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第2回:ぷにぷに電機さん(後編:インタビューその2)

音楽メディア3万円お買い物!!
第2回:ぷにぷに電機さん(後編:インタビューその2)

憧れの音楽クリエイターは普段どんな音楽を聴いているのか。
そもそもどうやって聴く音楽をチョイスしているのか。

そんな好奇心を満たすべく、音楽クリエイターの方に音楽メディアの購入資金3万円をご提供して、CD・レコードショップでお買い物をされる様子を観察させていただき、実際に購入された音楽メディアをご紹介して、購入の背景もお聴きする、というのがこの企画です。

第2回ゲスト :ぷにぷに電機さん

(プロフィール)

ぷにぷに電機(ぷにぷにでんき)

作詞家、作曲家、シンガー、音楽プロデューサー。

2015年、コミックマーケットに自主制作のCDで出展することから本格的な音楽活動を始める。
ジャズやボサノバ、ラテンをルーツとしながら、国内外の様々なトラックメイカー、リミキサーとのコラボレーションにより、シティポップ、フューチャーファンク、フューチャーベース、ファンコットなど、多彩な音楽ジャンルを縦横無尽に行き来する。
2022年6月、PARKレーベルでのリリース音源をリマスタリングして、自身初となる全国流通のCDアルバム『創業』をリリース。

ご協力いただいた店舗

waltz
東京都目黒区中目黒4-15-5

お買い物の様子は 前編 を、お買い物の振り返りは 中編 をご参照ください。
後編では、ぷにぷに電機さんの考える「音楽メディアをプロダクトとしてリリースする意味」などを深掘りしてお聞きしました

ぷにぷに電機さんインタビュー(『創業』編)

ぷにぷに電機さんは2022年6月に、自身としては初の全国流通となるアルバム『創業』を、CDというフィジカルメディアでリリースされました。

『創業』をリリースするときに、自分が音楽メディアを出す意味って果たしてあるんだろうか、ということを考えました。
幸いなことにレコードやCDやカセットテープって、使い捨てではなくずっと聴かれるものなので、ある程度プラスチックを使っていても許されるのかな、とは思っているんですけど、そのためには何回も聴ける耐久性、何年も残る作品にするという自分のなかでの決心、クリアしなければいけないハードルみたいなものがあるなと思っています。

レコード会社に所属したら、スケジュールどおりにアルバムを出すことが一番ノーマルな活動の仕方なのかもしれないですけど、私や今日買ったカセットをリリースしているインディペンデントのアーティストって、自分で決断して自分で作品を出すので、どういうプロダクトを作るのかもアーティスト自身の責任になる。

確かに、今あえて音楽メディアを作るってことは、とても意識的な行為ですね。

チェット・ベイカーやエラ・フィッツジェラルド、山口百恵さんとかが大好きなんですが、自分がオンタイムで聞いていない音楽でも今こうやってメディアとして手に入るのは、そのメディアが作られて、誰かが保管してたりまだお店に残っていたりしたからであって、アーカイブのあり方としてすごくいいなと。
「受け継がれていく音楽」みたいなロマンがとってもあるなと思います。

私、CSの少し怪しげな科学番組が好きなんです。何万年後の地球をシミュレーションするという番組があって。かつてここはニューヨークでしたみたいな感じで、木は数十年で分解されるけど、例えば金属製のサックスは状態が良ければ1万年後も残ってる可能性があるとか。地下のジャズクラブは密閉空間で空気があまり動かないから、結構そのまま保管される可能性があるとか。
そういうのを観て「へぇー」って思って(笑)。

自分が出したレコードやCDが何万年も残って、未来の新人類みたいな人たちが私のCDを見つけて、数万年前の人間はどういう生活をしてたのかっていうのを、考古学的に調べている様子を想像して…。そうなったらいいなと思ってメディアを作ってます(笑)。

自分も『創業』を買ったので、ぷにぷに電機さんの音楽をアーカイブする人にエントリーできた、と考えるととても楽しくなります。

音楽メディアだけではなくて、家具や洋服を買うときもなるべくヴィンテージショップとかでいいものを買って、自分がもし使えなくなってもまた次の人に引き継げるものを持とうと思っています。

ぶっちゃけ、現代はモノありすぎだな、そんなにモノはいらんだろうって思うのですが、やっぱりモノがないと生きていけないので、そういうバランスをどうやってとっていけばいいんだろうって。

ハードウェアを変えるのはすごく難しいけど、気持ちや考え方というソフトウェアを変えることは割と可能なので、自分で変えられることからやっていきたいなとすごくポジティブに思ってます。

ぷにぷに電機さんがそんな考え方をするようになったきっかけは何でしょうか。

フランスのMoe ShopやメキシコのMACROSS 82-99と一緒に曲を作るときに、もっと友人として彼らのことを理解してあげたいなと思って海外のニュースを見始めたんですよ。

そしたら気候変動が世界的に大問題になっていて。
日本に住んでいてもいろいろありますけど、地球規模で見ると酷い干ばつが起こったりヨーロッパで40度の猛暑になったり北極の氷が溶けてたりとか。

私はインターネットをベースに音楽をやっているので、国境や物理的な距離っていうのはあまり感じることがなくて、すごく簡単に世界中の人と一緒に曲を作ることができて、もうちょっと英語がんばらなきゃなとか、もうちょっと知らなきゃなという感じで世界が広がりましたね。

気候変動や格差ってすごく深刻な問題ですし悲惨な事例もたくさんあるので、ときにはすごく落ち込んじゃうこともあるんですけど、それを解決するためにチャレンジしてる人たちの姿も同時に見られるので、めっちゃくちゃポジティブなインスパイアをもらっています。

ぷにぷに電機さんがフィーチャーされたタワーレコードの広告で掲げられていた、耐複雑性、わかりやすさに頼らない、っていうメッセージがとても印象的でした。

知れば知るほどわからなくなりますよね。音楽もそうじゃないですか。
何も知らないときは「できた!」って思うけど、何か一つ技術を得ると見方や捉え方ががらりと変わりますよね。やばいこのミックスめちゃくちゃじゃんって。それでも成立してたのはなんでだろうとか。

お医者さんがおっしゃってたんですけど、毎回オペでおなかを開けるたびに、人体ってうまくできてるなって思うらしいです。
それはそうですよね。私は今フルーツオレを飲んでますが、これでエネルギーを得ることで、何かを考えたり音楽を作ったり歌ったり走ったりテニスをしたりできるってすごいことです。謎ですよね。

お医者さんが人体ってよくできてるなって思うのと同じように、知れば知るほどわからないことが増えていく、知る/知らないという相反することが、両方自分の中にあるっていう状態が、なんかすごくいいんだろうなと思います。

ぷにぷに電機さんのお話しを聞いていると、ちゃんと考えてからとりあえずの落としどころを見つけていくという作業がとても楽しそうだなと感じます。

私は結構グルグルものを考えちゃうタイプなんです。

自分が作っているのはポップ・ミュージックですけど、お金のためではなく自分のために曲を書いています。こういうことがあったよという内容ではなくて、今自分がどういう状態なのかを知るために曲を書いている節がある。

パッと浮かんだモチーフやフレーズ、それは3秒にも満たないものなんですけど、いいなと思う3秒を大体3分くらいに引き伸ばしていくときに、いろんな要素を入れていかなきゃいけない。
その過程で、自分が社会や日常をどういう視点で見ていて、どうあってほしいと思っているのかが、曲に押し出されてくる。それが楽しくて曲を書いてるんです。それを皆さんに聴いていただけてお仕事になっているというのは、私的にはびっくりというか不思議ではあります。

『創業』のことに話を戻します。『創業』は配信リリース済みの楽曲をリマスタリングした9曲に、新曲を1曲だけ加えて、フィジカル限定のアルバムとしてリリースされています。このあたりの意図をあらためてお聞きできればと思います。

最初は、配信リリース済みの音源は3曲くらいにして、あとは新曲にして普通のアルバムにしようと思ったんですけど、配信のディストリビューターによっては、一つのアルバムにアーティストとして登録できる数に制限があって。

アレンジをお願いしたアーティストでも、私はきちんと皆さんをアーティストとしてクレジットしたかったので、そんな自分のスタイルだとアルバムとしての配信リリースは難しいなと。

さらに配信リリース済みの音源をアルバム用にリマスタリングすると、ISRC(音源ごとに付与される国際標準の識別子)が新たに採番されるので、同じタイトルでもカタログとしては別もの扱い、再生回数も割れてしまう。

だったらフィジカルオンリーでベスト盤にしちゃおう、リマスタリングもかけ放題だし、音にバリエーションがでで面白いかなと。
新曲も1曲入ってるんですけど、楽曲制作は低コストで、モノづくりとしては高いパフォーマンスを出せるんじゃないかなと思いました。

実はSpotifyに『創業』を再現したプレイリストはあるんですけど、リマスタリングされていないので、CDアルバムの『創業』とは音が違うんです。

モノづくりとしてこだわった点はどんなところですか。

環境負荷のことはすごく気になってまして。
もちろん100%クリーンなものは不可能ですけど、100%を達成できないから1%もやらないというのは本末転倒なので、少しでも前進するために実験することが大事だと思っています。

まず、輸送時の負荷のことを考えて印刷やプレスは国内で行っています。
またジャケットには放置竹林から作られた「竹紙」を採用していますが、それにも本当に色々な検討を重ねました。
どんなに素材が環境にやさしくても、紙を白くするために使うブリーチ剤がすごく汚染度の高いものだったらいけない。一方でインクがうまくなじまなかったら、品質チェックでロスが出てしまう。
私はおおざっぱな性格なので、少しくらいムラになってもいいじゃんって感じなんですけど、環境負荷が高くなる一因として、品質追及によるものもあると思います。

そんな『創業』も外側のビニールだけは使い捨てなんですよ。
全国流通として小売店に納品する時に商品に傷がついていると返品や廃棄のリスクがあるので、完全にパッケージして納品してほしいというのがあって。
調べたらセルロースでパックするものとかもあるんですけど、経年劣化が激しくて1年くらいでダメになってしまうらしくて。
環境にやさしいプロダクトといっても技術や品質はまちまちなので、どこを取ってどこを取らないのかというせめぎあいでしたね。

紙ジャケットの場合、CD盤を白い不織布の袋で覆うパターンが多いと思うんですけど、『創業』はそれもなくて、スッキリしていていいなと思いました。

それも検討して、「なくていいでしょ!」となりました。
ディスクにパンツ履かせる? いいよノーパンで! いらない、いらないって(笑)。

ちなみに『創業』の二刷から歌詞カードも竹紙になってます。
初版は普通紙だったんですけど。

最初はクレジットという権利的な問題だったのが、それを回避しようとしたらモノにお金がかけられるようになって。一つのデメリットがずっとデメリットになり続ける訳ではないんだなと。
新曲だらけのアルバムだったら、ここまでプロダクトにお金をかけられませんでしたから。

面白い仕上がりだと思いますので、ぜひ『創業』を手に取っていただきたいです。

それと、今日買い物をして、自分もカセットテープをリリースしたいなと思いました。
今頭のなかにある企画は、カセットで出したら面白いんじゃないかって思ってて。カセットを出すならwaltzさんに置いていただけるようなクオリティの高いプロダクトを作らないと…!と思ったので、とっても刺激になりました。

(リリース情報)


ぷにぷに電機『創業』
2022年6月29日 CDリリース
2022年12月3日 アナログ盤リリース


ぷにぷに電機、Mikeneko Homeless『your room』
2022年10月26日 配信リリース

サイン入りCDをプレゼント!

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事前に応募規約を必ずお読みください。

【応募期限:2022年11月30日(水)23:59まで】

TEXT:KENDRIX Media 編集部

※本企画は、株式会社本の雑誌社『本の雑誌』で連載されている「図書カード三万円使い放題!」というコーナーの音楽メディア版が観たい、という発想から企画したものです。
 本企画の実施にあたり、株式会社本の雑誌社様にご相談差し上げたところ、二つ返事でご快諾をいただきました。あらためまして、ここに感謝申し上げます。
 WEB本の雑誌 https://www.webdoku.jp/honzatsu/

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