うまいライブのMCは何が違うの? 落語家にMCを解説してもらう[立川志の彦さんインタビュー]

ライブの楽しみのひとつである「MC」。
曲の間のちょうどいい休憩でもあり、それぞれのアーティストの個性が見えるところでもある。
アーティストごとに良さのあるMCだが、プロの目から見るとどう見えるのか。「人のライブを解説するなんて野暮ですよ」と言いつつ本企画を引き受けてくれた落語家の志の彦さんにお話を伺った。(全2回の2回目/前編へ)
立川志の彦(左):落語立川流 立川志の輔一門 五番弟子。1983年生まれ、東京都練馬区出身。師匠志の輔の公演先の名古屋まで練馬からヒッチハイクで向かい入門志願するというロックなハートの持ち主。2007年立川志の輔に入門、2014年二ツ目昇進。2021年より妻の実家のある高崎市に家族で移住。群馬の自然の中で子育て満喫中。学生時代にカラオケで一番歌っていた音楽は、ブルーハーツとモーニング娘。
まいしろ(右):エンタメライター。立川志の彦さんとはもともと友人。最近は落語マンガ「あかね囃」にはまっている。
フレンドリーな雰囲気が嬉しいあいみょん
まい:前回は落語家さんからミュージシャンが使えるライブMCのテクニックを学ぶという企画でしたが、今回は実際のアーティストのライブ動画を落語家の視点から解説してもらいます。まずはこちらのアーティスト!
あいみょん – さよならの今日に 【AIMYON TOUR 2020 “ミート・ミート” IN SAITAMA SUPER ARENA】
今回はNETFLIXで、上記のライブ映像などが収録された『AIMYON TOUR 2020 “ミート・ミート IN SAITAMA SUPER ARENA”』(のMC)を視聴しながら解説してもらう。
志の彦:ビッグアーティストで恐れ多いですが始めさせていただきます(笑)
とりあえず、あいみょんさんのライブ動画を事前に家でも見たんですけどめちゃくちゃいいですよね!!
まい:単純にあいみょんのファンがひとり増える結果になっている…
志の彦:MCもすごくいいですよね。これ完璧じゃないですか?
まい:あいみょんさんのMCは、オーディエンスからしてもとても聞きやすいですよね
志の彦:まず最初に演奏でライブの世界観を作って、何曲か続いてお客さんが「早くあいみょんと喋りたいな」と思ったタイミングでMCをされていますよね。
そのとき、あいみょんさんの場合は、かしこまった感じではなくタメ語で話しかけているんですよね!あいみょんさんの人柄が伝わりますし、ファンの方もこんな風にフレンドリーに話しかけてもらえて嬉しいんじゃないでしょうか
まい:このライブのあいみょんさんは「〇〇な人いるー?」というお客さんへの呼びかけも多いですよね
志の彦:大きい会場のライブだと、昔からずっとファンという方もいれば、最近聞き始めたばかりの方もいると思うんですよ。だから最初は会場の空気がばらばらだと思うんですよね。
そこで「〇〇な人は手を上げて」「みんなで拍手して」みたいなコールアンドレスポンスがあると、みんなの緊張がほぐれて会場の雰囲気が一つになりやすくなるんだと思います
まい:そんな効果があったとは…!
志の彦:あとはライブの最初の方で「みんなで拍手してみよう」といった呼びかけをすると、初めての慣れていないお客さんも入ってきやすいというのはあると思います。
だから、ライブの最初の方に拍手や声出しなどの呼びかけをするのはすごくいいですよね
まい:いままでたくさんのライブに行ってきたんですけど、MCをそういう視点で見たことが全然なかったです。普段からステージに上がっている人にしか読み取れないことってあるんですね!
志の彦:それから、あいみょんさんの場合は関西弁でリズムよく喋られているので、聴いていて心地よいですよね。次の演奏曲とも繋がりがあって「このあとの演奏を盛り上げるためにMCをされている」というのが伝わってきます。
まい:1人でやっているシンガーソングライターさんの場合、ライブでひとりでしゃべり続けないといけないことも多いです
志の彦:1人で話すときと他に人がいるときは、そもそもしゃべりの種類が違うと思うんですね。高座(※落語のステージのこと)でウケる話を、居酒屋で友達にしてもウケないんです
まい:おもしろい話だからといって万能じゃないんだ!
志の彦:居酒屋のときは、やっぱり相手もしゃべりたいんですよ。だから自分だけがしゃべり続けても笑ってもらえない。
逆にステージで1人のときは、居酒屋のときのように話すとテンポがガタガタになるんです。言葉で説明するのは難しいですが、1人のときはなるべくポンポンとリズムよく話していくのが大事になってくるんですね
まい:なるほど、大変おもしろいです!
メンバーにスポット当てる星野源のMC
まい:続いては星野源さんです
星野源 – Pop Virus(Live at Tokyo Dome 2019)
同じくNETFLIXで、上記のライブ映像などが収録された『星野源 – DOME TOUR “POP VIRUS” at TOKYO DOME』(のMC)を視聴しながら解説してもらう。
志の彦:あの僕、SAKEROCKの頃から星野源さんの大ファンです
まい:いわゆる古参のファンですね
志の彦:星野源さんは、こちらが喜ぶことを言ってくれる方という印象があります。たとえば「お客さんの近くで演奏したい」とか、ファンとしては言われたら絶対うれしいですよね。
大きい会場になってもお客さんを置いてけぼりにせず、ファンとしてちゃんとエスコートしてくれていると感じます
まい:星野源さんはライブなどで、バックバンドのメンバーと寸劇をやることも多いです
志の彦:めっちゃ楽しいですね(笑)メンバーそれぞれにスポットが当たって、メンバー個別のファンが増えるというのもすごくいいなと思います
まい:確かに、そう思うとメンバー紹介ってどのアーティストにもどんどんやって欲しいですね!続いてはアンジェラ・アキさんのMCです。
アンジェラ・アキ 『アンジェラ・アキのMCが面白すぎる件 Part2』
『アンジェラ・アキのMCが面白すぎる件』というYouTube公式動画 を視聴。
志の彦:アンジェラさんは、ひとつひとつ感情や演技を入れてしゃべられる方ですよね。身振り手振りが大きくて、アンジェラさんがやると演奏とのギャップがあって可愛らしくて最高ですよね
まい:落語は、逆に身振り手振りが小さい印象があります
志の彦:落語は、無駄なとこをそぎ落として話に集中させるようにしています。ただ、ミュージシャンのように立って歩ける大きなステージでやる場合は、動いたりお客さんに話しかけたりするときに、身振り手振りがあった方がいいんでしょうね
まい:アンジェラさんはけっこう人の真似もうまいという印象があります
志の彦:サービス精神の塊ですね!こんなことまでさらけ出してくれるんだと観ていてとても嬉しくなります!真似があると、状況が想像しやすなるし、お客さんも頭の中に絵を描きやすいと思います
落語の参考にもなるさだまさしさんのMC
まい:最後はMCの名手と言われるさだまさしさんです
志の彦:さだまさしさんのライブになにかいうなんて恐れ多すぎます…。さだまさしさんは、そもそも落語が大好きな方ですし、我々落語家がさださんを見て学んだりしてるくらいですから(笑)
まい:すごい!
PR (トーク)2013年「さだまつり 前夜祭」/さだまさし 「天晴~オールタイム・ベスト」初回限定盤DVDより
アンジェラ・アキさんと同じく、YouTubeの公式チャンネルからMCだけの動画を配信しているさだまさしさんの動画 を視聴する。
まい:さださんの場合は、もはやMCの方がライブの本番ともいえます
志の彦:さださんのしゃべりは落語ですよね。落語って、落語家本人がいなくなって、登場人物の会話だけで話が進んでいくんですよ。
まい:なるほど、さださん自身が落語に詳しいがゆえのしゃべり方なんですね
志の彦:テンポもいいし、感情移入も上手だしもうこれは一つの作品ですよね。
まい:落語家、ミュージシャンと立場は違えど、「同じステージにあがる者どうしだからこそわかることがある」というのはすごくいいですね!
志の彦:観させていただいたみなさん、みんなとても楽しそうにお話しされていて、自分が面白いと思ったことを、楽しそうに相手に伝えるということが一番大事なんだなと、改めて感じさせていただきました。勉強させていただきありがとうございました!
< 前編 はこちらから>
(立川志の彦さん公演情報)
『立川志の彦落語会 in 高崎』
日時:2023年1月7日(土)午前の部 11時開演、午後の部 14時30分開演
場所:高崎市総合福祉センター
詳細URL:http://shinohiko.com/live0107-2/
『立川志の彦落語会 in TOKYO』
日時:2023年1月22日(日)14時開演
場所:千本桜ホール(東急東横線 学芸大学駅)
詳細URL:http://shinohiko.com/live0122-3/
TEXT:まいしろ
(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
Twittter:https://twitter.com/_maishilo_
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