DJみそしるとMCごはん インタビュー
〜おいしくてたのしい音楽と権利のはなし
「おいしいものは人類の奇跡だ!」をモットーに、音楽制作のみならず独自の活動を行っているDJみそしるとMCごはん(通称:おみそはん)さん。2013年のメジャーデビューから、数多くのフェスやNHK Eテレ「ごちそんぐDJ」への出演など、10年に亘り活躍し続けています。
KENDRIX Mediaは、MC、トラックメーク、アートディレクションなどを1人で手がける究極のDIYクリエイターであるおみそはんさんにあらためて注目。下積みゼロから始まったアーティスト活動や楽曲制作への想いをお聞きするとともに、2023年3月の独立を機に「ギモンが噴出している」という音楽著作権のことを逆質問していただきました(逆質問コーナーには、おみそはんさんが特別に描き下ろしてくださったイラストも!)。
DJみそしるとMCごはん
1989年生まれ、静岡県出身。
2012年、女子栄養大学の卒業研究として「歌って覚えられるレシピ」というコンセプトのヒップホップ・ミュージックを制作。
2013年7月、インディーズから1stミニアルバム『Mother’s Food』を発表、同年11月にメジャーデビュー作『おりおりのおりょうり~X’mas~』をリリース。
2014年3月から2023年3月まで、NHK Eテレの料理番組「ごちそんぐDJ」に出演。
2015年4月、1stフルアルバム『ジャスタジスイ』をリリース。
2023年3月、デビュー10周年を機に所属事務所から独立。
2023年6月から、友人でタロット占い師のパジャカツさんとポッドキャスト「深夜のおやつ」を配信中
料理のレシピをヒップホップで〜オリジナル・スタイルが生まれたきっかけ
KENDRIX Media(以下「K」):デビューから一貫してヒップホップを作り続けているおみそはんさんですが、小さいころからヒップホップを聴かれていたのでしょうか?
DJみそしるとMCごはん(以下「みそ」):子供のころからエレクトーン教室に通っていて、音楽には親しんでいました。ヒップホップに関しては、エレクトーン教室の先生が、ジャンルにとらわれず色々な曲をやってみましょう!っていう方だったので、映画「天使にラブ・ソングを…」の曲で、途中にラップパートもある『Joyful Joyful』も演奏したことがある、というくらいで。ヒップホップに限らず、本当に色々な音楽に触れていました。
中高時代は吹奏楽部でパーカッションを担当したんですけど、友達とコピーバンドを組んだりもしていました。私はドラムを叩いていて、吹奏楽部のトランペットが上手な子に入ってもらったりして、スカバンドみたいな感じでしたね。当時ガールズバンドが流行っていて、SHAKALABBITSのUKIちゃんに影響されて、派手な古着を着たり、ガチャガチャさせていましたね…(笑)。
K:おみそはんさんは、大学の卒業研究でヒップホップの楽曲を作ったことがきっかけで音楽活動をすることになったかと思いますが、どうしてヒップホップを選ばれたのですか?
みそ:大学生のころ、一緒に住んでいた妹や周りの音楽好きな友達がみんなヒップホップを聴いていたんです。その時に日本語のヒップホップを中心にいろいろ教えてもらって…。PUNPEEさんとか5lackさんとか、スチャダラパーとかをちゃんと聴くようになりました。
中高生のころはSOUL‘d OUTとかケツメイシとかRIP SLYMEとかが全盛期で、そういうすごくメジャーなヒップホップしか知らなかったところに、なんていうんだろう…文学系というか、違う経路のヒップホップもあるんだなという出会いがあって、いつの間にか好きになっていました。
卒業研究で曲を作ろうってなった時も、歌に自信がないけどリズム感はあるからヒップホップならできるかなと思ったものあるし、最近好きになったしやってみたいかも!という気持ちもありました。
デビューから10年を経た現在
K:デビュー10周年を迎えたおみそはんさんですが、本当に幅広い活動をされています。最近は講演会もされたとか?
みそ:私も、まさか自分が講演会をやる日が来るとは…!と思いました。
群馬県前橋市の健康増進課の方から、若い世代の方に食のおいしさや料理の楽しさを中心に食育につながるようなお話をしてもらえませんか?とお声がけいただいて…。普段ライブはやっていても講演会なんて初めての経験だったので、私に何ができるだろう?と自問自答しながら、まわりに相談もしながら準備を進めた感じでしたね。
いつも音楽や映像を作ったりするのにMacのパソコンを使ってるんですけど、その中で唯一使ってこなかったいわゆるPowerPointみたいなソフトを初めて使いました。
講演会のあとはライブコーナーだったんですけど、「はい、ここからはライブです!」っていきなり雰囲気を変えたものだから、私もお客さんも気持ちの持って行き方に戸惑っちゃったのを覚えています。お互いに「大丈夫!?いける!?」みたいな確認をしながら会場をあっためていって、楽しく終えることができたので一安心です。
前橋プラザ元気21につきました!
今日は初の講演&ライブ!😳
パワポ資料作ったので、これに沿って話したあとライブします。前橋のみなさま、のちほどお会いしましょう〜! pic.twitter.com/bK9QeHRcl8— DJみそしるとMCごはん (@D_M_M_G) December 16, 2023
K:10年間も活動を続けていらっしゃるので、ライブはもうお得意なのかと思っていました。
みそ:確かにライブはずっとやっていますね。
でも、大学卒業して1年だけ社会人やって、そこからDJみそしるとMCごはんとしてデビューをしたのでライブに出ることも曲を作ることもほとんど下積みというものがなくて。高校時代のバンドでステージ上に立って演奏した経験は全然役に立たず、ずっと「大丈夫か、自分⁉」と自問自答しながらやってきました。
最近やっと「10年やってきたし、大丈夫!」って思えるようになったかもしれないです。
トラック制作へのこだわり
K:おみそはんさんのYouTubeチャンネル(DJみそしるとMCごはんのクックインダハウス)では、『南の島に行きたいな』などインストの楽曲も聴くことができますよね。最近はトラック制作にも力を入れているのでしょうか。
みそ:『南の島へ行きたいな』は沖縄にある「御菓子御殿」さんの生紅芋タルトの曲を自分のYouTubeにアップさせていただいたときにできたトラックです。まだまだ未熟なトラックではあるんですけど、インストだけでも楽しめるトラックを作れたらいいなという気持ちがあって、公開することにしました。他にも料理を作っている動画の後ろでかかっているトラックも自家製です。
みそ:もっとかっこいいトラックができたらいいな、ということはずっと考えています。大学生のころはサンプリングでしか出ないノリがヒップホップの良さだよね、と思ってサンプリングをして曲を作っていました。でも、メジャーデビューしてからはサンプリングに頼らずに曲を作らなきゃいけないので、なかなかかっこいいトラックを作るのは難しくって。かっこいいと思える4小節を作ってループさせて、抜き差しをしてラップを入れたら何とか曲ができる、それが私ができる最大限のヒップホップでした。私は根っこからヒップホップの人ではないから、自分らしいヒップホップを模索していたと思います。
実は妊娠をしていた時に切迫早産になってしまって、3ヶ月くらい動けない時期があったんです。その時に『DENKI GROOVE THE MOVIE?-石野卓球とピエール瀧-』を観直していたら、SHINCOさんが卓球さんのトラックについて「声が乗っても乗らなくても成立することが新鮮だった」と仰っていたんです。すごくハッとさせられて、何か曲作りのヒントを得られないかと思い、「電気グルーヴのSound&Recording」を、全アルバムを聴きながら読みました。それからは曲の自由度が増したというか、1曲の中でたくさんの展開があってもいいんじゃない?と考えて楽曲を作るようになりました。その分時間がかかるようになっちゃったけど…。
K:2023年12月に配信リリースされた『ラビやん&クッキのやっちゃお!』は目まぐるしい展開が楽しいパーティーラップですね。
もちろん子供も楽しめますけど、大人は大人で思わずニヤけてしまうような狂気がにじみ出ています。
みそ:「ごちそんぐDJ」の時からですけど、そんなに子供向けに意識した曲づくりはしていないんです。もちろん、子供が聞いても悪影響にならないように、という配慮はあるけれど、大人も子供も楽しめたらいいなと思っています。そうだとしても、ラビやん&クッキの曲は何だかすごい感じの曲になってしまいました(笑)。
K:ラップも、普段のおみそはんさんの楽曲にはないような煽り文句がたくさん出てきたので驚きました。
みそ:あれは、ぬいぐるみ同士がラップバトルをするという設定で曲を作っていったので、自分が言うとなったらはばかられる言葉とか成分が出てきちゃったのかも。
聴いてくださる方が私に対してほんわかした優しいイメージを持ってくださったから、自然とそっちに引っ張られていった感もあって、ラビやん&クッキのほうが、実は本性に近い部分があるかもしれません(笑)。
(マネージャーさん)メジャーデビューの前にリリースしている『Mother‘s Foods』というアルバムをあらためて聴いてみると、今と全然スタイルが違っててかなり言いたい放題でしたね。
みそ:各方面への配慮がまだなかったよね…(笑)。
この10年間ですごく配慮を覚えました!
放っておくと好き放題やってしまいがちなので、「ごちそんぐDJ」みたいにスタッフの皆さんと一緒にお題を決めて曲を作るほうがやりやすいと感じています(笑)。
ヒップホップだけどヒップホップではない「DJみそしるとMCごはん」
K:「ごちそんぐDJ」ではさまざまなヒップホップ・アーティストと共演されていますね。
みそ:ありがたいことに、たくさん共演させていただきました。でも実は交流は全然広がってなくて、共演後も親交がある方はほんの僅かです。
自分でも自分が「にわか」だと分かっているから、本筋のヒップホップの方にはなんだか申し訳ない気持ちもあります。でも、相手にされていないからこそ、これまでのびのび活動できているところがあると思っていて、そこはむしろありがたいです。
以前、香川県のフェスで同じ日に出演していた、かせきさいだぁさんとお話しさせていただいたとき「すごくかっこいい日本独自のヒップホップができたと自信を持ってリリースしたCDが、CDショップではヒップホップコーナーではなくてJ-POPコーナーに置かれていてショックを受けた」と仰っていました。でも、ショックを受けて終わりじゃなくて、自分はこっち側の人間なんだと認めたら、ホフディランさんのワタナベイビーさんとか、ヒップホップ以外のジャンルの人たちとのコラボにつながったとお話しされていて、私が感じていたモヤモヤを既に経験している方がここにいた!と感激してしまいました。ヒップホップコーナーにCDが置かれない悲しみを共有できる方はなかなかいないので…。
私も、自分がヒップホップ畑の人間じゃないと思っているからこそ、米米CLUBとか、Homecomingsとかいろんなアーティストさんとコラボできたと思います。
純粋なヒップホップ・アーティストでもないし、フィメール・ラッパーというのもちょっと違う、DJみそしるとMCごはんの音楽をこれからも作っていけたらいいなと思います。
ここからは、おみそはんさんがKENDRIX Mediaに著作権やJASRACのことを逆質問!
おみそはんさんは「音楽クリエイターさんのギモンを解消するためにお役に立ちたい」と、ポイントを分かりやすく解説するオリジナルイラストも描き下ろしてくださいました!
(おみそはんさんによる逆質問①)CM楽曲の制作依頼が多いけどJASRACと契約できるの?
みそ:事務所に所属していたころは、権利関係のことは担当の方が全部やってくれていたので私はただ説明を聞いて契約書にサインをするだけでした。独立してから特に権利のことはわからないことだらけで、周りの方に聞きながら少しずつ勉強しているものの、難しいことが多くて…。
私は食品関係のCM楽曲制作の依頼をいただくこともあるのですが、クライアントさんに権利を買い取ってもらうか、権利は自分で持ち続けるか、どちらがいいんでしょうか?
K:「JASRACに著作権を管理してほしいけど、この楽曲はCM用に書き下ろしたものなので、クライアントが自ら利用する際にはJASRACから使用料を請求しないでほしい」というお手続きをいただくことが可能です。「CM委嘱」という制度なのですが、JASRACに作品届を提出する際に、使用料を免除するクライアントの情報を添えていただくことで適用できます。クライアントはその楽曲を自由に使えて、クライアント以外の第三者が利用する際にはきちんと使用料の分配を受け取れるので、買い取りにはせず「CM委嘱」という制度を活用していただきたいです。
CM以外にも、特定のゲーム用に書き下ろした楽曲を発注元のゲーム会社が自由に使えるようにする「ゲーム委嘱」という制度があります。
みそ:なるほど…。「委嘱」って聞いたことはあるけど、よくわかっていませんでした。そういう意味だったんですね! これまでは事務所がJASRACに作品登録していたと思うのですが、独立してからはどうすれば良いのでしょうか。
K:JASRACに作品登録できるのは、JASRACと信託契約を締結している作詞者、作曲者、音楽出版社のいずれかとなります。これまで、おみそはんさんは新しい曲が出来るたび、楽曲ごとに音楽出版社に著作権を譲渡する契約を締結して、著作権の譲渡を受けた音楽出版社がJASRACに作品登録していたと思います。
作詞者・作曲者としてご自身でJASRACと信託契約を締結していただければ、自らJASRACに作品登録できます。
©DJみそしるとMCごはん
(おみそはんさんによる逆質問②)YouTubeだけで公開している曲も管理してくれるの?
みそ:私が自分でYouTubeにあげている曲はYouTubeでしか聴けない状態なんですけど、そういう曲も再生回数によって使用料が入るようになるんですか?
K:なります!
YouTubeで収益化できるようになると各動画の広告料収入に応じてもらえるお金があると思うのですが、それは作詞者、作曲者の権利である「著作権」ではなく、演奏・歌唱するアーティストやレコード会社などの権利である「著作隣接権」という別の権利の対価だと思ってください。
YouTubeで使用された楽曲の「著作権」の対価は、JASRACやNexToneといった音楽著作権の管理団体に作品登録して、YouTubeがこれらの団体に支払っている使用料の分配を受け取れるようにする必要があります。
ご自身で作詞・作曲をして、さらに演奏・歌唱もされているおみそはんさんは、「著作権」と「著作隣接権」両方の対価をもらえることになりますね。おみそはんさんのように作家でありアーティストでもある方はたくさんいらっしゃるので、是非このことを知っていただきたいです!
ここで一点、お願いがあるのですが、YouTubeの動画で使われた楽曲の使用料を確実に受け取るために、JASRACへの作品登録だけでなく「YouTubeのこの動画で自分のこの作品が使われている」という情報もご提供いただきたいです。YouTubeにアップロードされている動画は膨大なので、全ての動画で利用されている楽曲を漏れなく把握するのは難しいという現状があります。
みそ:YouTubeで収益化してもらえるお金って、JASRACとは関係なかったんですね…!
そして、自ら作品登録するためにまず個人でJASRACと信託契約を締結しないといけないんですね。
作品登録するための作品届ってどのタイミングで提出すれば良いのでしょうか。
K:実際には、利用される形態ごとに異なる提出期限があるのですが、これらの提出期限に合わせてご対応いただくのは難しいと思います。
ですので、一番分かりやすく、間違いがないのは、「楽曲が出来上がったら速やかに作品届をご提出いただく」ということになります。「KENDRIX」というシステムは、オンラインで信託契約を締結でき、簡単に作品届を提出することもできますので、ぜひご利用いただきたいです。
また、SNSなどで楽曲がバズったからJASRACと信託契約したい、という方がいらっしゃるのですが、JASRACとの信託契約のお手続きにはどうしても1か月くらいかかります。基本的には、JASRACと信託契約を締結された後の再生回数分しか使用料のお支払い対象にならないので、バズってから契約手続きを開始しても、いちばん再生された時期の使用料を受け取ることができない、という場合もあります。
ですから、JASRACと信託契約を締結することは、なるべく早くご検討いただきたいです。
(おみそはんさんによる逆質問③)独自のこだわりにも対応してくれるの?
みそ:JASRACに権利を預けるけど、カラオケには収録してほしくないな…という希望がある場合、それは叶えてもらえるんでしょうか?
カラオケの音源って曲によって作りこみ具合が全然違ったりするから、ちょっと気になってしまうこともあって…。
K:たとえば「録音(DVDを制作するなどの権利)と配信の権利だけJASRACに預ける」とか、「海外で利用される分だけ管理してほしい」という感じで、JASRACに管理を委託する利用形態(区分)を選択することができます。
※JASRACホームページより
K:複合というところにある「通信カラオケ」という区分を除外すると、おみそはんさんの楽曲を「通信カラオケ」に収録する際には、おみそはんさんから直接許可を得ないといけない、要するにおみそはんさんの一存で拒否することもできる、という状況になります。
一方で、YouTubeやApple Musicなどインターネット上での音楽利用は「配信」という一つの区分になっているので、例えば音色がチープになってしまうから「着メロ」での利用だけ自分で管理したい、ということはできないんです…。
みそ:なるほど、そうなんですね…。
事務所に所属していたころは楽曲制作だけに集中していたので、いざ独立して自分で権利のことも考えなくちゃいけないとなった時、今まで使ってこなかった頭を使う感じで、「やっていけるのか自分?」という気持ちがありました。今日お聞きしたことでも、何度も確認しちゃうくらい難しいですけど、
このインタビューをきっかけにもっと自分の権利のことをしっかり考えないといけないなと再確認できました!
©DJみそしるとMCごはん
K:我々も、ライブに料理に音楽制作、イラストにポッドキャスト、あらゆることをDIYでチャレンジし続けるおみそはんさんの活動に今後も注目してまいります!
撮影協力:
à côté(アコテ)
東京都渋谷区西原1-7-5
店主の今村さんがセレクトする文房具や食器・雑貨の数々は、実用性と懐かしさと可愛さを兼ね備えていて、心躍るお買い物が楽しめます。おみそはんさんもお気に入りのお店。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
PHOTO:和田貴光
KENDRIXがクリエイター向け音楽イベント「KENDRIX EXPERIENCE」を開催します!
DÉ DÉ MOUSE・ぷにぷに電機らによるスペシャルライブも!
日時:2024年3月20日(水・祝)14時〜
場所:代々木上原駅(渋谷区)近辺
入場無料(事前抽選)
出演者や申込み方法等の詳細は以下の特設サイトにて!
https://kendrixexperience.com
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