映画は効果音で出来ている!映像の音の作り方をプロに聞く

映画作りで大事なものといえばなんだろうか。
キャスト、ストーリー、セットなど、いろいろな要素があるが、それらとともに映像のクオリティを支えているのが「効果音」だ。
普段は気が付かないが、映像には欠かせないものである「効果音」。今回は、そんな知られざる効果音がどう生まれているのか、音響効果のプロである小島彩さんに伺った。
<小島彩プロフィール>
高校卒業後、日活撮影所内に営業所を構える音響効果制作プロダクション「カモメファン」に入社。同撮影所の多くの作品の音響効果を手掛ける。
2018年に独立し、沖縄に在住しながらフリーランスとして活動中。
代表作:『HiGH&LOW THE WORST X』(2022)、『何者』(2016)、『舟を編む』(2013)、『天地明察』(2012)、 『おくりびと』 (2008)、『ブタがいた教室』(2008)、『さくらん』(2007)、『陽気なギャングが地球を回す』(2006)
※聞き手:まいしろ(エンタメライター)
映像のセリフと音楽以外はすべて「ねらって入れた効果音」
まいしろ(以下、まい):今日はよろしくお願いします!まず、小島さんはどういう経緯で効果音のお仕事を始められたのでしょうか?
小島彩(以下、小島):父が日本一の効果音技師と呼ばれていたんですよ。それで、その後を継ごうと思って、高校を卒業してから効果音の会社でアシスタントとして働きました。
まい:手掛けた作品のなかで特に印象的なものはありますか?
小島:自分が関わった作品の中で、もっとも皆さんに知られているのは映画『おくりびと』だと思います。一番の代表作かなと思いますね。
まい:会社を経て、いまはフリーとしてご活躍されていますね。
小島:そうですね。映画をメインとしながら、ドラマ・CM・ライブの効果音などを手掛けています
まい:ライブの効果音などのお仕事もあるんですね
小島:ライブの場合は、曲の間に街の音を流したり、ライブの映像に音をつけたりしています。あとはダンスアクションに音をつける仕事もありますね。
まい:ライブの効果音はどうやって決めていくのですか?
小島:私の場合は、演出さんと話し合って決めていきます。もちろん1回では決まらないので、「サイレンの音を目立たせた街の音が欲しい」といったやりとりをしながら決めていますね。
まい:なるほど。では映像の効果音のつくり方についてお聞きしていきたいです。映画の効果音は、具体的にどうやって作られているのでしょうか?
小島:まず、映画にある音はセリフと音楽以外すべて効果音なんですね。
まい:思ってたよりほとんど効果音なんですね…!
小島:現場で(意図せず)入ったという音もありますけど、基本は足跡も衣擦れも、すべてあとからつけたものなんですよ。
まい:足音すら制作者がねらって入れた音なんですね。どこにどの音をつけるかは、どうやって決められているのでしょうか?
小島:まずは監督と打ち合わせをして、「この場所は近くに工場がある」「線路沿いの家です」といった設定をいただきます。
そのあと、現場音だけの映像を見ながら「ここにこの音をつける」とメモをしていきます。最後にそれを監督に伝えて、相談をしてそれぞれのシーンの音構成が決まりますね。
まい:シーンに合わせた音はどうやって作っているのでしょうか?
小島:過去の作品で録音部さんが録音してくれた音、自分たちが作った音、さらに販売されているライブラリー音源があるんです。そこに 何十万という音があるので、そこから選んで組み合わせます。
そのまま使うのではなく、たとえば風の音なら「ヒュー」という音と「ボー」という音を組み合わせてイメージする音を作る、というイメージです。
まい:まさに音のプロだ…!ライブラリーを使わずに、生音で効果音を作ることもあるのでしょうか?
小島:たとえば、ホラー作品などで内臓がぐちゃぐちゃになるシーンでは、こんにゃくなどを使います。
ホラーの音の正体。
まい:ホラーが苦手なんですが、こんにゃくだと聞いて急に観れる気がしてきました
小島:ただ、生音というのは、基本的には足音・食器・衣擦れといった音がメインなんですよ。あとは、ライブラリーでうまく表現できないときに、生音と組み合わせて使ったりしますね。
まい:普段気にしなかった効果音のことをたくさん知れておもしろいです!
足音や衣擦れの音も感情にあわせて変えている
まい:効果音づくりで特に難しいところはどこですか?
小島:「自然に見せる」というのがやっぱり一番難しいです。何も考えずに観賞して「よかったね」と思えるようにするのが大事なんですね。
まい:確かに、普段映画を観て効果音を気にすることはないですね…!
小島:効果音は目立たず、ストーリーに引き込まれるのがいい映画だと思います。そもそも、効果音というのは感情にあわせてつけているんです。
まい:感情にあわせて音をつける…!?
小島:たとえば足音ひとつでも、悲しんでいるときは静かになるし、怒っていればドスドスした足音になります。そのまま映像に音をつけるだけだと感情が乗っからないので、シーンにあわせてつけていくんですね。
まい:考えたこともなかったですが、そうやって調整された音を私たちは聞いていたんですね!キャラクターごとにつける効果音を変えることもあるのでしょうか?
小島:キャラの個性にあわせて変える、ということはあまりやらないです。ただ、明るい人の場合は音をたくさんつけたり、静かな人の場合は周りの音をたくさんつけたり、といった流れの中での調整をすることはありますね。
まい:効果音にもトレンドや流行はあるのでしょうか?
小島:細かいトレンドはないんですけど、フィルムとデジタルで違いはあります。フィルムの映像の場合、(1つのシーンに)音が1つしか入れられない、ということもあったんです。
でも、いまはコンピュータで音を重ねられるので、簡単な水の音でも重ねた音で表現したりしています。大変ですけど、より臨場感が出るしリアルになりました。
まい:フィルムならではの良さもありますか?
小島:フィルムは、暖かくて優しい音がするのがいいところですね。あとは、たくさん音をつけられないので、大切な音だけを見極めてつけてあるのもおもしろいです。
まい:通の楽しみ方ですね…!効果音をつけるとき、先にストーリーや脚本も読み込むのでしょうか?
小島:私はインスピレーションを重視している方なので、まずは(効果音が入っていない)映像をフラットに見て音を考えることが多いです。
まい:最初から映像ありきで考えられているんですね!
小島:台本を読むと、その時点でいろんな音が思い浮かんでしまうんですね。そうすると影像を見た時にフレッシュな感覚で見れないので、逆に読まないようにしてるんです。
まい:おもしろいですね。「映像の縁の下の力もち」という印象を受けますが、効果音をやっていて特に楽しいことはなんでしょうか?
小島:音がピタッとはまったときが嬉しいです。
「この主人公の感情を表すためには、どんな音を入れたらいいんだろう?」と考えて、もやもやして悩んだ後に「あ、飛行機の音を入れたら盛り上がってるように感じるかも!」って思いついたときは「やった!」と思いますね
まい:すごい…!一度味わってみたい一瞬ですね!
普段から周りの音を気にして録音している
まい:効果音を制作される方って、年間でどれくらいの作品を手がけられるものなのでしょうか?
小島:人によりますが、私は年に3〜4本ぐらいですね。作品がかぶってしまうと、集中できなくなってしまうんです。特に、シリアスな作品とコメディ作品がかぶるとぐちゃぐちゃになってしまって(笑)
まい:一本集中で作られてるんですね!効果音が多いジャンル、少ないジャンルというのはあるのでしょうか?
小島:音の数はわからないけれど、恋愛ドラマのような日常生活を舞台にした作品に比べると、CGが多い映画は音を作るのに時間がかかります。モンスターが出てきたり、カーアクションだったりすると音に悩みますね。
まい:単純に「音が多い映画だと大変」というわけではないんですね。プロの方にお伺いすることでもないのですが、「ここに音を入れるのを忘れてた!」ということはないのでしょうか…?
小島:あります、あります!
まい:あるんですね!
小島:ドアの閉まる音や、スマホの鳴る音のような「映像になっている音」はつい抜けちゃうんですよね(笑)。仕上げの最中にみんなで映像を観たときに気づいて、後から入れることはありますよ。
まい:ちょっと安心しました。普段、映画を観るときも効果音を気にされていますか?
小島:気にしないようにしていますね。ただ、同じライブラリーの音を使っていると気になることはあります。「あ、この音の素材なら私も持ってる!」って思います(笑)
まい:わかっちゃうんですね!普段の生活でついつい音が気になってしまうこともあるのでしょうか?
小島:ありますね!この前も、自分の靴がとてもいい足音で、「今度使おう!」と思いました(笑)あとは、空港のチャイムの音が変わったりしたら、録音して記録するようにしています。
まい:まさに職業病ですね…!録音した音をそのまま映像で使うこともあるのでしょうか?
小島:参考にするだけのこともあるし、使うこともあります。ノイズが入っていて使えないこともあるので、そういうときは生音で録音してもらうこともあります。
まい:なるほど。音楽との関連についてもお聞きしたいのですが、音楽から効果音のインスピレーションを受けることもありますか?
小島:ありますね!初めて聞く楽器の音なんかはどうしても使いたくなります。
まい:映像だと、効果音とは別にBGMがついていますが、どうやって音楽と音のバランスを取られていますか?
小島:映画の場合、効果音と音楽は同時並行で作るんですよ
まい:どちらかを先に作るわけではないんですね!
小島:せーので効果音と音楽をあわせて、ぶつかるところがあったら効果音の方を削ることが多いです。
どちらも消しにくい時はタイミングをずらしたりして、映像を観ながらみんなで検討していきます。
まい:おもしろいです。最後に、小島さん自身の「こういう効果音師になりたい」という目標があれば教えてください!
小島:自分がアシスタントだった頃、効果音が入っていない映像に先輩が音をつけた瞬間、すごく華やかになって見えたんです。本当に、真っ白な塗り絵に、色がついたみたいに感じるんですよ。先輩のそういう仕事を見て「うわー!」って感動していたから、自分もそうなりたいといまもずっと思っています。
まい:素敵ですね!本日はありがとうございました!
TEXT:まいしろ
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
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