アーティストにぴったりのサインとは?プロに聞くサイン作りのコツ
アーティストが避けて通れないもののひとつが「サイン」です。
ファンに直接手渡すことも多く、どうせならかっこいいものにしたいと思っているアーティストも多いはず。
今回は日本でも数少ないサイン作りの専門家・林文武さんに、アーティストがサインを作るときのコツや書くときのポイントを伺いました。
<林文武さんプロフィール>
株式会社署名ドットコム 総合プロデューサー兼代表
2005年に署名ドットコムを創立し、サインデザインの分野でパイオニアとして活躍。
著書『サイン・署名のつくり方』(スモール出版)
https://www.syomei.com
サインを作る前にまずは名前をどう略すかを考える
――ずばり、いいサインとはどういうものなのでしょうか?
「実用性」「見た目」「人柄」という3つの条件がそろっているものですね。
実用性とは、書きやすく認識しやすいこと。見た目とは、美しいだけではなく、印象に残るデザインであることです。
最後の人柄とは、サインする人の人柄ですね。「おしゃれ」「かっこいい」「信頼できそう」など、その人の性格や思いが伝わるのがいいサインです。
――サインには読みやすいものと読みにくいものがありますが、どれくらい読めるのがいいサインなのでしょうか?
最初は読めないが、言われてみれば読めるのがベストです。
そのうえで、契約書やビジネスなどのフォーマルな場では、できれば読める方がいいです。
逆に、アーティストやクリエイターのサインは「その人が書いたもの」であることに価値があるので、あまり読めなくてもかまいませんよ。
――なるほど! 次に、サイン作りの流れについてお聞きしたいです。
まずは文字決めからスタートします。
サインというのは、フルネームじゃなくてもいいんです。「木村太郎」なら「たろう」「KT」などに省略してかまいません。 その方が早く書けますしね。
――「サインとはフルネームを書くもの」という先入観があったので目から鱗です! 省略する場合、何文字が適切なのでしょうか?
一番いいのは2文字です。短い方がデザインの幅が広がるんですよ。
それから、文字によっても違いがあります。小文字のアルファベットなら少し長くても大丈夫ですが、漢字なら2文字、それ以外なら4文字までが限界ですね。
――文字によっても作りやすさに違いがあるのでしょうか?
そうですね。一番作りやすいのは小文字のアルファベット、一番難しいのはカタカナと大文字のアルファベットです。
サインというのは、文字と文字を繋げて書くものなんです。
漢字・ひらがな・小文字アルファベットは繋げることができるんですが、カタカナ・大文字アルファベットは繋がらないので作りにくいんですよ。
――カタカナや大文字アルファベットのアーティストの場合、サインのときだけ略したり小文字に変えるといいのかもしれませんね!とても参考になります!
サインの3ステップを意識して作る
――今回は特別にメディアの名前「KENDRIX」(Kendrix)でサインをいくつか作ってもらいました。それぞれのパターンについてぜひ解説お願いしたいです!まずはこちらのサインから。
これはかなり書きやすいサインだと思います。
サインを書くには3つのステップがあります。「書き始め」「途中」「最後の締め」ですね。
書きやすいサインにするためには、「書き始め」を自分にとって書きやすい形にすることが大事です。このサインのように「V」でもいいし、大きな丸でも長い線でもいいので、とにかく一画目は、自分が好きだなと思う形にしてください。
それから「途中」に細かい丸などは入れない方がいいです。スペースをたっぷり使った大きな曲線や、直線がいいですね。
そして、「最後の締め」はできるだけ長い線にしてください。特に、直線だとラストにピークを持ってこれるので、書きやすくできますよ。
このサインはその3つのステップの条件を満たしていて、そのうえで右上がりにして躍動感を出しています。かっこよくて、書きやすいサインだと思いますよ。
――ひとつひとつの線に、プロのこだわりが詰め込まれているんですね。別バージョンとして「書くのは少し難しいがかっこいい」サインもお作りいただきました。
これはビジネスシーンでも使えるフォーマルなサインです。
特徴的なのはKendrixの「i」と「x」を残していること。どちらも形が特徴的なので、サインに読みやすさを足したいときに便利なんです。特に、アルファベットの中で唯一、点がある「i」は、入れるだけでサインを読みやすくできる文字ですね。
他に、Kendrixにはないのですが、「L」の小文字の「l」も使いやすいアルファベットです。高さを出すのに使ったり、大きく円にしたり、全体のバランスを整えつつ読みやすさを足せますよ。
サインを作るときは、こうした書きやすくて読みやすい文字をできるだけ残すのがコツです。
――文字ごとの特徴を使ってサインを考えていくんですね!他に、Kendrixに線を書き加えたバージョンもお作りいただきました。
これは文字の下にササッと線を足していますね。
この線があることでスペースが埋まり、全体のバランスをよくしています。
サインは省略するのが基本ですが、こうして線などを足すことで安定した見た目にすることもあるんですよ。
――サインってすごく奥が深くておもしろいですね。最後は、雰囲気が違う丸いサインです。
これは顔のように見えるユニークなサインですね。形が大きいので、色紙など四角形のものに書いたときに映えると思います。
そのままだとやわらかい雰囲気になりすぎるので、「x」を上に持っていくことで、少しシャープさを足しています。
――それぞれ違うコンセプトですが、どれもとても練られていてプロが作ったものだと感じます!
最初と最後の文字だけを残すのがコツ
――アルファベット以外の例として、なんと私のライター名の「まいしろ」でもサインをいくつか作っていただきました。こちらもぜひサインの意図や推しポイントをお聞きしたいです!
これは(まいしろが音楽ライターなので)音符をサインに入れています。
サインはその人の「かっこいい」「かわいい」といった人柄が現れている方がいいのですが、人柄を出す一番簡単な方法がマークを入れることです。
ただ、このタイプのサインは、実際に書くときにマークを描くことに意識が向きがちなんですね。あくまでサインがメインなので、マークやイラストは「余白に描く」ぐらいの気持ちでサインするといいです。
――自身のイメージをサインに入れたいアーティストは多いと思いますが、マーク以外の方法はありますか?
少し難しいですが、直線や曲線の量を調整する方法がありますよ。
かわいくしたいなら大きい曲線、力強くしたいなら長めの直線を入れると狙った雰囲気が出やすいです。
――難しそうですがぜひチャレンジしたくなるコツですね!続いては、「まいしろ」の文字をよりシンプルにしたサインです。
これはとにかく早く書きたい場合におすすめのサインですね。最初と最後だけを残して、あとの文字は崩しています。
これは4文字などの長い名前のときによくやる手法で、バランスが取りやすく早く書けるんですね。
読み手に伝わりやすいように、最初と最後の文字は残すのがおすすめです。
それから、(横書きの場合)左から右、(縦書きの場合)上から下に、といった具合に、本来の並び順に書く必要はありません。サインのどこかに、それぞれの文字が含まれていれば大丈夫です。
下のサインは「ま」の右隣に「ろ」がありますが、これでも「まいしろ」と読めるんですよ。
――サインってすごく自由なんですね!最後が、少しテイストが違う丸いサインです。
これは、曲線が得意な人におすすめのサインです。最後の一筆で全体のイメージが決まるのが特徴ですね。
曲線が大きいので、ボールやグローブなど、表面がカーブしているアイテムにはちょっと書きにくいかもしれません。
普段、色紙やCDへのサインが多い人におすすめですね。
――どれもいろんな工夫がされていて、さすがプロだと感じます!
サインを書くときは太いペンで大きく勢いよく
――ここまでサインのデザインについてお聞きしてきましたが、書くときのコツについてもお聞きしたいです。
まず、なるべく太めのペンを使ってください。
おすすめはペン先が太い四角になっているマジックペンですね。太さが変わるので線に強弱がつき、立体感やダイナミックさが出ます。
あとは丁寧に書こうとせずに、荒くてもいいので勢いよく書いてください。その方が迷いがなくてインパクトのあるサインになります。
――アーティストは色紙やCDといった正方形のものにサインすることが多いと思いますが、正方形のものに書くときのコツはありますか?
四角形のものに書くときは、中央かどこかの角に寄せて書くのが一番バランスが取りやすいです。
そのなかでも正方形の場合は、左右と上下が対称になるように中央に書くことで、より整った印象を与えることができます。
逆に、あえて対称性を崩すと、個性的な見た目になります。
そして、一番大事なことは大きく書くこと。それがもっとも印象に残りやすいです。
――アーティストの中には、サインをプロに頼むか自分で考えるか迷っている人も多いと思います。頼む場合は、どのタイミングがよいのでしょうか?
個人的には、最初は自分で考えて(メジャーやインディーズで)デビューするときにプロに作ってもらうのがおすすめです。
実際、有名人はこのパターンが多いです。ご両親からお祝いとしてプロのオリジナルサインを贈られることもありますね。
――これまで使っていたサインをベースに改善してもらうこともできるのでしょうか?
全然大丈夫です。非常に多い依頼ですよ。
その場合、いままで書いてきたサインを見て、その方のクセを残すようにしています。
曲線が得意、直線が好きといった傾向は人によって違うので、それを活かしたサインを作るように心がけています。
――今回の取材ではたくさんのサインを考えてもらいましたが、どういう基準でセレクトするのがよいのでしょうか?
書きやすさや使いやすさも重要ですが、一番大事なのは好きかどうかですね。
書きにくさは練習でなんとかなることが多いです。せっかくのサインですから、自分が好きだと思えるものを選ぶのが一番いいと思いますよ。
――サインをする機会が多いアーティストにとって、参考になるお話がたくさん聞けて大変おもしろかったです。本日はありがとうございました!
TEXT:まいしろ
(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
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