もっといろんな曲を書きたいからもっと精進していきたいー2024年、STUTSの現在地点
「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載では日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちに話を聞いていきます。いろんな人たちのいろんな言葉が連なったとき、バラエティ豊かでかっこいい日本の文化の層として表現できるのではないかと思っています。
3回目のゲストは、音楽に対してとどまるところを知らない探究心と向上心を持つSTUTSさんです。ヒップホップのビートメイカーとしてシーンに登場し、代表曲『夜をつかいはたして feat. PUNPEE』が大きな話題になり、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌『Presence』では女優の松たか子らと最前線のラッパーたちをフィーチャーすることで、さまざまな層にヒップホップのかっこよさとおもしろさを届けました。
さらに近年はBAD HOPのラストアルバム「BAD HOP (THE FINAL Edition)」に収録された『Empire Of The Sun (feat. T-Pablow & Zeebra)』に加え、ZOT on the WAVEと共作したLEX&LANAの『明るい部屋』、注目の若手ラッパー・Kaneeeの楽曲も多数プロデュースしています。ヒップホップという大きな軸をしっかり維持しつつ、アーティストとして活動の幅をどんどん広げるSTUTSさん。そんな彼の現在地点についてお話を伺いました。
文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴
目の前のプロジェクトで常にいっぱいいっぱいって感じでした
――2024年に入ってBAD HOP『Empire Of The Sun (feat. T-Pablow & Zeebra)』、STUTS on the WAVE名義でのLEX&LANA『明るい部屋』、Kaneee『SPACE』、スチャダラパー&STUTS名義の『Pointless 5 (feat. PUNPEE)』と、作風も含めてSTUTSさんの活動が新章に突入したように感じました。
そこは意識してなかったかもしれませんが、そう見えてたら嬉しいですね。目の前のプロジェクトで常にいっぱいいっぱいって感じでした(笑)。
――BAD HOP『Empire Of The Sun (feat. T-Pablow & Zeebra)』は日本語ラップのクラシック感のあるビートでしたね。しかもリリックはT-PablowさんとZeebraさんが世代交代について歌うという。
去年T-Pablowさんから「ビートがあったらご一緒させてもらいたい」という旨のラインをいただいたのがきっかけですね。それで僕はこの『Empire Of The Sun』の他に2つ作って10月くらいにお送りしました。そしたらT-Pablowさんがあのビートを気に入ってくださったという感じですね。これはどこまでお話ししていいかわからないのですが、ラップが乗った状態で送られてきたのが東京ドーム公演(2024年2月19日に開催された「BAD HOP THE FINAL at TOKYO DOME」)の4〜5日くらい前だったんです。
――ラッパーらしい制作エピソードですね(笑)。
ラップが乗った状態を聴いてとても感動しました。T-Pablowさんは今までとはちょっと違うスタイルのヴァースで、言葉がすごい沁みたし、伝わるというか。声の出し方も他の曲と違いますよね。
BAD HOP – Empire Of The Sun feat. T-Pablow & Zeebra(Official Video)
――Zeebraさんが客演に入ることはご存知だったんですか?
「もしかしたら入っていただくかも……」みたいな話はT-Pablowさんから伺ってたけど、その後どうなったかはT-Pablowさんから送られてくるまで知らなかったんです。だから「ほんとにZeebraさんが入ってる!」ってなりましたね。
――僕はZeebraさんが客演に入ることを前提でSTUTSさんがああいうキング感の漂うビートを作ったのかと思ってました。
実はそうではないんです(笑)。サビに関してはT-Pablowさんから「声ネタがいいと思います」と提案していただきました。そこで僕は「T-PablowさんやZeebraさんの楽曲や、今までのいろんな日本のHIPHOPの有名なフレーズが走馬灯のように入ってくるのもありかもしれません」と返したら、『Kawasaki Drift』のパンチライン“川崎区で有名になりたきゃ”とか、何曲か選んでいただいたり、Zeebraさんのご意見もいただいたりして、それを元に作った感じですね。
――東京ドーム公演ではZeebraさんが登場された『Empire Of The Sun』がものすごく盛り上がったと聞きました。
嬉しいです。あの曲に関しては当日のお昼まで細かくいろいろと調整していたので、(ライブで)本当に流れるのかなって思ってたんですよ(笑)。実際にライブで聴かせていただいて、(自分のプロジェクトが)無事に終わったというか。ただ僕としては自分が携わった曲が流れるかよりも、いちHIPHOPファンとしてBAD HOPさんの東京ドーム公演を楽しみにしていたので、その公演を生で観られたことがとても嬉しかったです。
生きてるとこんな光栄な経験もできるんだなって思えた
――スチャダラパー&STUTS名義の『Pointless 5 (feat. PUNPEE)』には、また違ったベクトルのクラシック感がありました。個人的に大好きな『Ultimate Breakfast & Beats』(スチャダラパー「5th WHEEL 2 the COACH」収録曲)が引用されていて感動しました。
最高ですよね。あれはANIさんのアイデアなんです。
スチャダラパー & STUTS – Pointless 5 feat. PUNPEE (Official Music Video)
――スチャダラパー&STUTSとしてツアーも開催されてましたが、『Pointless 5』の制作はどのように実現したんですか?
きっかけはスチャダラパーさんのマネージャーさんと自分のA&Rをしてくれてる平川さんが「一緒に曲を作れたらよいですね」とお話しして下さったところからですね。最初のその話を聞いたとき、「こんな光栄なことはない」と思ったんですけど、同時に「どうしよう。何を作ったらいいんだろう」ってすごく悩みました。スチャダラパーさんは高校生の頃から大好きなアーティストで自分も大きく影響を受けているので。だから「どういう曲を作ればいいか考えたいので少し悩ませてください」とお返事しました(笑)。
――『Pointless 5』はスチャダラパーさんのBボーイ的クールネスとユーモアが凝縮されたような楽曲だと思いました。
スチャダラパーさんはめちゃくちゃBボーイで、ずっとヒップホップを体現されている方たちだと思っています。しかもスタンスがずっとブレてなくて。僕が好きなその感じをまだスチャダラパーさんを聴いたことがない若い人たちや、『今夜はブギー・バック』や『Welcome to Ponkickies』のイメージしか持ってない人たちにも共有できたらいいなと思ったんです。
――バランスが絶妙すぎるんですよね。
そう思います!僕はどの時期のスチャダラパーさんも大好きなんですが、今回は『B-BOYブンガク』や『アーバン文法』のような割とBボーイのスタンスを打ち出した曲を一緒に作れたらいいな、と。そこに今のBOSEさん、ANIさん、SHINCOさんが混じったら最高だと思ったんです。
――PUNPEEさんのフックもすごいインパクトですね。
あのメロディーはPUNPEEさんに作っていただきました。素晴らしいですよね。
――スチャダラパーさんのリリシズムがありつつ、STUTSさんとPUNPEEさんの魅力も存分に感じられました。
本当に光栄な体験でしたね。生きてるとこういうこともあるんだなって思えた瞬間でした。
自分でラップしたり歌ったりするきっかけは長岡亮介さんとのツーマン
――一方で、長岡亮介さんとの『いろどりのうた』もリリースされました。この曲でSTUTSさんはラップだけでなくヴォーカルも担当されました。
あの曲もすごく気に入ってるので嬉しいです!
――長岡さんとは2ndアルバム「Eutopia」の『Above the Clouds (feat. 長岡亮介, C.O.S.A. × KID FRESINO & asuka ando)』や星野源さんのツアーバンドでも共演されてました。ただ最近のSTUTSさんはヒップホップアーティストとの制作が多い印象だったので、この曲はちょっと意外だったんです。曲の雰囲気もかなり違いますし。
『いろどりのうた』は「NHK みんなのうた」っていうのが大きかったんです。
――知りませんでした! STUTSさんと長岡さんの曲が「みんなのうた」で流れるのは最高すぎますね。
ありがとうございます。せっかくやらせていただくなら、何か面白いことをしたかったんです。ただ「みんなのうた」を意識しすぎて子供に寄せるより、大人が聴いてもかっこいいものを作りたくて。というか、自分が歌ったりラップしたりするきっかけも長岡さんと二人でやった2017年のライブがきっかけだったりするんです。
――そうだったんですね!
その二人でのライブを見て、当時、自分のA&Rをしてくださってた井坂さんが「声いいね」と言ってくださったんです。その言葉に背中を押してもらって、自分でも歌ってみようかなと思うようになりました。
――すごく良いエピソードですね……。もともとラップしたかったSTUTSさんがこうして歌い始めて、しかもそのきっかけのひとつとなった長岡亮介さんとの曲が「みんなのうた」で流れるっていう。何か縁を感じますね。
本当にそう思います。自分としては自分が歌う楽曲もまた書きたいと思ってるんですけど、最近はなかなか向き合うことができてなくて。もっと色んな曲を書きたいので、もっと精進していきたいです。
――さらにKaneeeさんとの制作ではかなりトレンドを取り入れたビートを制作されてます。
Kaneeeくんからはかなり刺激をもらってますね。彼はとにかくレスポンスが早い。ビートを聴いたらその場でフリースタイルして作っちゃう感じなんですよ。それこそ『Canvas』は家に来てもらったKaneeeくんに聴いてもらったら、そのままKaneeeくんがフリースタイルでフロー考えてその日のうちにほぼ完成して。あと新アルバムに収録されている『SPACE』はもともと「自分でもこういう感じの作ってみよう」と思ってできたビートで、それをKaneee君に送ったら気に入ってくれてって感じで。自分のプロジェクトではできないことを一緒にやれるのがとても楽しいです。
――Kaneeeさんはステージでも新人とは思えない肝の座ったパフォーマンスを見せますね。
すごく前向きなんですよ。なんだろう。自分なら絶対にやれるという野心がみなぎってる感じがありますよね。「ラップスタア誕生 2023」でKaneeeくんを知って、自分が乗せて欲しい乗せ方してくれてると思って気になって勇気を出してDMしてみたんです。
――そういう感じだったんですか!?
そうです。自分の他のトラックに乗ってもらったらどんな感じかなって。あと普通にどんな方なのかも気になりましたし。それで実際に話してみたらものすごく優しい好青年だったんです。音楽的にもやりたいことが近くて。
――それが『Canvas』につながっていったと。
そうですね。
一番大事にしていることは自分が納得する曲を作ること
――今年の「POP YOURS」を観ていて、STUTSさんやCreativeDrugStoreの面々がいつのまにかシーンのベテランになっていると感じました。ひとつ下の世代が出てきたというか。
自分的にはやってることは変わらないし、(自分を)ベテランと思ったことはないんですけど、いまお話を聞いていて、確かに長く活動しているほうではあるかもしれないです。コロナ以降はヒップホップシーンも変わってきたかもとも思いました。
――STUTSさんは現在のヒップホップシーンをどのようにみていますか?
ヒップホップは多様化していると思います。素晴らしいことですよね。僕は常に「自分にとっての王道」をやってるつもりですが、メインのヒップホップシーンからするとオルタナティブな位置にいるかもしれませんね。僕は昔から自分の好きな音楽の感じをいろんな人にも共有できたら嬉しいなという思いがあります。だから僕はずっと僕のままだと思います。
――STUTSさんの「好きな音楽の感じ」は着実に広がってますね。
本当にありがたいです。「エルピス—希望、あるいは災い—」や「大豆田とわ子と三人の元夫」のようなドラマの主題歌を作らせていただけましたが、基本的に制作するときのマインドは変わってないんですよね。いろんな人に聴いていただける機会だからと言って、自分の好きな感じはブラしたくないんです。日本にはメインストリームにも良い音楽がたくさんあるじゃないですか。そういう意味では自分の好きを貫くことってエゴでもあるけど、こういうのって音楽が好きな人は誰でも思ってることのような気もするんですよ(笑)。
Mirage Collective “Mirage – Collective ver. feat. 長澤まさみ” (Official Music Video)
STUTS & 松たか子 with 3exes – Presence Remix feat. T-Pablow, Daichi Yamamoto, NENE, BIM, KID FRESINO
――リスナーであっても音楽が好きであればあるほど、どんどん自分なりのこだわりが出てきますもんね。
ちょっと大きいこと言い過ぎかなあ……。僕は自分の好きな音楽の感じが少しでも広まったらいいなと勝手に思ってはいますけど、そこが第一ではないんです。一番は自分が納得する曲を作ることです。そこが前提で、サブテーマとして今言ったようなことがあるイメージです。
――実際、『Mirage』も『Presence』もSTUTSさんの曲という感じでした。
あの2曲に関しては、僕がどうこうというよりもドラマのプロデューサーの佐野亜裕美さんの懐の大きさが一番です。ああいうオファーをいただけた自分は本当に恵まれていると思いますね。
――それはやっぱりSTUTSさんが納得できる音楽を作り続けてきたからだと思います。
本当にありがたい限りです。
――そういう意味では、活動を続けていくって大事ですね。
いや、ほんとそうだと思います。何があるかわかんないんで。
――ZOT on the WAVEさんと共演したLEX&LANA『明るい部屋』はどのような経緯で制作することになったんですか?
Kaneeeくんからの流れなんです。ZOTさんはKaneeeくんのアルバム「Remember Me?」に参加されていて。あのアルバムの制作を平川さんが担当されているんです。平川さんがZOTさんとやりとりしているときに、たまたま僕のA&Rも担当しているとお伝えしたら、ZOTさんが「セッションしたいです」とおっしゃってくださいました。僕もZOTさんの曲を素敵だなと思って聴いていたので嬉しかったですね。
――不思議な縁ですねえ。
それでセッションを始めたのが去年の8月とかかな。
――おふたりはどのようにセッションされるんですか?
曲にもよるんですけど、例えばZOTさんから「こういう感じの曲にしませんか」とアイデアを提案していただいて自分が上ネタを弾いたのを聴いてもらって、そこから二人であれこれ考えたり。あるいはベースっぽい曲だったら、自分がシンセでベースを弾いて、ZOTさんが808でドラムを組んだりって感じですね。
――お互いにフレーズやビートの断片を作って、二人で広げていく感じ?
はい。
――『明るい部屋』は今年の「POP YOURS」でもハイライトのひとつになっていたと思います。
僕も現場で観てて感動しましたね。あのビートは、まさに僕一人では絶対に生まれなかったというか。あのシンセやベースは僕が弾いてるんですが、たぶん一人で作ってたらあそこまでメジャー感あるコードにしないと思うんですよ。ZOTさんと制作したから、あえてああするのがいいのかもと思ったんです。すごい勉強になりましたね。
LEX & LANA – 明るい部屋 (Live at POP YOURS 2024)
――LEXさんとLANAさんにもお会いになったんですか?
はい。最初のレコーディングに立ち会ったんですが、お二人とも素晴らしかったですね。本当にすごいと思いました。まず声が良い。あとリリックも難しい言葉じゃなく、抽象的で断片的で。でも感情が伝わるし、イメージも湧いてくる。メロディーラインもすごいし、そこにつける感情というか、ニュアンスというか、あの感じはお二人にしかできないと思いました。
――では2024年も数々の楽曲に携わり、現在進行形のプロジェクトもあると思いますが、最後に言える範囲で今後の活動の匂わせをいただけますでしょうか?
(笑)。たぶん今年何かしら出せるかと思います。かなり風通し良い感じでできてるプロジェクトです。これまでの自分とはまた違った面を見られるとは思っているので楽しみにしていただきたいです!
STUTS
1989年生まれのプロデューサー、トラックメーカー。
自身の作品制作やライブと並行して、数多くのプロデュース、コラボレーションやTV・CMへの楽曲提供など活躍の場を広げている。
2016年4月、1stアルバム「Pushin」を発表。
2017年6月、Alfred Beach Sandalとのコラボレーション作品『ABS+STUTS』を発表。
2018年9月、国内外のアーティストをゲストに迎えて制作した2ndアルバム「Eutopia」を発表。
2020年9月、ミニ・アルバム「Contrast」を発表。
2022年10月、3rdアルバム「Orbit」を発表。
2022年12月、Mirage Collective名義でアルバム「Mirage」を発表。
2023年6月23日、初の日本武道館公演「STUTS “90 Degrees” LIVE at 日本武道館」を開催。
宮崎敬太
1977年生まれ、神奈川県出身。音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。WEB媒体での執筆活動の他、D.O自伝「悪党の詩」、輪入道自伝「俺はやる」(ともに彩図社)の構成なども担当。
Instagram:https://www.instagram.com/exo_keita/
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