということは、これからどんどん楽曲をリリースしていこう、というクリエイター、アーティストにとってはポジティブに捉えにくい数値かもしれません。

とはいえ、どんな楽曲もリリースから期間が経過し、いずれは「カタログ」となっていくわけです。
「カタログ」になっても、ストリーミングサービスでの再生により、著作権や著作隣接権の対価が「印税」として還元され続ける、ということは、クリエイター、アーティストの生活を支える、という点では好ましい部分もあるかと思います。

ここでやっと本題ですが、気になるのは以下の二点です。

✔ 日本の状況はどうか。
✔ 「カタログ」として人気なのはどれくらい古い楽曲なのか。

検証開始!

KENDRIX Mediaとしては、今回も短絡的に以下のように考えました。

多くの音楽作品の情報を基に、著作権料を徴収・分配しているJASRACの分配データで何か分かるだろう。

ということで今回も、JASRACのデータ分析チームにこんな作業を依頼しました。

✔ 最近の分配データで、新曲と旧譜の割合ってどうなってるか教えて。

結果が到着!

数日後、結果が届きました。

データ分析の担当者は「前回もそうでしたけど、私のほうで気を利かして、内国作品と外国作品で分けて集計しておきましたよ」とひとこと。

ああ、確かに前回もそんなやりとりをしたなぁ。
毎度毎度申し訳ないです。

さらにデータ分析の担当者曰く「分配データには作品の登録日の情報は含まれていません。ざっくりと“作品の新しさ”を示す要素として、作品コードの先頭2桁が何番台かということによって、新曲と旧譜の割合をおおまかに把握できるようにしました」とのこと。

作品コードに関する補足説明

結果をご覧いただく前に、JASRACの作品コードに関する補足説明をいくつか。

今回の分析における重要なポイントなので、少々ややこしいですがお付き合いください。

まずは前回もご説明した基本的なことから。

内国作品とは
いわゆる邦楽のことで、基本的に日本人の権利者によって制作された作品。
JASRAC作品データベースで確認できる作品コードの左から2桁目が数字になっている。

(例)
123-4567-8
左から2桁目が数字「2」なので「内国作品」

外国作品とは
いわゆる洋楽のことで、基本的に日本人以外の権利者によって制作された作品。
JASRAC作品データベースで確認できる作品コードの左から2桁目がアルファベットになっている。

(例)
1A3-4567-8
左から2桁目がアルファベット「A」なので「外国作品」

今回の分析ではさらに、以下の要素に着目して、各作品の新しさを測ろうとしています。

内国作品
・基本的に作品コードの先頭2桁が大きければ大きいほど、登録日が新しい。内国作品の先頭2桁は「00」から始まって、直近では「26」まで来ています。
・例外として「50」から始まる系統と、「70」から始まる系統もあります。「50」番台はレアなため、まだ「51」には達していません。一方「70」番台は配信時代に勢いを伸ばしていて直近では「75」まで来ています。

外国作品
・基本的に作品コードの先頭2桁が大きければ大きいほど、登録日が新しい。ただし外国作品の2桁目はアルファベットなので、「0」番台は「0A」から始まって「0Z」まであり、その次は「1A」となり、直近では「1Q」まで来ています。
・例外としてやはり「5」から始まる系統と、「7」から始まる系統もあります。「5」番台はやはりレアなため、まだ「5B」には達していません。一方「7」番台は配信時代に勢いを伸ばしていて直近では「7G」まで来ています。

いわゆる「キリ番」ごとに登録日を確認しておけば、その作品コードがいつ以降に採番されたものか、が分かりますので、今回は以下のようにラベリングしました。

分類

ラベル

意味

内国作品

外国作品

新曲

新曲

作品コードの先頭2桁が2019年以降に採番された作品

25番台(2019年11月)~26番台
73番台(2019年9月)~75番台

1N番台(2019年4月)~1Q番台
7F番台(2019年11月)~7G番台

カタログ(広義)

セミ-カタログ

新曲以外で、作品コードの先頭2桁が2014年以降に採番された作品

20番台(2014年3月)~24番台
71番台(2014年5月)

1G番台(2014年6月)~1M番台
7C番台(2014年8月)~7E番台

カタログ(狭義)

上記以外

上記以外

上記以外

新曲ではない「カタログ」のなかでも、比較的新しいものを「セミ-カタログ」と名付けました(その言語感覚、大丈夫か?)。

分配データに関する補足説明

さらに、JASRACの分配データに関する補足説明をいくつか。

かなり細かい内容となりますので、「何となく分かるよ」という方は読み飛ばしていただいても構いません。

✔ JASRACの分配データは「JASRACが使用料を徴収して分配した作品」の情報

✔ JASRACが使用料を徴収するのは、原則として「日本地域での音楽利用」に限られる

✔ ただし、海外の著作権管理団体が徴収した「外国地域におけるJASRAC管理楽曲の利用に係る使用料」もJASRACに送金されてくるため、分配データにはこれらも含まれる

✔ JASRACが日本地域で使用料を徴収する外国作品は、以下のような作品
・海外の著作権管理団体が著作権を管理していて、日本地域での著作権の管理をJASRACに委託した作品
・海外の音楽出版者(OP)が、日本地域での著作権の管理を日本国内の音楽出版者(SP)に委任し、SPがさらにJASRACに著作権の管理を委託した作品

それでは、結果をご覧いただきましょう。

【2021年度】全分野合計

2021年度の内国作品に関する分配額(全分野合計)を、各作品の先頭2桁に応じて前述のとおりにラベリングして集計したのが上記のグラフとなります。

新曲といっても、2019年9月に登録された作品まで含まれています。
とはいえ、JASRACでは、利用・入金から分配まで6か月〜1年かかるのが一般的といえますので、2020年6月頃にリリースされている作品にしっかりと分配されるのが2021年6月頃だったりします。
今回集計したデータは、2021年度の分配データ、ですから、より具体的には、2021年6月、2021年9月、2021年12月、2022年3月の4期に分配された作品の分配額が集計されています。
対応する主な利用期は2020年4月~2021年3月となり、2019年9月は、2020年4月からは7か月前、2021年3月からは18か月前といえるので、冒頭にご紹介したMRCデータの調査におけるカタログの定義とそこまで大きくは乖離していない、といえるかもしれません。

新曲の割合は25.3%ですから、「カタログ(広義)」の割合は74.6%です。
「カタログ」の中でも、比較的新しいもの(2014年以降に登録された作品)=「セミ-カタログ」の割合は25.7%です。
残りの約50%は2013年以前の古い作品=「カタログ(狭義)」、という結果となりました。

外国作品のほうも見てみましょう。

外国作品においては、2019年4月に登録された作品まで新曲に含まれていますが、それでも、内国作品に比べて新曲の割合が低く、「カタログ(狭義)」が強い、という結果になりました。

それでは、配信分野の分配額に限定した場合はどうでしょうか。

【2021年度】インタラクティブ配信

新曲の割合は22%に低下し、「カタログ(狭義)」の割合は約50%のまま、「セミーカタログ」の割合が増加する結果となっています。

外国作品はどうでしょうか。

外国作品においては、新曲と「セミーカタログ」の割合が内国作品の場合よりも高くなり、「カタログ(狭義)」を40%近くまで割り込ませる形となっています。

外国作品では新曲や「セミーカタログ」が健闘しているのに対して、内国作品では「カタログ(狭義)」が強い状況が見て取れます。

他にも特徴的な傾向が現れる分野はないでしょうか。

【2021年度】テレビ放送

テレビでは内国作品の新曲が使われています!
ドラマやアニメの主題歌のことを考えると当然のようにも思いますが、何だか安心しますね。

一転してテレビで流れる外国作品は圧倒的に「カタログ(狭義)」です。
まあこれも納得感はありますが、内国作品との対比が非常に鮮明です。

【2021年度】通信カラオケ

通信カラオケです。
こちらも納得の結果かもしれませんが、「カタログ(狭義)」が強いですね。

外国作品においては、「カタログ(狭義)」の強さがさらに際立ちます。

受動的な音楽体験となるテレビ放送では新曲が堅調ですが、配信や通信カラオケなど、ユーザが自ら楽曲を選択できる分野ほど、「カタログ(狭義)」が強くなっています。

当然といえば当然かもしれませんが、誰もが口ずさめる流行歌が絶え間なく生まれてきてほしいと強く感じます。

【2021年度】オーディオディスク

いわゆるフィジカル、CDやレコードの製作においては、内国作品では新曲の割合が圧倒的に高くなります。

レコード会社などのレコード製作者が、JASRACに使用料を支払うタイミングは、CDやレコードをプレスするタイミングです。CDショップでCDが売れたタイミングではありませんので、新たに製造されるCD・レコードにおいては、常に新曲の割合が高くなるのは当然ともいえます。

外国作品についても同様ですが、内国作品よりも「カタログ(狭義)」の割合が高くなっています。

【2021年度】インタラクティブ配信&オーディオディスク

最後に、配信とオーディオディスクを合算し、MRCデータの調査に近い条件で集計してみました。

「カタログ(広義)」の割合は内国作品で71.6%、外国作品では70.5%、ということで、冒頭にご紹介したMRCデータによる集計結果(69.8%)に近しい結果となりました。

ただし、インタラクティブ配信には、楽曲配信だけでなく、動画配信などインターネットでの音楽利用全般が含まれている点にご留意ください。

振り返り

KENDRIX Mediaをご覧いただいているクリエイターの皆さんとしては、根強い人気を誇る「カタログ」作品群に新曲でどう対峙していくか、ということを戦略的に考えていただく際に、まずはコンテンツを展開する分野ごとの傾向を把握していただければと思います。

自ずとロングテールな市場となるインタラクティブ配信での数値には過度に悲観的にならず、プロモーションチャンネルとして有効なプラットフォームと継続的な収益化が見込めるプラットフォームとを使い分け、それぞれに投入するコンテンツの中身を選別して効果的に展開する必要があるように感じます。

一方で、作品をプロモーションするマネジメント側の立場においては、「カタログ」を有効活用して収益化を図ることで、自らのビジネスだけでなく、クリエイター活動の持続可能性も高められると思いますので、KENDRIX Mediaでは引き続き有効な施策の実施に繋がるデータをご提供できればと思います。

この記事で「セミーカタログ」という呼び名を使っていたら、学生時代によく聴いていた Third Eye Blind『Semi-Charmed Life』(1997年リリース!)という楽曲のことをふと思い出しました。 これからサブスクで聴きたいと思います!

 

TEXT:KENDRIX Media 編集部

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