スマホによるライブ撮影の現状を整理する(後編)
〜モノリス法律事務所代表・河瀬季弁護士に聞く
フェスの本格シーズンがやってきた。
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行され、エンターテインメントの各現場でも、コロナ禍前と変わらない光景が戻りつつある現在。
ライブの現場に参加する機会が戻り、とにかく喜ばしい限りであるが、あるモヤモヤした気持ちも戻ってきてしまったと感じる。
それは「スマホによるライブ撮影」問題である。
あえて「問題」としたが、何が問題なのかといえば、出演者ごと、主催者と出演者、さらに観客同士でその是非に関する認識のズレがあり、しばしば混乱が生じていることである。
そこで、「スマホによるライブ撮影」の現状を整理したうえで、今後の方向性も検証してみたい。
後編は法律家の立場から、ITとエンターテインメントの分野を専門とするモノリス法律事務所の代表、河瀬季弁護士にお話を伺った。
なお、前編は主催者の立場から、クリエイティブマンプロダクションの代表取締役社長・清水直樹さんのお話である。
モノリス法律事務所
代表弁護士 河瀬 季(かわせ とき)
東京理科大学 工学部建築学科卒
東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 修了 2014年弁護士登録
ITエンジニア、IT企業経営の経験を経て、弁護士に転身。過去の経験を活かし、IT業界に特化したモノリス法律事務所を運営。IT・ベンチャー企業を中心に約463社の顧問弁護士等(役員、執行役員等各種契約を含む)を務め、また、計973社のクライアントに対して、IT・インターネット関連法務を手がける。
小説『デジタル・タトゥー』(NHK土曜ドラマ『デジタル・タトゥー』原案)や、『ITエンジニアのやさしい法律Q&A』などの執筆活動でも活躍。
写真と動画(楽曲を含む)で分けて考えよう
写真と動画で保存される情報が違います。法的な考え方も異なりますので、分けて考えてみましょう。
写真を撮るだけであれば「法律」では問題はないが「契約」でNG
写真撮影を禁止できる法律はありません。
著作権法という観点からも、写真の著作権は撮影者に帰属しますので、思い出に残すなどの私的利用はもちろん、SNSにアップするのも一般的には問題ありません。
では、何でだめなのかというと、チケットを購入した際の契約です。購入時の規約等に撮影禁止の項目があれば、その条件に同意した契約を結んだことになります。いわゆる定型約款と言われているもので、厳密に契約書でサインを交わしていなくても、社会通念上あまりにも変な内容でなければ有効と考えられます。例えばチケットの転売禁止などもそうですね。法律上はOKなことでも、この契約でNGとなるんです。
肖像権の側面でも問題とならない可能性が高い
肖像権の厳密な定義は難しいのですが、基本的には2つの観点があります。
プライバシー権とパブリシティ権です。それぞれ解説しますね。
《プライバシー権》
ある人物が特定の時間、特定の場所にいる、というようなプライバシー情報を保護するものです。アーティストが、予定通りの場所・時間で演奏を行なっているという情報はプライバシーでも何でもないですよね。よって、問題になり得ません。
《パブリシティ権》
この側面は、若干注意が必要です。本来はお金を払わないとOKしてもらえないような利用を、フリーライドしている場合などは権利侵害となります。アーティストのライブ写真を勝手に宣伝広告などに使った場合です。
ただ、判例から判断しても、『SNSにライブ写真を投稿してフォロワー増加を目論んだ』という程度では、権利侵害とは認められない可能性が高いです。
楽曲等を含んだ動画の場合は「法律」でもNGの可能性大
著作権法上、音楽には、作詞・作曲家の著作権と、実際に演奏するアーティストの著作隣接権とが別々に認められており、ライブを録音・録画する行為は、原則として、これらの権利をいずれも侵害するものとなります。しかし、著作権法では、ご自身で楽しむための録音・録画は認められています。いわゆる私的使用と言われているものです。
一方で、ライブを録音・録画した映像をSNSにアップするなどの行為は、著作権及び著作隣接権の侵害となる可能性が高いですね。SNSにアップした時点で、「私的」とは言えませんから。
しかし、楽曲を含む動画をSNSに投稿する行為のすべてがダメというわけではありません。SNSの運営者側がJASRACなどの著作権管理団体や権利者と許諾契約を結んでいる場合は、契約の範囲内の利用(例えば、「歌ってみた」動画で、歌詞や楽譜を基に自ら作成した音源を利用する場合など)は運営者側で権利処理がされているため、OKです。ただし、これは作詞・作曲家の著作権との関係の話であり、実際に演奏するアーティストの著作隣接権との関係では、このような制度は存在しません。
したがって、ライブを録画・録音したものをSNSに投稿することは、当該アーティストが許可しない限り、原則としてNGということになります。
なお、ライブの写真撮影については、動画と異なり、著作権法的には原則として自由に行うことが可能です。と言っても、「撮影禁止」とされている場合には、写真は契約に基づいて、動画は著作権法に基づいて、いずれもNGなので、結局ダメなんですけどね(笑)
(参考情報)
JASARCと利用許諾契約を締結しているUGCサービス一覧
https://www.jasrac.or.jp/news/20/ugc.html
撮影の可否を判断できるのは、アーティストではない?!
これが誤解されがちなところですが、まず、ライブでのルールを決めているのは、基本的にライブの運営者(≒主催者)です。
単独ライブであれば、運営者とアーティスト側の意思疎通は難しくありませんが、複数のアーティストが出演するフェスとなると大変です。あのアーティストはOKで、こっちはNG、と対応するのはかなりのコストがかかります。そのため、フェスの場合は運営側で一律NGとしているのが一般的です。出演者の一人が、ルールを決めることは難しいんです。
次に、音楽の著作権はアーティストが自身で持っていることは少なくて、多くの場合、音楽出版社や著作権管理団体(以下、権利者)に譲渡しています。つまり、その音楽の利用の許可を出せるのは、アーティスト本人ではなく、権利者なんです。当然、アーティストの意思は尊重されるべきだと思いますが、アーティストがSNS等で発信した内容を瞬時に権利者がキャッチするのは現状難しく、可否を判断できる権利者はNGという意思のまま、アーティストがOKと言ってしまう。その結果、ファンの間で混乱が生じるということは、起こりがちですね。
DXが進んで、アーティストがワンタップすれば、その情報がリアルタイムで権利者に伝わる。そんな時代になれば、もっと柔軟に対応できるようになるかもしれませんね。テクノロジー的には遠い未来ではないのではないでしょうか。
オンラインライブとリアルライブの不合理感
コロナ禍以降、オンラインライブも増えてきました。
オンラインの場合、家に警備員はいませんので、スクショも録画もし放題じゃないですか。でも、リアルライブだと警備員に止められる。それって、なんとなく不合理だなと感じます。
なぜなら、法的には、リアルでもオンラインでも、撮影しても良い度合いみたいなものは同じなんですよ。つまり、前述のとおり、著作権法的には、私的複製に当たる限りは適法だけど、契約的にはいずれにしてもダメなんですね。ですが、事実上、リアルでは警備員に止められ、オンラインでは誰からも止められずに録画できちゃう。しかも、チケット代はリアルの方が高いことが多いですよね。
とはいえ、TikTokでライブ動画を見たから、リアルに行かなくていいやって思う人は少ないと思うんです。8Kでライブをフルに撮影した動画、などであれば話は別ですが、そんな訳ないですし。ですので、少なくとも今のところ、大きな問題となるケースは少ないと思いますし、私の記憶でもないですね。
様々な問題はテクノロジーが解決してくれる!?
主催者やアーティスト側から考えると、ルールをきちんと守ってくれるファンに来てほしいんです。当然ですよね。
仮に、写真撮影も絶対NGだ!というアーティストがいたとしますよね。
ファンが会場で写真を撮っている時に、その場で警備員に見つかると写真は削除させられたり、没収されたりしますが、その場ではバレずに、SNS等にアップした場合、その写真を削除してもらうのは、実は難しいんです。
SNSの運営者に対して、この写真は契約違反によって撮られたものだから削除してほしいって言えないんです。なぜなら、SNSの運営者は、アップした人とライブ主催者との契約には縛られません。
ライブの写真そのものには、法的に何の問題もありませんから、SNS運営者が削除することはないですよね。
いかに問題行動を取らないファンを優先的に呼ぶか。
これは、テクノロジーが解決してくれるかもしれません。現金決済の時代は、過去に問題を起こしたファンを出禁にすることは難しかった。データの蓄積がありませんので判断できない。
これが、オンライン決済になると、問題行動をおこしたファンをブロックすることが可能になります。良質なファン・悪質なファンを判別・スコアリングしトレースできる。一度ブラックリストに載ってしまうと、戻るのは結構大変になるでしょうね。ある意味、怖い社会かもしれません。
エンターテインメントじゃない分野では常識になりつつありますので、エンタメ業界でも、そうなって行くのではないかと思います。
ルールを実行するためのルールは、時代に合せて変えていくべき
これまで述べてきたようなライブの無断撮影に関する問題点については、よく「法律が追いついていないんじゃないか」みたいなことが言われますが、時代にあわせて変えるべきことと、変えてはいけないことがあると思っています。
さきほどから言っている「ルール」って、三層くらいレイヤーがあると思うんです。そのレイヤーごとに変えることのハードルが異なっていて、レイヤーに応じて、柔軟に対応していくのが理想なのではないかと考えています。簡単に説明しますね。
第1レイヤー:
基本思想のことです。
例えば、所有権という概念は古代ローマ法には既に存在していましたし、著作者に一定の権利を付与するという現代の著作権法の原形とされるアン法は、1710年に制定されています。
こういった基本思想を変える必要は基本的にはなくて、むしろこの基本思想を常に実行させるために、第2、第3レイヤーを変えていくんだと思います。
第2レイヤー:
基本思想(第1レイヤー)を実現するためのルールのことです。
法律の条項が該当します。著作権法で言えば、30条以下の例外規定などがこれに当たります。社会の変化に応じて、しばしば変えていく必要があるものです。
第3レイヤー:
もっと細かい、個々のライブのチケット購入条項やJASRACの使用料規程などのことです。
ここは頻繁にそれこそライブの都度変わってもおかしくないものもあるんじゃないでしょうか。
第1レイヤーに当たる根本思想は変える必要はないと思うんです。
演奏会、劇、小説って、現代においても300年前でも本質は同じですよね。芸術家達を守るんだ、という本質も変わりません。今までオフライン環境で守られてきた本質は、オンラインという新しい環境でも守られるべきです。本質的なルールを実行するために、第2、第3レイヤーのルールは調整が必要だと思います。
まさにライブの撮影に関しては、第3レイヤーのルールですから、時代とともに見直されていく、今後は主催者やアーティストの意向を踏まえて、柔軟にカスタマイズされながら運用されていく、ということは必至ではないかと思います。
前編は こちら から。
TEXT:児玉澄子
PHOTO:和田貴光
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