出演アーティストはどう決める?持ち込みの合格率は?
知っているようで知らないライブハウスの裏側について聞いてみる
バンドのライブ活動の本拠地でもあるライブハウス。
ライブ好きならおなじみの場所だが、実際出演する側にならないと知らないことも多い。
今回は、下北沢のライブハウス『ERA』で店長を勤める久保寺豊さんに、知っているようで知らないライブハウスの裏側について伺った。
<プロフィール>
久保寺豊/下北沢ERA店長
自身も「wooderd chiarie」「susquatch」「quad」などのバンドでベースを担当
減りつつある「ライブハウスへの音源の持ち込み」
――続いては、ライブハウスにまつわる疑問を下北沢ERA店長の久保寺さんにお聞きしていきます。
まず、ERAではどうやってライブハウスに出演するアーティストを決めているのでしょうか?
久保寺:ミュージシャンが持ち込んだ音源をもとに審査をします。
そもそも、ライブハウスには、ライブハウス側が企画する「ブッキング」イベントと、外部の人が企画を持ち込んでくれる「場所貸し」イベントがあるんですね。
このうち、僕らが出演者を決めるのは「ブッキング」イベントで、そちらは音源持ち込みの場合は審査をします。
どういう審査をされているのでしょうか?
久保寺:音源を聞けば「どういう音楽がやりたいのか」というのがだいたいわかるので、「本人がやりたいことを出来ているか」をチェックします。
あとは、「ライブができるレベルか」という演奏技術のチェックもします。
ただ、これは音源だとわからないことも多いため、スケジュールが合えば、まれに他ライブハウスでのライブを見に行ってチェックをすることもありますね。
――そんな厳密な審査が……!音源の合格率はどれくらいなのでしょうか?
久保寺:合格率という表現は難しいですが……、7割ほどは通しています。
いまはバンドが昔よりは減っていて、新しい持ち込みアーティストは月に15〜20バンドぐらいかと思います。
15年以上前はもっと倍率が高くて、1ヶ月で50バンド、多い時は週末の1日で6〜7バンドは音源の持ち込みがありました。
――「バンドが減っている」という話は所々で聞かれますが、実際のライブハウスの現場の方から聞くとリアリティがありますね。減っている主な原因はなんだと思われますか?
久保寺:(ライブハウスではなく)ネットでの音楽活動が増えたのは一つの理由としてあると思います。
あとは、コロナ禍で大学生のバンドサークルが活動できなくなったんですよね。
それはかなり大きくて、サークルでコピバンをやらないと、そもそもオリジナルバンド結成に繋がらないと感じます。
自分も大学のサークルに入ったのがきっかけで、バンドを始めました。
楽器が好きで弾いている人はいまでも多いのですが、バンドを組む人は減っているという印象です。
――コロナ禍は、目に見えているところ以外にも大きな影響があったんですね……!
1年のうち340日ぐらいはライブを観ている
――ライブハウスの店長さんというとかなりの数のライブを観てそうですが、どれくらいの頻度でライブを観られているのでしょうか?
久保寺:(笑)。1ヶ月のうち、ライブを観ていない日が1〜2日あるかどうか、ぐらいの頻度ですね。
――そんなにライブを観ているんですか?!
久保寺:そもそも、ERAではほとんど毎日ライブをしていて、どんな内容のイベントでもライブは観るようにしています。
休みを取るときもあるんですけど、だいたい「昔ERAでライブをしていたバンドの大きなライブを観るために休む」といったライブの予定が多いので、結局ライブを観ていない日がないんですよね。
「本当に好きだからできる仕事です」と語る久保寺さん。
――すごい!それだけライブを観ている人の前で演奏するのは、ミュージシャン側も緊張しそうです。
久保寺:ERAでは、いまでも出演後にライブハウスからバンドにフィードバックをする時間を取っています。
「どこを伸ばすべきか」「今後の活動をどうしていくつもりか」といった話を、バンドそれぞれに対して会話をします。素直に意見を言うので、時には言い合いになることもありますね。
――お互い真剣だからこそですね。
久保寺:本当は、本人たちが「かっこいい」と思ってる音楽に、僕が何かを言うのはよくないと思うんですよ。
でも、そういう厳しいフィードバックを糧にしていただき、成長に繋がったのではと感じるバンドもたくさんいます。
真剣なフィードバックは小さなライブハウスならではの文化だと思いますし、下北沢という街もそういう(ミュージシャンを育てる文化がある)場所だと思うので、意見は素直に伝えるようにしています。
――ERAというライブハウスで活動しているミュージシャンのうち、どれぐらいの方がメジャー等でデビューされるのでしょうか?
久保寺:いまはメジャーデビューを目指さないミュージシャンも多いんですけど、それでも毎年、数え切れないぐらいのミュージシャンがメジャーデビューをしていますね。
正直、デビューすることよりも、メジャーで活動を続けることの方が難しいと思います。売上が出ないとメジャーは契約が解除されるので、維持が一番難しいです。
――なるほど…….。「メジャーデビューして人気が出そうなミュージシャン」というのはインディーズ時代から違うものなのでしょうか?
久保寺:違いますし、見ていてはっきりわかります。メンバー全員の態度や、覚悟が違うとは感じます。
「メジャーになりたい」「売れたい」と口に出して、自分から動こうとするミュージシャンはちゃんと成長できると思います。
――パフォーマンスや楽曲というより、本人のモチベーションや意識の方が大きいのでしょうか?
久保寺:そうですね。「メンバー全員がデビューしたいという気持ちを持っているかどうか」「自分たちの長所をちゃんと伸ばす意思があるかどうか」のふたつが大事だと思います。
――日々、ミュージシャンと接しているからこそのご意見ですね……! レーベルからERAに「いいミュージシャンいないか」といった連絡も来るのでしょうか?
久保寺:週に2〜3回ぐらいは、仲がいいレーベルさんや音楽事務所のマネージャーさんから連絡が来ますね。
――けっこう来ますね!
久保寺:レーベルの方が、新人発掘のためにライブを見に来ることもけっこうあります。
サイトやSNSで調べて、「ERAだったらいいミュージシャンがいるだろう」と思って来てくださっているみたいです。嬉しい限りで感謝しています。
――まさに新しいミュージシャンを育てるための場所ですね。最後に、ライブハウスにあまり来ない方にメッセージがあれば教えてください。
久保寺:ライブハウスに行ったことがない方は、まずは友達が出ているライブに行ってみるのがいいと思います。
ライブハウスって、初めての方にはやっぱり「怖い」って言われるんですよ。健全だし、空気もきれいだし、全然怖くないです(笑)
でも、実際は友達が出ていれば初めてでもライブハウスに来やすいと思うので、まずは気楽に生のライブを楽しんでほしいなと思います。
――今日はありがとうございました!
<ライブハウスでよく見かける「マイクチェック」の裏側に迫った前編は こちら から>
TEXT:まいしろ
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
Twittter:https://twitter.com/_maishilo_
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