アンサリー インタビュー(後編)
~シンガー・ソングライター・ドクター 前例のない道の歩き方~
内科医として勤務しながらシンガー・ソングライターとして創作活動、ライブ活動を行っているアンサリーさん。
コロナ禍における医療と音楽活動の変化、異色の兼業スタイルが生まれた経緯などをお聞きした 前編 に続き、後編では日々のストレスとの向き合い方、緊張の克服方法、さらには著作権に関する話題まで、幅広く貴重なお話を聞かせてくださいました。
(プロフィール)
アンサリー
シンガー・ソングライター・ドクター
2001年、研修医として勤務する傍ら、アルバム『Voyage』でデビューする。翌年にニューオリンズに留学し、循環器内科の研究の傍ら本場のジャズに触れる3年間を過ごす。その間に発売したアルバム『Day Dream』『Moon Dance』が『Voyage』と共にロングセラーとなり、その後も多くのアルバムやCM・映画主題歌などを歌唱。ライブ活動も積極的に行い、日本各地で歌声を届け続けている。
医療の現場は、想定外の事態、命と向き合う責任感でストレスも多いと思います。
ストレスとうまく付き合う秘訣はありますか?
秘訣という秘訣はないのかも知れません。駆け出しの頃は、医療現場で起こる出来事を心で消化しきれないということもしばしばありました。時間とともに仕事自体には慣れていくのですが、人の病死にはいつまでも慣れることはありません。時には患者さんと一緒に泣いてしまうこともあるのですが、医師が見せるそういう生身の人間の姿は、患者さんやご家族にとって喜ばしいことなのではないかと思います。
たとえ医師であっても、人間らしい感情を患者さんやご家族に見せることは決して悪いことではないと思っています。これまでの経験の積み重ねで、少しずつバランス良く受け止められるようになってきました。
あえて慣れずに、一つ一つフレッシュな気持ちで向き合ってらっしゃるんですね。
今でも白衣を着て鏡に映る自分の姿を見て、ふと不思議に思ってしまう時があります。医療という責任のある仕事をしているのだと、改めて襟を正すような瞬間です。音楽と医療を並行しているために、それぞれをより新鮮に捉えやすいのかも知れませんね。
歌う時も同じで、遠方から労力をかけて来てくださったり、色んな体調だったり、思いを持って来てくださった方々が集まっていると思うと、改めて畏れのようなものを感じて、一音一音を大切にお届けしたいという気持ちでステージに立っています。
多忙な毎日の時間の使い方について教えてください。
どのようなスケジュールをこなしてらっしゃるのでしょうか。
平日は内科医として働いていますが、子供たちの成長に合わせて働き方を工夫してきました。主に平日に医師の勤務、週末に音楽活動をしていますが、子供が成長するにつれて勤務時間を徐々に増やしていきました。コロナ禍で音楽活動が減った時期、医療現場は人手が足りない状況だったので、結果勤務時間が増え、現在もそのままなので、音楽活動が復活してきた今、結果的にコロナ前より忙しくなってしまっています(笑)。
地方公演のオファーがあれば、週末に往復できる範囲で日本全国に行っています。
月曜から通常出勤なので、日曜には帰宅せねばならず、津々浦々をツアーして回るのは難しく、週末毎の往復です。勤務先に衣装入りのスーツケースを持参し、勤務後その足で地方へ移動したりもしています。
平日は医療、休日は音楽と切り替えられているのでしょうか
実は、あまり切り替えを意識したことはないんです。
それぞれの仕事が相互に気分転換になっているのかもしれません。以前は体力もあって若さで乗り切れたものも、年月とともに体調に波が出やすくなったり、万全でない状態で演奏に臨まなければいけないこともある。なので、毎日ウォーキングやストレッチなどで身体を整えたり、なるべく少しでも発声練習をしたり、医療も音楽も地続きで並行してやっている感じで、切り替えている感覚があまりないですね。
仕事を二つやっている利点かもしれませんが、もう音楽を聴きたくなくなったり、イヤになることが本当になくて、いつも何かしら音楽に触れたいと思っています。診療所への通勤とか、料理をしながら音楽を聴いたり、隙間時間でできることをやっています。
体の構造を熟知されている内科医であるが故に実践できている歌唱法というものがあったりしますか?
歌唱法というのは、特に関係ないかもしれませんが、医師としての心の持ちようみたいなものが歌う時に役に立っていると思うことはあります。
医療の現場では、慌てるべき事態が起きて内心ではどうしようかと思っていても、パニックにならずに冷静な判断をしなければいけない。そのために、喉元に持ち上がってしまう気持ちをぐーっとお腹の下の方へ鎮めて落ち着かせる必要があります。
大勢の観客を前に舞台に立つという状況で、いかに気持ちを落ち着かせ本来のパフォーマンスをするかという時に、とても役に立ってるという気がします。
幼少期はすごーくシャイだったとか。
そうなんです。今でも医師としての発表とか、人前で発言することが苦手なんです。そんな私が大勢の前で歌っているというのは不思議ですよね。歌うことって、心を解き放った露わな姿を見せることだと思うんです。表現として自由であればあるほど美しいのですが、医師としてはなかなかそうは行きませんので、そういう意味では真逆ですよね。
みんなで心を解き放てる、それがライブの醍醐味ですね。
ライブは現代の「祭」なのだなと思います。
かつての祭りのように人々の心を掻き混ぜたり、解き放てる機会が少なくなっている中で、ライブという場にはそれがあるのではないかと思います。生身の人間が奏でる音と音の重なりから起こる化学反応。どんなに素晴らしい音源でもライブから受ける祝祭感、高揚感は得難いですよね。コロナ禍でライブができなくなり、その後制限が緩和された久しぶりのライブでのお客様の熱量・集中力に触れて、みながこういう場を求めてたのだなと感激したことを覚えています。
音源といえば、アンサリーさんのCDは基本的にオフィシャルサイトでの販売のみですね。サブスクや店舗に流通させていない意図はあるのでしょうか?
現在の主流は、サブスクで聞いて知ってもらい、ライブに来てもらう流れなのかと思いますが、私自身は認知度を広げるよりは、知る人ぞ知る存在でいいなと思ってやってきました。デビュー当初から、医師との二足のわらじだったので、むしろプロモーションして広げずに、何者かわからない感じのままがいいなと思っていたもので。
でも、サブスクは世界中の人がアクセスできて、おもしろい出会いがあるのかもしれないですね。今後は色々と模索したいと思います。
『時間旅行』はYouTubeで100万回以上再生されていますね!
どなたかがあげてくださったようで…、オフィシャルじゃないものが多いのですが…
YouTubeでの再生って著作権料はどうなるのでしょうか?
JASRACとGoogle社で、YouTube上でのJASRAC管理曲の利用について包括契約を締結しています。その契約に基づいて、Google社から動画で利用された楽曲報告をいただいていますので、基本的にはそのデータに基づいて、利用された楽曲の権利者の方に分配しています。
ただ、YouTubeの全ての動画の利用状況をくまなく把握することは難しいため、権利者の方からご提出いただくYouTube連絡票というフォームもご用意しています。自身の楽曲が利用されている動画のURLと作品情報などをご報告いただくと、その動画の再生回数に応じて使用料が分配されます。
私はJASRACと契約するのが遅かったので、もう少し早く気が付いていれば…と悔やまれますね(笑)。
曲は結構以前から書いていて、著作権の契約はどうしたらいいんだろう…と気になってはいたのですが、具体的にアクションしないまま長く過ごしてしまいました。
高木正勝さん作曲の、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の劇中歌の歌詞を書いていた頃に、ふとJASRACと契約したほうがいいのかなぁと思い、周りのミュージシャンにもアドバイスされたこともあり、長年の重い腰を挙げたという経緯です。
高木正勝さんとは「おかえりモネ」の前にも「おおかみこどもの雨と雪」など様々な作品でご一緒されていますね。
以前には「おおかみこどもの雨と雪」のエンディング曲で初めてご一緒しました。私のアルバムを聞いて声を気に入ってくださり、お誘い頂いたことをきっかけに、その後も録音や演奏会などでもご一緒させて頂いています。お会いすると、お互いの自然児の部分が共鳴し合って、唯一無二の世界観に仕上がっていくのがとても楽しいです。「おかえりモネ」の挿入歌は、もともと詞はなくて、ハミングで歌う予定だったのですが、せっかくだから詞も書いてみませんか、と言ってくださって。
高木さんの自然に囲まれた暮らしの中から、既存の音楽理論に囚われず自然に降りてきたメロディーがあり、それを繰り返し聴きながら裏山の自然道をぐるぐる歩き、メロディーが引き寄せるように降りてくる言葉を紡いでいきました。そこから、編曲チームとの共同作業で一つ一つの作品として形作られていく過程に立ち会えたのは幸せな時間でした。
最後に、アンサリーさんのように音楽も仕事にすることを目指す方々へのメッセージをお願いします。
いいアドバイスになるといいのですが(笑)。
とてもシンプルで、自分の中から湧いてくる声を大切にする、ということに尽きると思います。社会ではこういう生き方、こういう社会人であるべきという既成概念にのみ込まれず、好きだと思うことをしぶとくやり続けること。
内側から湧き出てくる好きだ、楽しいという声に従うことで発揮できるパワーとストレス耐性は強いものがあります。好きこそものの上手なれということですよね。
あとは、前例がないことでも取り敢えずやってみるということでしょうか。
私の場合、医師で歌手で、CDをリリース、という方が周りにはいなかったので、誰にも相談できず独り藪の中を掻き分けるようにしてやってきましたが、前例がないためにかえって周りにも受け入れやすかったのかも知れないですね。
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事前に応募規約を必ずお読みください。
【応募期限:2023年6月30日(金)23:59まで】
<取材協力>
店名 CAFE crock
所在地 埼玉県飯能市仲町10-28
TEL 080-6530-5620
Instagram @cafe_crock
営業時間
日・月 11:00〜17:00
木・金・土 11:00〜19:30
定休日 火・水曜日
今回、こちらのお店でアンサリーさんのお話を伺いました。
たくさんの本に囲まれてジャズを楽しめるカフェで、元数学教師のマスター特製のカレーが絶品です。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
PHOTO:和田貴光
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