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スピーカーは大雨でも大丈夫?野外フェスで一番音がいい時間帯は?音響エンジニアにフェスの裏側について聞く

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ライブやフェスで欠かせないもののひとつが「音響」です。

ライブ会場で大型のスピーカーやPA卓を調整するエンジニアの方を目にする機会はあるものの、なかなかその裏側を知る機会はない音響の世界。

広大な野外ステージで音を届けるための工夫から最新の騒音対策、一番音が良くなるかもしれない天候的な要因まで、音響のプロにその裏側を聞きました。

(おはなしを伺ったひと)
株式会社アーチドゥーク・オーディオ
德田 時彦さん
2013年に横浜で設立されたアーチドゥーク・オーディオは、数々のライブやフェスをはじめとする各種イベントにオーディオソリューションを提供している会社です。
德田さんは、2025年2月に同社へ入社、ディレクター/チーフエンジニアとして、主に音楽イベントのサウンドデザインと運営指揮をご担当されています。

野外フェスで一番音がいい時間帯は「風がなく過ごしやすい夕方」

――さっそくですが、まずはプロの方に「野外フェスで一番いい音を楽しめる環境」をお聞きしたいです。

気温20〜25度、湿度50〜60%前後、無風の夕方です。

――具体的だ……!

夏フェスで、夕方に太陽が沈んで、すずしくなり始めるときがありますよね。あそこが一番音が良くなることが多いです。

――景色や気候的にも一番いい時間帯ですね。

地面が熱いと、熱気が上にあがっていくので音をゆらしてしまうし、上空に音が逃げていってしまうんです。

逆に、気温が下がり始めるときは音がおりてくるので、観客席も音に包まれているような感覚になるんですよ。

――まさに野外フェスの醍醐味ですね…..!湿度や風も関係あるのでしょうか?

湿度の変化で、空気中の広域の吸収率が変わるんです。

乾燥していると、高音が吸収されてしまい、遠くまで届きません。湿度がいいと高音が空気中に吸収されず遠くまで届くので、密度のある音になります。

同じように、風も音をゆらがせます。特に高い音は流されやすくて、高音だけ聞こえにくくなることがあるんですよ。

音響としてはできる限り温度や湿度に合わせた調整をしています。

――野外フェスの場合は客席も非常に広いですが、一番「音がいい場所」はありますか?

エンジニアがいる客席のテントの前が、一番いい音になりやすいです。そこの音を聞きながら音響操作をしていますからね。

ただ、現場としては、どの場所でも同じ音になることを常に目指しています。

――最近ではフェスにVIP席などが登場していますが、音もVIP席の方がいいのでしょうか?

主催側からリクエストされることはあります。

ただ、小さな会場だとVIP席と一般席の距離が数メートルもないことがあるので、そういう場合は別のスピーカーを設置しない限り音響で差をつけるのは難しいかもしれないですね。

――自然や物理的な制約と闘いながら音を届けてくれているんですね!

スピーカーの大敵は大雨ではなく「かみなり」

――フェスの音響あるあるについてもお聞きしたいです。大きなフェスだと出演前に10分ほどのリハがあることが多いですが、実際にあのリハだけで調整をしているのでしょうか?

そうです。大規模フェスの場合は、アーティスト専属の音響さんが来るんですよ。
そのアーティストのことを理解しているから、短時間のリハでなんとかなっています。

初見のオペレーターなら10分のリハで調整するのは至難の業です。

――リハと本番で変わるところはありますか?

かなり変わりますよ。たとえばホールでの公演の場合、夏ならお客さんの汗で湿度があがるし、冬なら皆さんが着こんでいる服に吸音されてしまうんです。

リハのときは「お客さんが入ったらこういう音になるだろう」と思いながら調整しています。

――野外フェスではかなりの大雨がふることもあります。スピーカーが雨ざらしになっているところもよく見かけますが、実際のところ大丈夫なのでしょうか?

いまは「全天候型」という便利なスピーカーが出てきていて、鉄製の部分さえカバーすればどしゃぶりや大雪にもたいていは耐えられます。

このタイプのスピーカーがなかった10年以上前までは、すべて手作業で養生していたので大変だったんですよ。

――時代にあわせてスピーカーも進化しているんですね!全天候型スピーカーが苦手な天候はありますか?

これに関してはスピーカーというよりは、それに繋がっている機材たちが苦手なことはあります。
最近だと、夏の暑さですね。風通しが悪い会場だとオーバーヒートする可能性があるので、冷却に気を使っています。
スポットクーラーでテント内を冷やすこともありますね。

あと昔から一番怖いのはかみなりです。電子レンジなどの家電に「アース」という緑の線がついていると思うんですが、我々の機材にも同じものがついているんです。

それを地面に設置するんですが、かみなりが落ちるとアースから電気が逆流して、機材が全部壊れるんですよ。

なのでかみなりの警報が出たら、機材の電源をすべて落として避難、となります。

――かみなりはどこに落ちるか予測しにくいので大変ですね…….!

大規模なフェスの場合は、天気だけをチェックしているチームがあります。
本部で予報レーダーを一面に並べて、天気を見ながら「まもなくどしゃぶりです」と各ステージに通達して、ステージの本番開始時刻をコントロールしたりするんです。

――ステージの裏側でそんなことが行われていたとは……!

最近は避雷針を立てておくこともありますね。

避雷針と聞くと雷を落とす避雷針をイメージする方が多いんですけど、いまの時代は「このエリアには雷を落とさない」という避雷針もあります。

クレーン車で避雷針を高くあげて、会場に雷が落ちないようにするんです。

――フェスの快適な環境は、いろんな最新技術で支えられているんですね!

山の谷間をぬって音が聞こえてしまうこともある

――野外フェスは客席も非常に広いですが、最大で何メートルほど音を届けられるのでしょうか?

音響の専門家が考える最大到達距離は70〜80メートルです。

先ほど話した「高音が吸収される」などの音質変化があってもいいなら、100メートルまではなんとかなるかもしれません。ですが、条件次第なので絶対大丈夫とはいえないですね。

ただ「騒音問題が発生する距離」だともっと長くて、数キロメートルほど先からでも苦情が来ることがありますね。

――「聴こえる」という基準だけなら、かなりの距離まで届くんですね。

音は空気の振動なので、ぴたっと止めることができないんですね。

それどころかビルの隙間や山の谷底を通るときに、音がより大きくなってしまったりするんです。

あとは曇りの日も環境が変わります。雲に反射して、想像がつかないところに音が届いてしまうんですよ。

大阪の海辺でライブを開催していて、神戸から苦情が来たこともあります。

――雲で音が反射するとは……! 苦情が出る場所を予想するのが難しそうです。

最近ではGoogle Earthに登録されている地形データをもとに、「このステージでこの向きに音を鳴らすと、ここまで音が響く」と計算するソフトもあります。

それでもでこぼこが多い山間は大変で、「なんでここまで音が届くんだろう」というところから苦情が来ることがありますね。

地形図面と会場の図面を照らしあわせて、苦情が来たエリアまで行って確認することもあります。
でも先ほどまで曇っていても行ったときには晴れていたり、環境が変化していて何も聞こえなかったり……。

――裏側でそんな苦労をされているとは……!
現場でよくあるトラブルがあればお聞きしたいです。

音響初心者あるあるといえば、つなぎ間違いですね。

何重にもチェックしたうえで作業してますが、大規模な会場となると何百回線も配線するので、ミスが起きやすいんです。

――野外フェスでよく使われるスピーカーはどういうものなのでしょうか。

いまのスピーカーには、「ポイントソース」と、「ラインアレイ」があります。

皆さんがご自宅で使っているスピーカーはだいたいポイントソースですね。

逆に、野外フェスの場合はほぼラインアレイを使います。手間はかかりますが音が届く範囲が広いんですよ。適材適所で、近場はポイントソースで対応することもあります。

――毎回どのくらいの機材を持って行くのでしょうか。

大きい会場なら大型トラック4台ぐらい、中くらいのステージなら1台分ぐらいでしょうか。
アリーナだとトラック2台分ぐらいですね。

吊るすスピーカーだけで総重量4トンぐらいです。
スピーカー1個がだいたい100kgなので、かなりの量になりますね。

――想像以上の大きさ、重さですね……!

スピーカーだけでなく照明もあるので、倒壊しないように基礎となる舞台にも何トンも「おもし」を載せて設営するんですよ。
倒壊しないようにですね。

――野外フェスの場合、ステージを作り始めるのはどれくらい前からなのでしょうか。

長いところで1ヶ月ほど前ですね。地ならし・基礎組み・地盤沈下のチェックをして、ようやくステージを組むんです。

音響や照明は「うわもの」と呼ばれていて、その基礎がすべてできた後、本番の1〜2日前ほど前から設営を始めます。

基礎を作っているときに台風が来るのが本当に大変なんですよ。すべてが遅れていくので……。

――文字通り、様々な人たちがひとつのステージを作り上げているんですね……!

いま気になる最新技術は「イマーシブオーディオ」

――野外フェス以外の音響についてもお聞きしたいです。フェスではスピーカーを吊るしているところをよく見ますが、ライブハウスやホールでは床に置くタイプのスピーカーをよく見かけます。

スタッキング(すえ置き)のことですね。

基本的にはフェスや野外会場でよく使われているフライング(吊るし)の方がお客さんは快適なんです。

フライングは高いところに設置できるので、最前列のお客さんと後方のお客さんの距離の差が少ないんです。
なので最前列のお客さんもそこまで爆音にさらされることは少ないです。

スタッキングだと舞台上に設置されているので、どれだけ調整しても後ろのお客さんまで音が届く音量を出すと、前のお客さんにとっては音量が大きくなりすぎることがあります。
その調整は腕の見せ所です。

――スタッキングを選ぶ理由はなんでしょうか?

フライングはとにかくスピーカーが重いので、会場によっては吊ることが物理的に難しいことが多いんです。

それから、ライブハウスやホールでは条件的にフライングができないこともありますね。
会場に重いものを吊れるところがない、日本は海外に比べてルールが厳しいので客席の真上にスピーカーを吊るすことができない会場が多い、などですね。

後者の場合、それでもフライングでやるなら最前列の一番いい席をつぶさないといけません。
そうなると最前列のお客さんがステージから遠くなってしまうなど、お客さんにとってよくないので、スタッキングを選ぶことが多いんです。

――音のよさだけでなく、会場の設備や観客の安全を考えてスピーカーを選んでいるんですね。他にどういった基準でスピーカーを選んでいるのでしょうか?

ソフトウェアを使って、客席の各エリアでの聴こえ方をシミュレーションしながら選んでいますね。
たとえばスタンディングライブか、着席のライブかだけでも、最適なスピーカーの設定は変わるんです。

他に、アリーナ等の場合は、同じ会場でもステージの位置や向きが変わるとスピーカーの位置も変わります。
「前回は縦長だったけど今回は横長に使う」ということだったら、どのスピーカーを何個持っていくかが大きく変わりますね。

――シミュレーションは毎回行っているのでしょうか。

そうですね。まったく同じ公演は存在しないので、必ずシミュレーションしています。

ライブハウスなどで既に設置されている機材で行う場合はシミュレーションはしませんが、持ち込みで公演を行うときはシミュレーションします。

たとえば、全国ホールツアーの場合は、全会場共通で使う機材をあらかじめ出し、その後はあるものでなんとかするという発想になりやすいですね。

ツアーをやりながら、次の会場のプランを作っていきます。

――会場にあわせて臨機応変に機材を選んでいくんですね。
アリーナやホールでのライブの場合、人気の公演だと機材席が追加販売されることがあります。これはどういう流れで販売されるのでしょうか?

最初に機材に必要なスペースを見積もるのですが、実際進めていくうちに「この場所にはこの量の機材を設置する」といった機材の量が決まってきます。

その結果、機材で使う席を減らせることがあるので、わかったタイミングで空いた席を販売するんです。

――様々な裏側が聞けてとてもおもしろいです。今後試してみたい音響の取り組みがあれば教えてください。

海外で使用される公演が増えてきている、イマーシブオーディオをやってみたいですね。いわゆる立体音響なので今まで聴いていたどのライブとも違う体験ができると思います。

皆さんは映画館で体験していると思いますが、ライブであのような立体音響を行うことも新しい体験になるので興味があります。

――本日はありがとうございました!

 


TEXT:まいしろ

(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
X:https://x.com/_maishilo_
note:https://note.com/maishilo

PHOTO:和田貴光

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