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心理学者に盛り上げ方を聞いてみる

ライブの盛り上げ方の必勝法を知りたい!
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ナレッジ

ライブに行くと、いろんな盛り上げ方があることに驚かされる。

全員で手拍子する、踊るといった基本的なものの他にも、ライブでしかやらないようなモッシュ・ダイブといった独特の方法もある。

種々様々なライブの盛り上げ方だが、特に効果的なものは何なのか、どういう盛り上げ方が一番よいのか。
音楽と心理学に詳しい大阪樟蔭女子大学・山崎晃男教授に、ライブの盛り上げ方について心理学の観点から語ってもらった。

山崎晃男(やまさき てるお)

大阪樟蔭女子大学 学芸学部 心理学科教授
専門は音楽心理学。

音楽による感情の表出と伝達、合奏の心理的効果、音楽と映像の相互作用、BGMの効果などについて研究している。

長年にわたってインドネシアのガムラン音楽の演奏、創作活動もおこなっており、最近2枚目のオリジナルCDを制作。

ライブを盛り上げる「必勝法」はないが「ポイント」はある

今回は、ライブを盛り上げる方法を心理学のプロにお伺いしたいと思っています。

これは本当に難しくて正直、答えはないですね。

—ライブを絶対に盛り上げる必勝法は、残念ながらないということですね…!

ただ、心理学的には「同じ動きをすると仲間意識が高まる」と言われています。

たとえば、心理学の実験で何人かが輪になって座り、リズムに合わせて手を叩くというものがあります。

このとき、背中を向けて自分だけで手を叩くと仲間意識は高まりません。でも、逆に向かい合ってお互いが見える状態で手を叩くと、仲間意識が高まるという結果が出ています。

こういう実験はたくさんあって、人は自分と同じ動きをしている他の人のことをより考えるようになる傾向があるんですよ。

—ライブでは「みんなに歌わせる」「手を振らせる」といった演出がよくありますが、あれは心理学的にも理にかなっているんですね!

それから、「もっと盛り上がりたい」「少し様子を見たい」というのがライブごとに違うと思うので、そのとき観客が望んでいることのちょっと上をやらせるといいのかもしれません。

—すごく盛り上がっているライブではもっと歌ってもらう、様子を見ている人が多いライブではまず手拍子をしてもらう、といったワンランク上を目指す盛り上げ方が効果的なんですね。

あとは、リズムがすごく大事だと思います。

心理学では、リズムを聴いてそれに合わせる能力を「エントレインメント」といいます。そして、人間は2歳になるまでにはこの能力を身につけていると言われています。

エントレインメントは社会的な結びつきを強めるので、「リズムに合わせた動きをさせる」というのは非常に効果的だと思いますよ。

—必勝法はないと言いつつ、盛り上げるための具体的なコツがどんどん出てきてすごいです!

リズムに関してつけ加えると、お客さんに何かをやらせるときは、リズムは簡単すぎず難しすぎずがいいですね。

基本的に、リズムは速い方が人間は興奮すると言われています。でも、(速くて)難しすぎるとリズムに合わせられず、快感が薄くなってしまいます。

人は「ちょっと難しい」ぐらいのことが出来ると快感を感じるので、手拍子をするときなどはそれを意識するといいですね。

—「手拍子をさせる」「手を振らせる」「歌わせる」などライブの演出にはいろんなものがありますが、心理学的に特におすすめの演出はありますか?

正確に比較した研究結果がないのでなんともいえないですが、違う種類の動きを組み合わせると強力な一体感を生み出せると思います。

たとえば「歌わせながら手拍子をしてもらう」「手を振りながらコール&レスポンスをしてもらう」といったものですね。

特に、声を出しながら身体を動かす動作は演出としていいかもしれません

—ライブを盛り上げるヒントをたくさんお聞きできて嬉しいです!

ライブで普段やらないことをやってしまうのは「リスキーシフト」

—続いて、「ライブあるある」がなぜ起きるのかをお聞きしていきます!まずは、「ライブでは大声を出したり暴れたり、普段だとやらないことをついついしてしまいますが、あれはなぜなのでしょうか?」

社会心理学でいう「リスキーシフト」が起きているんだと思います。

—ライブでの盛り上がりすぎが、そんな格好いい言葉で表されていたとは……!

リスキーシフトは、集団が強く大きくまとまっているほど、極端な決定をしてしまうという現象です。集団がしっかりまとまっていると、反対意見が出にくいことが関係しています。

ライブの場合は、「楽しみたい」「盛り上がりたい」という人が集まっているので、普段と比べると極端な行動をしてしまうんだと思います。

もちろん演出にもよりますが、基本的にはファンコミュニティが強いミュージシャンのライブであればあるほど、普段はやらない行為が起きやすいはずです。

—なるほど!続いての質問は、「ライブで周りの人と違う動きをしてしまったとき、すごく恥ずかしい気持ちになることがあるのはなぜでしょうか?」

ライブのとき、私たちは音楽や同じ動きによって「自分たちは仲間だ」と思っていることが多いです。

その中で違う行動をしてしまうと、「自分は仲間はずれだ」「周りの人に自分は仲間はずれだと思われている」という気持ちがわいてくるので、居心地の悪さを感じるんですね。

—同じように、ライブで冷めている人を見つけると、少し我に返ったり恥ずかしい気持ちになるのはなぜでしょうか?

いろんな理由が考えられますが、「ここにいる全員が仲間ではない」というサインになるからだと思います。

自分と仲間ではない人が混じると集団の凝集性がさがるので、そこに気まずさを感じるものと思われます。

—ライブは国内だけでなく海外でも人気ですが、盛り上げ方は似ていることが多いです。ライブの盛り上がり方は万国共通なのでしょうか? 

音楽が人に与える影響は、場所や生まれが違っても、ある程度は同じだとされています。

私も参加した心理学の実験で、いろんな国籍の人に音楽を聞いてもらい、「この音楽は何を表していますか?」という質問をしたものがあります。

それによれば、「喜び」「悲しみ」といった音楽から感じる基本的な感情は国によらず共通しているそうです。一方で、「ユーモラス」「スピリチュアル」といった複雑な感情は国によってばらつきがあります。

なので、ライブの盛り上げ方は国や場所を越えて楽しめるものと、その地域特有のものが混じっていると考えるのが妥当です。

—普段ライブで感じること、疑問に思っていたことをわかりやすく説明してもらえてとてもおもしろいです!

私達が音楽を聴くのは「集団に合わせながら個人として生きるため」

—最後は、ちょっと踏み込んだ内容をお聞きしていきます。そもそも、私たちはなぜ音楽を聴くのでしょうか?

これは人間の根源的な問題ですね。

昔は「そんなことわかるはずがない」と言われてましたが、20世紀の終わりぐらいから、この分野も研究が進んでいます。

—すごい! どんな研究結果が出ているのでしょうか?

まず、私たち人間が喜びを感じるのは、おいしいものを食べたり良いものをもらったり、なにか自分にとってプラスのことがあったときです。でも、音楽って聴いてもそれだけでは(客観的に見て)プラスにはならないんですよ。

でも、音楽を聴いて喜びを感じる人は歴史的にも世界的にもたくさんいる。

プラスにならないものに、こんなにたくさんの人が喜びを感じるというのがずっと(心理学では)ミステリーだったんですね。

これについて、最近では「音楽は人間の集団と個人の葛藤をうまくおさめる」プラスの効果があるという説が出てきています。

—「音楽は人間の集団と個人の葛藤をうまくおさめる」…!?

人間というのは、いろんな他人と一緒に集団で暮らす生き物です。
でも一方で、人間は「個人それぞれが生き残る」という戦略を取っている生き物なんです。

人間とは違う例を出すと、ハチは女王蜂がどんどん子どもを産んで、それ以外のハチは働き続けて死にますよね。彼らは、個人が死んだとしても、集団で生き残るという戦略を取っています。

しかし人間はハチとは違って、集団でも個人でも生き残ろうとします。つまり、私たち人間は集団に合わせながら個人としても生き残らないといけないんです。

—人間は、集団のメンバーとして生きることと、個人として生きることを常に両立させないといけない生き物なんですね。

そうなんです。そこに人間の根本的な葛藤があるんですよ。

そう考えた時、音楽は集団の仲間意識を生み出したり、他人に共感して集団と個人を繋げたりするのに役立ちます。つまり、音楽は人間の生まれながらのつらい葛藤をうまく解決するというプラスがあるんですよ。

これが、世界中で音楽が聴かれている理由ではないかという説があります。

—ライブの盛り上げ方の話から、すごく壮大な人類の話になってきました……!ライブのよくある褒め言葉として「一体感がある」という言葉がありますが、まさにあの一体感が人間が音楽を聴く理由のひとつだったんですね。

そうですね。心理学では、自分が属している・属したいと思っている集団のことを「内集団」と呼びます。

ライブでは同じ動きをしたり、一緒に歌うことが多いですよね。それによってこの内集団がより強く結びつくので、参加者はその集団と個人の葛藤の解消に喜びを感じているんだと思います。

—普段から集団で生きることにつらさを感じている人の方が、音楽に魅力を感じやすいのでしょうか?

集団に生きづらさを感じる人の方が音楽を好きという正確なデータはありません。ただ、共感性が高い人の方がライブを好きになりやすいという傾向はあると感じています。

おもしろい実験があって、機械と一緒に演奏をしたときと、人間と一緒に演奏をしたときの結果を比較したものがあるんです。

簡単なメロディを一緒に弾いてもらうんですけど、共感性が高い人は人間と、共感性が低い人は機械と演奏した方がうまく合わせられるそうです。


富永仁志(2019) 博士学位論文 京都大学

Mutual=複数の人間で演奏、Individual=一人の人間が機械と演奏
Empathy(共感性)が高い場合(+1SD)は、Mutualの方がタイムラグが少なく(演奏が合い)、Empathyが低い場合(-1SD)は、Individualの方がタイムラグが少ない

「葛藤を感じずに他者とうまく合わせられる」のが音楽の魅力だとすると、共感性が高い人の方が音楽を通して周囲にうまく合わせられるし、それによって音楽を楽しむことにより喜びを感じられるのかもしれません。

—普段考えたことがない角度から音楽やライブを考察されていて、大変おもしろかったです。本日はありがとうございました!

TEXT:まいしろ

(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
Twittter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.com/maishilo

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