Frasco タカノシンヤ インタビュー
~仕事も音楽も自分のやりたいことを(後編)
会社員として働きながら音楽活動を続けているタカノシンヤさん。
前編 では、タカノさんの波乱万丈でドラマチックな経歴と、作詞・作曲法について伺いました。
後編では、あえて仕事と音楽を1:1の割合で混ぜ合わせてしまうという「カフェオレ理論」を中心に、会社員として働きながら音楽活動に取り組むタカノさんの考え方に迫ります。
(プロフィール)
タカノシンヤ
作詞家・作曲家
2015年に峰らる(Vo.)と音楽ユニットFrascoを結成。2018年には5ヶ月間で10曲のシングル作品を連続リリースし、シングルで作るアルバム仕様のプレイリスト=Sinbum(シンバム)『REM』として完結させるプロジェクトを敢行。
2021年にはSKYTOPIAとともにFrasco×SKYTOPIA名義で初アルバム『UNNATURAL』をリリース。
最近では、渡辺直美やKERENMI(蔦谷好位置)、レイン・パターソン(にじさんじ)への楽曲提供(作詞)も行っている。
タカノさんが提唱している「カフェオレ理論」について教えてください。
やりたいことを仕事にするのはハードルが高いから、やりたいことと仕事を1:1の割合で混ぜてしまう、ということでした。1:1というのは、時間なのか、収入なのかなど、詳しくお聞きしたいです。
時間とか収入とかではなくマインドのことかなぁ。
音楽に向き合う気持ちと音楽以外の仕事に向き合う気持ちが1:1。
今は面白法人カヤックという会社で広告クリエイター、プランナーをやっていますが、音楽業界のつながりからカヤックに仕事の依頼が来ることもあるし、逆もあります。
人との繋がりも混ぜ合わさってる。
あるプロモーションキャンペーンで動画投稿によるダンスコンテストをやるという企画の依頼がカヤックに来て、そのBGMはFrascoとして作りました。
大人の事情的な話だと、BGM制作は社員としてやってるので、費用も抑えられる。
みんなハッピーなのかなと思ってます。
CMの企画書を書いた人がCMソングも書いちゃうってすごいことですね。
プレゼンするときに「ちなみになんですけど、デモ曲も作ってきました」といって聴かせてしまうとか。
外部の作家さんに、こういう曲を作ってください、とお願いする作業がないのは楽ですよね。
カフェオレ理論は当初から実践されてきたのでしょうか。
キャリアコンサルタントとして働いていたときは、音楽活動のことは会社には黙っていました。受け入れてもらえなそうだなと思って。
カヤックは副業OKだから、思い切ってオープンにしました。
業界や職種にもよると思いますが、音楽やってる人は、会社的にOKであればみんなに言った方がいいですよ。社内の案件でも、コイツ音楽できるからこのプロジェクトどうだ、とかなるかもしれない。
カヤックは広告業界だし、音楽業界との親和性が高いんじゃないかと思って転職したという経緯もあります。
音楽をやりたいからカヤックに転職した、ということではなく、音楽もやりやすいかな、という感覚でしょうか。
カヤックに入りたかった理由は色々あるんですが、まずカヤックの創る作品が尖っていて好きで、自分もそういう作品を作りたいなと思ったのが第一です。
あとは、音楽をやってて音楽業界に就職すると、近すぎて音楽が嫌いになっちゃうかなと思って。
音楽と近いところにあるけど、全く違うことをやっている広告業界に魅力を感じたんです。
突然、広告業界に転職することに不安はなかったのでしょうか。
不安は全然なかったです。
キャリアコンサルタントをやっていた時も楽しかったは楽しかったんですが、コミュ力とか営業力を培う修行の3年間という感じでしたね。
元々、モノづくりをしたい、カヤックみたいな仕事をしたいとずっと思っていたので、広告業界で仕事をすることに不安は全くなかったです。
今でもまだ、30歳超えたら「家族を作って仕事に専念。やりたいことは後回し」という風潮ってある気がしますけど、そんなの関係ないと思う。自分も30代から音楽を始めましたし。
当時は、30歳超えてから音楽始めるってヤバくない?と、バカにする人もいました。
でも、やりたくてやってるし仕事もちゃんとしてるんだからいいじゃん!と思ってましたね。
そんなタカノさんの1日のタイムスケジュールを教えてください。
もちろん日によって全く違うんですけど、例えば今日はこんな感じです。
9:00 起床
10:00~11:00 仕事
11:00~12:00 ミーティング
12:00~13:00 昼食
13:00~14:00 ミーティング
14:00~15:00 移動
15:00~17:00 この取材を受ける
17:00~18:00 移動
19:00~夜中 仕事
音楽はこの移動時間に作るって感じですね。
今、SKYTOPIAと、Frascoのエンジニアでもあるナギー(Kentaro Nagata、ngtkntr)と一緒にColdhotというプロジェクトもやっていますが、彼らがあげてくれたデモを移動中にチェックしたり、歌詞を書いたり。
いまの仕事はミーティング地獄なところがあって(笑)、1日に10個とかの日もあるんです。
そんな日は何もできなくなっちゃうので、夜中に曲を作ることもあります。
音楽は広告の企画を考えるのとは違う頭の使い方をするので、気分転換にもなります。
どっちも仕事だけど、趣味感覚で楽しみながらやれているので、あんまり苦じゃない。
夜中に曲作りでノッていても明日の仕事に支障があるからやめよう、とかはありますか。
そういう時もあります。
サラリーマンとしては本業なので、土日でなければちゃんとカヤックの仕事を優先してますし。
「あえて中途半端に終わることも大事」という理論を唱える友人もいて、そうするとモヤモヤが残るから、作業を再開しやすい、というんですよね。次が気になる連ドラの終わり方みたいな。
とにかくキリが悪かろうが良かろうが、あまり気にしないってことですね。
結構適当な性格で、割と計画性なく感覚的にやってます。
一方で、あざとく色々考えながらやっている自分もいたりして。そこもカフェオレですね(笑)。
音楽の仕事の依頼はどのように受けられているのでしょうか。
Frascoや個人の仕事は、直接来るものもありますが、アゲハスプリングスとエージェント契約をしているので、アゲハ経由でも受けています。
以前は、コンペも多かったのですが、最近は指名してもらえる仕事が増えてありがたいです。
にじさんじのレイン・パターソンの曲の作詞は、アゲハの担当の方がタカノが合うんじゃないかと指名してくれました。
レイン・パターソン『Burning charming』ですね。これもタカノさんっぽくない歌詞です。
そういわれるのは嬉しいですね。
これもカフェオレ理論に通じますけど、カヤックの広告的な考え方がすごく活きています。
クリエイターとアーティストの違いってあると思うんです。
自分は、クリエイター(楽曲提供)とアーティスト(Frasco)のどっちの仕事も好きで、どっちも向いていると思ってます。
アーティストは、自分が好きなものを表現して、それにお客さんが付いて来ますよね。
一方、クリエイター(楽曲提供)は、キャラクターの世界観・ブランドを崩さず、その人に合わせて、聞く人にもちゃんと伝わる言葉を作ることが大切です。
広告でいうと、クライアントが伝えたいこと、要件というものを、ユーザーの反応も含めて設計して、求められたモノをいかに正確に提供できるかということです。
だから、楽曲提供しているものは、これホントにタカノが書いたの?というものばっかりなんじゃないですかね。自分の個性はスパイス的にほんのちょっとだけ。
歌い手になり切るのも好きですね。
キャラクターを降臨させる憑依型の作詞家です(笑)。
渡辺直美さんに詞を提供したときは、直美になり切って書きました。
あらためて、社会人としての経験と音楽活動との関係についてお聞きしたいです。
社会人経験は、音楽活動においてめちゃくちゃ大事だと思います。
サラリーマンとして働いている経験は、めっちゃ活きています。
人とのやり取りはとても勉強になると思うので、バイトであれ正社員であれ契約社員であれ、色んな人とたくさん知り合えて、コミュ力を得られる仕事を選べばいいと思います。
向き不向きはあるかもしれないけど、自分的に経験してよかったのでいうと、営業職とかいいんじゃないかな。
音楽で成功している人の中には、圧倒的な音楽センスと技術だけで、コミュ力ゼロの人もいるけど、やっぱりコミュ力はスゴイ大事。人とのつながりで案件をもらったり、コラボしましょうってなったりするので。
逆にすごくアーティスティックな方とタカノさんのコラボ、というのも楽しみです。
「全然メール返信しません。作品で俺は語る!」みたいな人とでもうまくできるような気がします(笑)。
こういうことを言いたいのかな?とか、言語化するとか得意かもしれないです。
自分は、作品をプロジェクトと捉えて、ローンチまでの全体を見渡せるのが強みなので、お互い足りない部分を補えるんじゃないかなと思います。
『Butterfly Effect』(2022年8月3日リリース)はFrasco単体としては約1年ぶりの新曲です。インストがバージョン違いで4曲入っているのはどういう想いがあるのでしょうか。
トライ&エラーでいろんな戦略をやってみよう!という取組みの一環です。
実はシングルよりもアルバムの方がサブスクのプレイリストに入りやすいという噂があるんです。
EPとか曲が固まりになっている方がプレイリストも取り上げてくれやすいのか、ボーカルVer.以外の他の4曲がインストVer.でも有効なのか、というのを実験してみたかった。
結果はまだわからないんですが、Spotifyの「New Music Wednesday」に入れてくださったので、そこそこ良かったんじゃないかなと思います。
てっきり、トラックに対する自信の表れなのかと。
うーん、残念ながらそうでもないです(笑)。
でも、相当こだわって作ったので、自分が気に入ったビートを聴いてほしい、というのはあるかもしれないですね。
歌なし、ベースなし、ビートなし、って、違うものを聞くと視点が変わるじゃないですか。
今まで歌にフォーカスしていたのに、歌がなくなることによって、ドラムのパターンに耳が行くし、逆にドラムがなくなったら、シンセってこんな感じの音だったんだとか。
個々のサウンドとかアレンジに注目してもらえると嬉しいですね。
曲ができたあと自分の楽曲をプロモーションするのはお好きですか?
制作の根本には、自分が生み出した何かを、自分が知らない誰かが聞いて、心を動かしてもらえたら最高!という気持ちがあります。
特に「誰かの走馬灯に上映されるような作品を作りたい」という野望があるんです。
それって、作家冥利に尽きますよね。
だからFrascoは、風船にダウンロードコードを付けて曲をリリースしたり、シンバム作ったり。
なにそれっ!みたいなところから、手に取ってもらえるようにがんばってます。
最近思うんですけど、いつまでリリースの告知をしたらいいのかなって。
サブスクの楽曲はアセットとして残っていくので、なんなら永遠に告知してもいいんじゃないかって(笑)。
日本では、毎週2000曲も新曲がリリースされていると言われています。
それで、作った曲がどんどん古くなっちゃうのが悲しい。
新曲という概念が短すぎると思うんです。
10年、20年を見据えて、10年後にやっと10万回再生達成!とかもいいのかなと思っています。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
(リリース情報)
Frasco『Butterfly Effect』(2022年8月3日リリース)
(配信先一覧)https://big-up.style/La9qnqPlM
Coldhot『Vetta』(2022年9月21日リリース)
(配信先一覧)https://big-up.style/tfM46iILG
タカノシンヤ and AATA and ngtkntr『Q.E.D.』(2022年4月20日リリース)
(配信先一覧)https://big-up.style/NxHbwKiRvX
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