Night Tempoインタビュー(後編)
~令和に再構築された昭和ポップスが日米のフロアを熱狂させる理由
80年代の昭和ポップスを現代にアップデートさせる「昭和グルーヴ」シリーズで、数々の名曲を再評価に導いている韓国人プロデューサー/DJのNight Tempo。
2021年12月には初のメジャー・オリジナル・アルバム『Ladies in The City』をリリース。野宮真貴やBONNIE PINK、刀根麻理子といったレジェンダリーな存在や、十束おとは、上坂すみれ、道重さゆみといった気鋭の若手シンガーを迎え、きらめきの昭和を令和の現代に再解釈してみせた。
充実のリリースを重ねてきたコロナ禍を経て、2022年には2年半ぶりの来日が実現。2度目のフジロックフェスティバル出演や、全国ツアーなどでフロアを大いに盛り上げてきた。SKE48 Team KIIのプロデュースを手がけるなど、活動の幅はますます広がっている。
インタビュー後編では2023年2月に来日公演を控えているNight Tempoに、今後実現させたい活動の構想や、かつての自身と同じようにネットで活動する音楽クリエイターにメッセージをいただいた。
前編 はこちら
(プロフィール)
Night Tempo
DJ、音楽プロデューサー
2015年から2017年にかけて、1980年代のポップスや歌謡曲を再構築する活動により、ヴェイパーウェーブから派生したフューチャーファンク・シーンで注目される。
2019年、「FUJI ROCK FESTIVAL ’19」に出演。
同年から昭和ポップスをリエディットするプロジェクト「昭和グルーヴ」シリーズを始動。
オリジナル楽曲のリリースや楽曲提供、国内外でのライブやDJプレイも精力的に行っており、2021年12月には自身初のメジャー・オリジナル・アルバム『Ladies In The City』をリリース。
韓国ソウル市出身
KOMCA(韓国音楽著作権協会)会員
80年代アイドルの最大の魅力は声にキャラクターがあること
─2023年2月に東京・キネマ倶楽部と大阪・味園ユニバースでの来日公演が行われます。どのようなステージになりそうですか?
昭和グルーヴのDJとライブパフォーマンスをハイブリッドさせた「The Night Tempo Show」という新たなシリーズをここからスタートさせます。去年のフジロックでお披露目した矢川葵さんとの新プロジェクト「FANCYLABO」も出演します。どちらもめちゃくちゃ昭和の雰囲気のある会場ということもあって楽しみですね。
─アルバム『Ladies in The City』や降幡愛さんとコラボした『Be With You(feat. Ai Furihata)』など、女性シンガーをフィーチャリングしたプロジェクトが続いています。Night Tempoさんが惹かれる女性シンガーにはどんな共通点がありますか?
声にキャラクターがある人が好きです。だから声の魅力を引き出すボーカルディレクションにはめちゃくちゃこだわります。ただコロナで来日できなかったこともあって、『Ladies in The City』も降幡愛さんとのコラボも、全部リモートでレコーディングしたんです。降幡愛さんは80年代ポップスへの解釈がものすごく深くて向いてる方向も同じだったので、楽曲のアイデアを交換したりといった作業は何の問題もなくスムーズにできたんですが、リモートでのボーカル録りはネット環境の差などもあって少し苦労しました。日本のネット環境がもうちょっと良かったらなと、もどかしく思うところもありましたね。
─最新の仕事としてはSKE48 Team KIIの『時間がない』をプロデュースされましたが、そろそろ来日もしやすくなったのでは?
はい。僕も名古屋に行くことができて、メンバーのみなさんとそれこそ“時間がない”中で精一杯のことができたと思います。今回は事前に16人のボイスサンプルをいただき、歌唱パートの割り振りをするところから、メンバー1人ひとりのボーカル・ディレクション、編集、ミックスまで携わらせていただきました。ちょっと厳しい言い方になると思うんですけど、今の日本の音楽リスナーってアイドルソングにそこまで期待してないと思うんです。ただ自分の作った楽曲については、純粋に音楽として評価してもらえるものに、責任を持って仕上げたかった。それがプロデュースというものだと思うので、隅々まで力を抜きたくないという思いがありました。
─Night Tempoさんが愛してやまない昭和のアイドルポップスと現代のアイドルソング、その違いはどこにあるのでしょうか?
80年代のアイドルポップスって、歌い出しを聴くだけでそのアイドルの姿が浮かんでくるような楽曲が多いですよね。それもやっぱりソロアイドルがメインだったから、その方の声のポテンシャルを引き出すディレクションにものすごく労力をかけていたからだと思うんです。一方で今のアイドルはグループがほとんどだけに、個々の声の魅力を十分に生かしきれてないような気もします。アイドルグループ全盛の2010年代はそれでも握手会とかいろんな仕掛けで数字を伸ばすことができたのかもしれないけど、その成功体験からアップデートしないまま来てしまって、だから今はコアなファンしか聴かない音楽になってしまったのかなと思うんです。
"現場"で活動できなかったコロナ禍は音楽が純粋に評価される契機にもなった
─たしかに日本のアイドルシーンもK-POPに押されて、一時の勢いを失っている感があります。
コロナ以降、その差はさらに顕著になった気がします。握手会ができなくなった上に、楽曲そのものがどれくらい聴かれているのかも配信の数字で丸わかりになって。コロナはアーティストにとって厳しかったけど、音楽が純粋に音楽として評価された期間でもあったような気がします。でも個々の声にしっかりと向き合ってみると、SKE48 Team KIIのメンバーのみなさんの声もとてもキャラクターがあって魅力的なんですよ。それこそグループに収まってるのはもったいないと思った人もいたりして(笑)。『時間がない』は少なくとも自分の中では、海外のリスナーも含めて今の音楽リスナーに満足してもらえる楽曲になったという自信があります。
─ちなみに韓国のアイドルやシンガーをプロデュースしたい意向はありますか?
うーん。韓国ってトレンドのサイクルがめちゃくちゃ早いので、ヒットやブームは作れてもカルチャーまで育たないんですよ。一時期、シティポップとか80’sに飛びついてた人たちも、みんなどこかに行っちゃいましたしね。ビジネスならそれでもいいんですけど、アートを追求するならやっぱり日本がいいなと感じています。あとはアメリカのクリエイターとも進めているプロジェクトがあるので、活動のメイン拠点は日本とアメリカになるのかなと思いますね。
構想しているプロジェクトは30以上 実現に不可欠なのはパートナーの存在
─「昭和グルーヴ」シリーズの第15弾では、RAMUのラストシングル『青山Killer物語』の公式リエディットをリリースされました。今後もシリーズは続くのでしょうか?
はい。80年代のアイドルが3ヶ月に1枚ペースでシングルを出していたように、3ヶ月に1タイトルを目標に継続できたらなと思っています。権利のクリアランスにはけっこう時間がかかるので、フジパシフィックさんには事前に楽曲のリストをお渡していて、クリアできたものから順番に取り組んでいる感じです。(RAMUの)菊池桃子さんは一番のフェイバリットと言ってもいいくらい大好きで、実現できたときは本当にうれしかったですね。
─先日ゲスト出演された「マツコの知らない世界」では、ついに菊池桃子さんと対面。RAMUを現代にアップデートさせた「RAMU2.0」を手掛けてみたいとも語っていました。
「RAMU2.0」はかなり前から構想していて、デモ音源もできているので、もろもろ状況がOKになったらすぐにでも稼働できます。ほかにもやりたいプロジェクトは30個くらいあって、ある程度、準備が進んでいるものもあります。それを表に出せるかどうかは自分の知名度にかかってくるところもあるので、ひたすら頑張るしかないなと思っています。
─Night Tempoさんのようにネットの音楽コミュニティから飛び出して、活動のスケールを広げたいと考えているクリエイターにアドバイスはありますか?
1つだけ言えるのは、パートナーは慎重に選びましょうということですね。ネットで目立つ活動をしてると、いろんなところから声がかかると思うんです。ただ中にはけっこういい加減な会社もあって、いい才能を持ってたのにダメになってしまった人もたくさん見ています。かと言って、ネットで作品を発表しているだけでは活動のスケールは広がらない。僕はフジパシフィックミュージックさんや(ライブプロモーターの)スマッシュさんといった由緒正しい日本の音楽会社と一緒に仕事することで、とてもいいバランスで活動できています。お酒を水で割るとちょうどいい感じになるみたいに、斬新なことをやってるクリエイターほどトラディショナルな仕事をしてきた会社とパートナーを組むメリットは大きいんじゃないでしょうか。ちなみに僕はお酒が飲めないので、クラブでもコーヒーを飲んでるんですけど(笑)。
TEXT:児玉澄子
(公演情報)
2023年2月22日(水・祝前日)
『The Night Tempo Show with FANCYLABO – Extra』
東京・Spotify O-EAST
問合せ:SMASH https://smash-jpn.com
(リリース情報)
2022年12月21日(水)配信リリース
Night Tempo『One Way My Love (Neon Mix) feat. 上坂すみれ』(ユニバーサル)
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