ラッパーSHOに聴く、ストリートとSNSと音楽のこと
~地に脚を着けたまま世界へ~(後編)
憧れのラッパーにメールを送ったら、本人から返事が来たのでアメリカに行って本人とつながることができた。
ラッパーのSHOさんは、そんな原体験をもとに、どうしたら自分が「世界中から会いたいと思われる存在」になれるか、を真剣に考え続けている。
2007年からYouTubeで自身の楽曲のMVを公開し始め、いまでは再生回数が100万回を超すMVは10本を数える。
公式チャンネルの登録者数はじわじわと、しかし着実に増え続けており、2021年9月に25万人を突破した。
「海外に広がったきっかけ」と評価するTikTokのフォロワー数は80万人を突破している。
約15年間、一貫してストリートとSNSを主戦場としながらもがき続け、実際に世界を侵食しようとするSHOさんに、音楽クリエイターとしてSNSとどう向き合っているのか、じっくりとお聴きしたインタビューの後編をお届けする(前編は こちら)。
(プロフィール)
SHO(ショー)
1982年生まれ、岐阜県高山市出身。
ラッパー。
元アルペンスキー日本代表。
自身のレーベル「S.TIME STYLE RECORDS」、オリジナルブランド「S.TIME」を運営。
ゴールドベンツとドリルミュージック
2020年にYouTubeで公開されたMV『型落ちGold Benz』のコメント欄には、外国語のコメントが沢山寄せられています。いったいどのような経緯で海外からも注目されるようになったのでしょうか。
コロナの少し前くらいの時期に、ニューヨークのラッパーのPop Smokeの曲を好んで聴いていました。
Pop Smokeは、UKが発祥のドリルミュージックを取り入れて「ブルックリン・ドリルミュージック」というスタイルを始めたラッパーなんですけど、そのスタイルが超カッコ良くて、、、
ゴリゴリした感じだけど、新しさと同時に50セントのような雰囲気もあって。
残念ながらPop Smokeは撃たれて亡くなってしまうんですけど。
ぼくなりにPop Smokeの影響を受けて、ドリルミュージックのスタイルを取り入れてリリースしたのが『型落ちGold Benz』です。
すると、ゴールドベンツとドリルミュージックの組合せが、ヨーロッパで注目されるようになったんですね。「なんか面白いアジア人がいる!」と。
ドイツ車であるベンツを取り上げたことと、UK発祥のドリルミュージックという要素が、うまくハマったんですね。
そうですね。
特にドイツで広がったきっかけに、TikTokが関係しています。
TikTokで『型落ちGold Benz』を見た海外の人が、自分のことをPop Smokeではなく「Pop Sushi」とか「Pop Rice」とか、そんなニックネームをつけ始めて。
ヒップホップのサンプリングみたいに、名前をサンプリングして「Pop」を付けて呼んでもらえたのはうれしかったですね。
自分でも #popsushi とか #poprice というハッシュタグを付けまくっていました。
それからは、ドイツやデンマークでiTunesのランキングにも入ってくるようになりました。
『薬物はやめろ』は、曲としてはランキングの上位にはあまり行けなかったので、ついに結果につながってきたと感じています。
制作の裏側についてお聴きします。海外からも注目を集めるようになりましたが、音楽や動画の制作体制は、以前よりも大きくなっているのでしょうか。
制作体制を大きくしようと思えばできるんですけど、それが必ずしもヒットにつながるとは考えていないですね。
MVは、オハイオ州出身で日本在住のCESさんに、『薬物はやめろ』の頃からずっと撮ってもらっています。
ビデオによって、スタッフ5・6人体制で制作したものもあれば、もっと小規模にマネージャーと一緒に作ったものもあって、使い分けてますね。
これはCESさんとも話していて意見が合致しているですけど、「ベットして回収できないよりは、長く続けられることの方が大事だよね」ということで、制作体制を大きくするよりも、定期的に新曲を出し続けることにウェイトを置いています。
著作権も大事な収入源
2013年にJASRACのメンバーになられています。
2013年というのは、どういうタイミングだったんでしょうか。
ちゃんと売れる曲を作っていこう、という意識が高まった時期だったと思うんですけど、売れた後のこととかも考え始めたのかもしれないですね。
収入の部分で、少しでも分配が入ればいいよねという。
YouTubeでの再生回数に伴う分配を得たい、ということは考えてなかったのですか。
一切考えてなかったですね。
YouTubeは再生回数が取れて、ファンや仕事につながることが第一でした。
MVの再生回数が100万回を超えてからやっと、これだけ見られているから「うちのイベントに呼ぼう」とか「テレビ番組で取り上げよう」と思っていただけるようになりましたから。
2019年に公開された動画で、SHOさんがどうやってお金を稼いでいるのかというテーマで語られていたのですが、一つ目は「音楽やライブ」、二つ目は「アパレル」、三つ目と四つ目はまだ言えなくて、五つ目が「YouTube」とおっしゃっていました。
音楽の著作権というのは、どういう位置付けでしょうか。
著作権は一つ目の「音楽」のなかに含まれてますね。
ぼくのなかでは、ライブ、配信と並んで、著作権も大事な収入源です。
昔よりも増えているので、そこは感謝しかないですね。
このインタビューは、SHOさんのキャラクター的に、営業妨害になりませんか。
ぼくのキャラクターとして、アリなんじゃないかと思います。
ぼくは結構見栄っ張りみたいなところがあるので、「SHOの曲を使いたいんですけど」という話があったときに「JASRACに預けているので申請を出してください」と言えるのは何だか嬉しいんですよね。
あまり使ってほしくないときも「JASRACに連絡してみてください、権利預けているんで」って。
ちょっとだけニュアンスが違うんです(笑)。
オファーはありがたいけど罠もあると思っている
2022年2月にリリースされた新曲『DANKE』についてお聴きします。
ドイツ語のタイトルでフックにもドイツ語が使われていて、キャッチーでメジャー感も強い楽曲だなと感じました。
トラックのプロデュースは808 MafiaのPVLACE さんだということで、驚くとともに納得もしましたが、どんな経緯で制作されたんですか。
PVLACEさんの方からぼくのInstagramにDMしてきてくれたんですよ。
「Hey, what’s up?」みたいなメッセージが来て、「わ、808 Mafiaのプロデューサーだ」と思って、すぐに「I want your beats!」と返しました。
そしたらすぐに「OK」という返事があって、数日後に5・6曲送ってくれたんですよ。
いまどきのビートメーカーは、Instagramでプロモーション活動をされている、ということは聴いていましたが。本当なんですね。
完全に推測なんですけど、PVLACEさんもかなり戦略的に、ぼくに連絡してきたと思っています。
ぼくの『型落ちGold Benz』は、TikTokでドイツの若い子たちの間でバズってたんですよね。
一方で、PVLACEさんはドイツ出身ですけど、アメリカの808 Mafiaで活動しているので、ドイツではそれほど認知されていないようなんです。
ぼくがドイツのWEBサイトで取り上げられたりしたので、「ドイツでバズっている日本人がいる」という噂が、PVLACEさんにも伝わったんだと思います。
そこから「SHOが自分の曲を歌えば、自分もあらためてドイツにリーチできるし、アジアでも広がるかもしれないな」と思われたんじゃないかと。
SHOさんとしても、『型落ちGold Benz』でギアが一段切り替わったと思うのですが、それをさらに加速させるようなオファーが、非常に良いタイミングで来たという感じですね。
そうですね、本当にありがたいです。
ただ、ここには罠もあるなと思っていて。
やっぱりストリートで活動していることで、ファンになってくれた人がいて、ファンが求めているものがある。
そういうものをちゃんと届け続けないといけないなというのはあるので、そこは今すごく考えています。
音楽以外のエンターテイメントの部分もあって、そこから誘導して音楽に辿り着く、ということも、ぼくの武器だと思っているので。
「日本人のSHOに会いたいよね」と言わせる
2021年4月に三郷市文化会館で単独ライブを開催されています。
HIP HOPのアーティストで1,000名を超えるキャパシティーの会場で単独ライブを行う、ということは結構珍しいと思いますが、いかがでしたか。
自分のレーベルで自分が核となってやってみようということだったんですけど、コロナの影響で延期したり、その後も緊急事態宣言があってチケットを売るにも売れない状況が続いて。キツいなと思うこともあったんですけど、やってよかったですね。
ぼくは普段はクラブのイベントに呼ばれることが多いんですけど、前後のDJのことを考えると遠慮してしまって、自分の持ち時間が25分から30分くらいになってしまうんです。自分の持ち曲をもっと聴きたいというお客さんも多かったので、単独ライブでちゃんと披露することができて。やってよかったと思います。
まだ時節柄ライブ・エンターテインメントを取り巻く状況は厳しいですが、ライブ活動の展開はどう考えられていますか?
インディーズとして、いかにして世界のトップランカーのラッパーになるかということにフォーカスを置いていきたいなと思っているので、本当なら、次は武道館、スーパーアリーナと頑張っていきたいんですけど。
まずはヒット曲を作ることに集中しながら、呼んでいただいたイベントにはどんどん出ていきたいなと思います。
フェスとか、ヨーロッパでも良いので、どんどん自分の曲を披露したいという感じですね。
SHOさんはインディペンデントで、SNSを中心にプロモーションされて、レーベルやアパレルショップをご自身で運営されていて、、、
海外のラッパーに近いスタイルを実践されていると思うんですが、メジャーとの契約に魅力を感じることはありませんか?
メジャーとの契約は魅力しかないんですけど、やっぱりぼくのベーシックにあるのがHIP HOPで、これまでいろんなラッパーが自分達で立ち上げてきたレーベルのやり方を、見よう見まねですけど、自分なりに取り入れてやっています。
まだ全然形になっていませんが、海外で成り上がっていったラッパー達のスタイルを、今の日本にうまく適合させられたら良いなと思っています。
最近はそこに留まらず、50セントでも、カニエ・ウェストでも、誰でも良いのですが「日本人のSHOに会いたいよね」と言われるように、自分磨きをもっと頑張ろうと思っています。
背中を追っていたら絶対にその人達の上には行けないので、自分自身がそういう存在になることを目指そう、というのが最近の心境です。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
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