ライブのMCは何を話すと盛り上がる? コツを落語家に聞いてみた
[立川志の彦さんインタビュー]
音楽ライブで難しいもののひとつに「MC」がある。
何を話せばいいのか、どう話せば盛り上がるのか、内容を忘れたときはどうすればいいのか…
今回は、そんな悩めるミュージシャンの疑問を「話のプロ」である落語家さんにぶつけてみた。(全2回の1回目/後編へ)
立川志の彦(左):落語立川流 立川志の輔一門 五番弟子。1983年生まれ、東京都練馬区出身。師匠志の輔の公演先の名古屋まで練馬からヒッチハイクで向かい入門志願するというロックなハートの持ち主。2007年立川志の輔に入門、2014年二ツ目昇進。2021年より妻の実家のある高崎市に家族で移住。群馬の自然の中で子育て満喫中。学生時代にカラオケで一番歌っていた音楽は、ブルーハーツとモーニング娘。
まいしろ(右):エンタメライター。立川志の彦さんとはもともと友人。最近は落語マンガ「あかね囃」にはまっている。
最近あったことを周りの人に話して反応をみる
まいしろ(以下、まい):立川志の彦さんは、現役の落語家として活動されていますね。
立川志の彦(以下、志の彦):落語会には階級があって、下から「前座」「二ツ目」「真打ち」といいます。僕はそのうち「二ツ目」として活動していますね。
まい:1回のライブは何分ぐらいなんでしょうか?
志の彦:何人かの演者がでるときは15-20分、ひとりでやるときは1時間半〜2時間ぐらいですね。
まい:2時間しゃべりっぱなしはすごい…! 縁起でもないことを聞くのですが、それだけ長いと本番で内容を忘れたりしないんですか?
志の彦:忘れますよ
まい:そんな堂々と…!
志の彦:ただ、大事なことって台本通りにしゃべることじゃないんですよ。一度高座(※落語のステージのこと)にあがったら、お客さんと自分の呼吸をあわせてしゃべることが大事なんです。
だから、内容を忘れることはそんなに焦ることじゃないし、その場の空気を楽しみながらしゃべることが大事だと思っています。
まい:私だったら内容を忘れたらその場で焦って自滅しそうなんですが、悠々とかまえることが大事なんですね。
志の彦:いや内心そんなに悠々とはしてないです
まい:焦りはあるんですね。落語家さんはひとりで高座にあがりますが、緊張されないんですか?
志の彦:します! 特に初めてやるネタは緊張しますね
まい:緊張したとき、心がけていることはありますか?
志の彦:お客さんを子どもだと思って、(子どもに話すように)丁寧にわかりやすくしゃべるようにしています。そうすると自分もリラックスしてくるんですよね。
まい:めちゃくちゃ実践的だ…!
ここから本題なんですが、今回は落語家さんからミュージシャンが使えるライブMCのテクニックを学びたいと思っています。落語は話すことが決まっていることが多いですが、落語の前にやる「マクラ」は元祖ライブMCなのではと思っています。
志の彦:マクラは、自分のことを知らない人に、この人の話を聴いてみたいなと思ってもらうためのツカミの部分です。毎日生活している中で見つけたネタを、ちょっと脚色して(ネタの前に軽く)話したりしますね。
まい:志の彦さんの場合、どうやってマクラの内容を考えているのでしょうか?
志の彦:僕は「マクラを考えよう!」と思って考えることはしてないですね。
「最近こんなことあったよ」と周りの人に話してみて、反応がよかったら「これはマクラで使えるな」「ここだけ変えよう」とアレンジします。
まい:普段の生活からマクラのネタを見つけるコツはありますか?
志の彦:うーん、メモは常に取っています。
人は人に対して笑うと思うんですよ。だから(人の)「ここが変だな」「ここがモヤモヤするな」といったところをメモして、後から見返すようにしていますね。
まい:私もライターとして仕事をする中で、日常生活でいい企画を思いついてメモをすることがあるんですが、メモが適当すぎて後から見返して自分がなにを言っているのかわからないことが結構あります
志の彦:僕もあります
まい:安心しました!!!
志の彦:全然使えないものもありますよ。客層によって「このネタは使えるけど、このネタは使えない」といった違いもありますし。
まい:まずはとにかく、日常の中でネタに使えそうなことをメモしていくという姿勢が大事なんですね
トークは練習した上で「いま思い出した」ように喋るといい
まい:常々疑問だったのですが、落語ってすごく練習が必要なイメージがあるのですが、マクラも練習されるんでしょうか?
志の彦:僕はマクラも練習してます
まい:あんなに「いかにも練習してません」みたいな雰囲気でしゃべっているのに…!
志の彦:ほとんどの落語家は、即興でマクラを話すことはしていないと思いますね
まい:(じゃあもしかして、MCがうまいミュージシャンも事前にMCの練習をしているのか…?!)
志の彦:ただ、本番が練習になっているというのは正直あります。お客さんがあまり多くないときに新しいマクラをやってみて、反応がよかったら勝負の高座にもっていくということはありますよ
まい:大事なときは、選りすぐりのマクラを持っていくんですね
志の彦:あと、自分を知っているお客さんが多いときは新しいネタ、あまり知られていないときは自己紹介になるようなネタを話すといった使い分けはしてます。
まい:あんなにフランクに話しているのに、そんな高度な判断がされているとは…!
志の彦:ライブのMCもそうだと思うんですけど、マクラって「いまふと思いついたんだけど」みたいな雰囲気でしゃべることが大事なんですよ。ちょっと言い間違えたり、つっかえたり、うまい人はそういうミスも込みで話されていると思います
まい:あの…マクラを何回も練習しているということは、「最近こんなことがあったんだけど〜」という雰囲気であんまり最近じゃないことを話していることもあるんですか?
志の彦:数年前のことを昨日のことのように話すことはありますね!
まい:「最近」の定義が広いんですね…! マクラは演目と比べてどれくらい重要なパートなのでしょうか?
志の彦:音楽のライブも同じだと思うんですが、演目を盛り上げるためにマクラがあるんです。マクラは大爆笑してもらえたけど、演目がウケなかったら成功したとは言えなくて。
だから、ウケなくても自然に演目に入っていけたら、それはそれでマクラとしては大成功なんです。
まい:ミュージシャンでいうなら、演奏が盛り上がればMCで盛り上がる必要はないんですね
志の彦:ただ、高座にあがってお客様が温まっていないのに、何もしゃべらず演目だけやるとお客さんのテンションがあがらないことがあるんですよね。
演目だけやってしまうと、いくら頑張っても最高点にいかないままライブが終わってしまうことがあるんです。
そういうときはマクラでお客さんのテンションを上げておくと、演目も最高点までちゃんと盛り上がるんですよ。客席の雰囲気を感じて、判断することを心がけています。
まい:MCはライブの最高点をつくるための下準備なんだ!
志の彦:ただ、逆にマクラで変な空気を作ってしまうと、演目中に持ち直すことができなかったりします
まい:急にギャンブル感でてきましたね
志の彦:マクラですべるぐらいなら余計なことは喋らない方がいいと思います。特に、持ち時間が短いときは冒頭ですべると修復不可能なので、自己紹介と一言二言だけ話して演目にスッと入るように心がけています。余計なことを話してウケないと客層のボルテージがどんどん下がるのが肌で感じるんですよね
まい:ミュージシャンでいうと、対バンで持ち時間が少ないとき、フェスのステージなどが当てはまるかもしれませんね。
マクラの練習は、普段どうやってされているのでしょうか?
志の彦:自分が本番で話した内容を、録音して聞き直しています。「ここはゆっくり話そう」「語尾を変えた方がいいな」「ウケてないから削ろう」「逆にここはウケてるからもっと膨らませてみよう」というのを客観的に見て直します。それを別の高座で試して、また聴いて直しての繰り返しですね。
自分が上達しているのもわかるので、元気がでますよ。
まい:いい話だ…!
志の彦:ただ、音楽と違って落語だと、録音したり撮影していることがわかるとお客さんが緊張するんですよ。だからお客さんにわからないように録音する方がよかったりします
まい:音楽の場合は「今日のライブは映像化されるよ!」と言われるとテンションがあがることも多いので、ライブのテイストやファン層でも変わりそうですね!他に、練習のときに気をつけていることはありますか?
志の彦:普段からいろんな人の落語を聞いて、「こういう風に喋りたいな」という理想を見つけるようにしています。
ミュージシャンの方の場合も、誰でもいいので自分の目標をみつけて自分とどう違うか研究されるのがいいかもしれないですね。
まい:ちなみに、いままで自分が考えたマクラって音源で記録されているんですか?文字に起こされているんですか?
志の彦:文章で書いて、それをしゃべってみて修正して、最後はまた文章で書いたりしています。文章にするとどうしてもリズムが悪くなるんですが、話をまとめたり、問題のある表現を削ったりできるので、最後は文章にしていますね。
いざとなったら音楽に頼ろう
まい:最後は「こういうときどうしたらいいの?」という質問をぶつけていきたいです。まずは「ちゃんとMCも練習してステージに挑んだのに、本番ですごくスベってしまったらどうしたらいいでしょうか?」
志の彦:動じないことが大事です
まい:力強い回答だ…
志の彦:そもそも僕は「スベった」という状況はないと思っています。変な空気になったときでもフォローすれば笑いが起きるし、フォローせずに堂々としていても笑いは起きると思います。
なので「変な空気になってもお客さんにスベったと思わせない」というのが大事だと思います
まい:肝に命じます! 続いては「拍手や笑い声が起きたとき、おさまるまでどれくらい待ちますか?」
志の彦:すぐに話すと笑いどころをつぶしてしまうので、お客さんのリアクションのピークが過ぎるまでは待っていますね。
ただ、待ちすぎるとテンポが悪くなるので、リアクションのピークが来たら、そのまま落ちきらないうちに話し始めることが僕は多いです。
まい:想定外のところで、お客さんから笑いが起きたときはどうされていますか?
志の彦:状況によりますけど、いじれる状況だったら「いまどうしておもしろかったんですか?」と問いかけてみたりします。逆にいじるとその後の流れが悪くなるときはスルーすることもありますね。
まい:なるほど。続いては「前座で出たときお客さんから『早く終わって欲しい』という空気が出ていたらどうしますか?」
志の彦:ありますよね(笑)。ただ、自分に興味のないお客様に自分を知っていただくチャンスだとも思いますので、自分に与えられた時間内でちゃんと結果を残せるように、普段から鍛えてきた鉄板の自己紹介のネタを話して、演目に入っていますね。
まい:なんとか爪あとを残したい場合はどうすればいいでしょうか?
志の彦:前座のときはどうしても時間が短いので、いろいろ試したりチャレンジするより、とにかく練りに練った鉄板ネタを持っていくのがいいと思っています。あと自分に興味を持ってもらえるような自己紹介ネタを一つ持っているといいと思います。
そうじゃないとお客さんのリアクションが薄かったときに心が折れちゃいますよね。慣れてる演目ならアウェイでも最後までちゃんとできるので、アウェイのときは鉄板のマクラと演目がいいと思います。
まい:そういうお客さんの空気って、普段どうやって探られていますか?
志の彦:自分より前に出演者がいるときは、袖で様子を確認します。前の方からの流れもあるので、直前で話すことを考えて出ていくときもありますね。
まい:様子を見てネタを変えられているんですね!
志の彦:マクラも演目もやるまでは決めていなくて、いくつか候補を持って高座にあがります。それでお客さんの笑い声とか笑いが返ってくるまでの間を聞いて、「今日のお客さんはこういう話がウケそうだな」と思ってその場で演目を選んだりしています。
マクラで探りながら演目を決めることも多いですね
まい:経験がなせる技ですね…!
志の彦:他には、第一声がけっこう大事だと思います。高座にあがって最初に「えー、本日は…」と話すときの「えー」の音が高いか低いかでそのあとのウケが変わったりします。喋り出しのテンションをどこに持ってくるかですね。
若手として前座に出るなら、元気よく高い声で「えー」と言った方が楽しい雰囲気になるんですね。今日のお客様や、会場はどのテンションで話し始めたら良いかを意識してみたらいいと思います。
まい:言われてみると、音楽ライブの場合も、曲が終わってMCに入るときの最初のひとことがMCの雰囲気を決めているかもしれないですね…!
志の彦:あとは、ミュージシャンがいいなと思うのはMCのときに音楽が使えるんですよ。
落語だと毎回話の終わりにオチがないと「何の話だったの?」と思われてしまうんです。でもミュージシャンの方だとなんでもない話のあとにギターでジャジャーンと音を鳴らしたら、それだけで話が締まるんですよね
まい:確かに!ラジオのジングルと同じ仕組みですね
志の彦:だから「今日こんなことがあったよ、ジャーン、この前こんなこと思ったよ、ジャーン…」という風に、合間に演奏を入れたら変な空気のときでもなんとかなると思うんですよ
まい:すべてのミュージシャンがいますぐ出来るめちゃくちゃ実用的なアドバイスだ…!
志の彦:しかも、無音でしゃべるよりBGMがあった方が雰囲気を作りやすいですよね。
言葉だけで雰囲気を作るより簡単なので、落語家としては音楽が使えるミュージシャンはうらやましいですよ
まい:なるほど。ライブのMCが苦手なら、一番得意な音楽を使おうというのはすごくいいメッセージですね!
< 後編 に続く>
TEXT:まいしろ
(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
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