「このメンバーとじゃなかったら絶対にアルバムはできなかった」Skaai、uin、yuya saito、BadFriendsがアルバム「Gnarly」の舞台裏を語る
「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載では日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちに話を聞いていきます。この連載でいろんな人たちのいろんな言葉が連なったとき、日本が独自の感性で育んできた音楽文化を重層的に表現できるのではないかと思っています。
今回はついにソロアルバム「Gnarly」を完成させたSkaaiさんが登場。「ジャングルにいるみたいな体験でした」と制作を振り返りました。人気プロデューサー・uin、TRIPPYHOUSINGとしても活動するyonawoのyuya saito、そして謎の重要メンバー・BadFriends……。類稀な才能たちはどのようにアルバムを作り上げていったのか。そして制作の延長線から誕生したレーベル・FR WIFIとは? アルバム制作の話題を中心に、さまざまなトピックについて話してもらいました。
文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴
みんなと一緒にアルバムを作れたらいいな
――FR WIFIというレーベルの成り立ちを教えてください。
Skaai:「レーベルをやろう」と集まったメンバーというより、僕ら全員にそれぞれ目的があるけど、とりあえず「Skaaiのアルバムを作ろう」という目的は一致していたので、偶発的に始まったメンバーでもあるんですよ。そこで「コレクティブみたいなレーベルがあったら面白そうだね」と話していたらどんどん現実味を増してきたというか。まだ何も決まってないし、これからどうにでもなれる組織だと思っています。
uin:僕とSkaaiとBadFriendsでカフェにいて、「3人で何かやろう」か「生音を入れた曲を作ろう」みたいなのが最初じゃない?
BadFriends:そうそう。
uin:3人のグループLINEを作ることになって、目の前にカフェのFREE Wi-Fiのロゴが目に入ったから、特に何も考えずグループ名をFR WIFIにしたんです。「これでいいっしょ」みたいな(笑)。そこから実制作に入るまで結構時間が空いたよね。
Skaai:うん。それで最初に作った曲が『FR WIFI』なんです。
Skaai – FR WIFI (Live at Billboard Live YOKOHAMA | 20250920)
――それはいつ頃ですか?
Skaai:正直よく覚えてないんですよ。LINEのグループを作ったのは2年くらい前。
――そんな前から!
Skaai:みんな要領を分かってなくて(笑)。
BadFriends:(自分たちが目指している音楽の)作り方とかね。
Skaai:それもあるし、僕ら自身がそれぞれの活動をしていたし。最初はとりあえず集まってビートをいっぱい作っていました。
uin:そこにたどり着くまでに、たぶん1年くらいかかっているんですよ(笑)。
――みんなで暗中模索しながら進めていたんですね。
Skaai:うん。僕は自分でレーベルをやって、自主でアルバムを出したい気持ちがあって。あとみんなと一緒にアルバムを作れたらいいなって。
――同居人でもあるyuyaさんはどのようにFR WIFIに合流したんですか?
yuya saito:俺は3人で集まっている話は聞いていたけど、別に最初は制作には関わってなかったんです。そしたらある日、3人がフジパ(フジパシフィックミュージック)のスタジオにいて、uinから「遊びに来なよ」と連絡があったから行ってみたら、そこで『FR WIFI』とかを作っていたんですよね。そっから僕も混ざって……。
BadFriends:『Tambourine man』とか作ったよね。
yuya:そうそう。その段階でもFR WIFIに参加する予定は全くなくて。普通にスタジオに遊びに来た人みたいな感じでした(笑)。
――ちょっとギターを弾いたり?
yuya:……ギターを弾いたかな? よく覚えてない。
Skaai:トラックメイクしていたよ。30分で1曲作ってた。
BadFriends:ライブを観に行く予定だったはず。
yuya:そうだ。ライブを終えて、スタジオに来て、また別のライブに行く予定だったんです。
――本当に軽いノリでスタジオに来たんですね。
yuya:俺はそういう感じでしたね。
アイデアがある人は「自分いっていいですか」って挙手する
――僕はギターのフレーズが心地よい『Tambourine man』がリード曲っぽいと思いました。
Skaai:意外かも。その発想はなかったですね。結構ストイックな曲だと思うんですけど(笑)。
――こういう複雑なリズムが個人的に好みなんですよね。
BadFriends:この曲は最初、俺が適当に叩いた生ドラムをレコーディングして、それを元にジャズっぽい変則的なリズムを組もうと思っていました。アフロキューバンみたいな。でも最終盤になってドラムの音が生すぎると思い、uinに投げてスネアを差し替えてもらい、さらに俺が細かい位置を調整してます。最初のトラックはかなりごちゃごちゃしていたけど、だいぶシュッとしました。
――Samphaの2ndアルバム「Lahai」の雰囲気を思い出しました。
BadFriends:このへんは初期に作ったトラックで、俺らがみんなSamphaをめっちゃ聴いていたんですね。だから自然と(影響が)出ちゃっているんだと思います(笑)。
Skaai:でも、こういう曲ってすごくむずいんですよ。
――というと?
yuya:SamphaはSamphaでしかないというか。俺らがああいうリズムパターンを目指すと真似した感が出ちゃう。そうすると絶対にオリジナルを超えられない。
Skaai:僕らは僕らのオリジナルを作りたかったんです。
uin:だから特に制作期間の後半は、みんな「これだけじゃマズい」という意識になって、ヒップホップっぽいトラックを作り始めました。(アルバムとして)足りない要素をどんどん埋めていくようなイメージでしたね。
――このチームには作曲できる人がたくさんいると思うのですが、今作はどのように制作を進めていったんですか?
BadFriends:結構みんなで作っていたイメージがありますね。
yuya:でも0を1にする最初の作業というか、コードを考えたりするのは、BadFriendsが多かったよ。そこにみんながいろんなことをしていく。
uin:疲れたら交代して、別の誰かがパソコンの前に座っていくようなイメージです。
BadFriends:俺がギター弾いて、コードとフレーズを考えて、とりあえず録音して、ビートはuinに打ち込んでもらう。そこで「シンセベースを入れよう」というアイデアが出たらyuyaが設定してくれる。生のベース音が欲しくなったら、誰かが弾く。みたいなイメージですね。
Skaai:本当にすごかったですよ。ジャングルにいるみたいな体験でした(笑)。アイデアがある人は「自分いっていいですか」って挙手する、みたいな。

今、みんなでスタジオに入っているから遊びに来ない?
――ベースやキーボード系もみなさんで分担したんですか?
Skaai:キーボードはa子とかのプロデュースをしている中村エイジで、ベースはKeity。『FR WIFI』だけベースは熊代崇人くんなんですけど。たまにここに遊びにきてもらって、デモを聴いてもらっていたんですね。さらに今回の作品では、自分たちがスタジオに入っているとき、ふらっと遊びにきたミュージシャンたちにもいろいろ弾いてもらっています。
BadFriends:「今、みんなでスタジオに入っているから遊びに来ない?」みたいな。
Skaai:「面白そうなことになってるじゃん!」みたいな。
――Skaaiさんはデモがどのくらい仕上がったタイミングでラップを入れていたんですか? 例えば、1ヴァース分が仕上がった段階とか?
BadFriends:トラックとして固まった1ヴァース分があって、そこにSkaaiが歌を入れて、uinと相談しながらラップありきで尺感も決めて、2ヴァース目以降をSkaaiとuinで作っていく。一旦フルで仕上がったら、さらに俺らが入って、みんなでアレンジしていくような工程が多かったです。
Skaai:僕はこの曲で歌詞を書くと決めたら、その週のうちにリリックを書き上げるようにはしていました。
――BadFriendsさん、uinさん、yuyaさんだけのトラックではなく、基本的に全員が関わっていたと。
BadFriends:そうそう。俺とyuyaは結局バンドの人だから、生楽器でバンドっぽくアンサンブルを作り上げることはできるけど、ヒップホップ的なトラックメイクは強くないんです。なのでそこは役割分担というか。俺らが弾いた音を新たに組み直してもらうというか。
――ものすごく複雑な工程を経ているんですね。
uin:確かにそういうコントロールはしていました。僕としては、オーディオ素材をみんなが作ってくれている感覚でした。
――なるほど! このアルバムを聴いて、lil yachtyの「Let’s Start Here.」やDijon、Blood Orangeみたいな質感を思い出して。生楽器だし、アンサンブルもあるけど、トラック感もある。だからインディーロックっぽいし、クラブミュージックっぽい。でも前提として、Skaaiさんのラップが立っているので、これはヒップホップのアルバムだなと思いました。
Skaai:あ、それを聞けて安心しました。めちゃくちゃごちゃごちゃしているようだけど、ヒップホップのアルバムであるっていう形は確立させたかった。Skaaiは日本のヒップホップで生まれたらアーティストだから、あまり変なことというか、実験的なことをしすぎるのは違うなと思っていたし。だから散らかった音を良しとしない空気がありました。曲として成立していて、なおかつヒップホップシーンにおいても話題になるような、そういう最高の曲を作ろうってテーマがあって、そこは意識統一できていましたね。
BadFriends:俺は実は別でバンドをやっているんですが、ヒップホップもめっちゃ好きで。でも俺が1人でトラックを作ると全然ヒップホップにならないという瞬間があって、そういうときuinに交代すると、いろいろ組み換えてくれて、(曲における)ヒップホップのパーセンテージが上がる。そういうバランスは意識してましたね。
――ちなみにBad Friendsさんは1人で作っていて、どういう部分で「ヒップホップじゃない」と感じるんですか?
BadFriends:ループものにしたいのに、展開を作りたくなる自分が出てくるんです。そういうアイデアしか思いつかなくなったときに俺は一旦お休みして、uinにバトンタッチします。
――そういうとき、uinさんはどのように変えていくんですか。
uin:でも、いつも通りですよ。ヒップホップって、音の要素が全部あって、抜き差しでしか展開がないんです。上物が抜けたり、ドラムが抜けたり、ベースが抜けたり。でもそれだけ。僕はもらったデータでそれをやるって感じでしたね。

大切にしたアルバムのニュアンス
――それぞれ違う特性を持ったアーティストたちが集ってようやくソロアルバムが完成したわけですね。
Skaai:本当はこのアルバムを出して、KMさんとのEP「Podium」が出る予定だったんです。でもアルバムが思いのほか大変で。やり始めたら「こんなんあと数ヶ月で作り終えられるわけがない!」と気づきました(笑)。
uin:Skaai的に「アルバムを作り始めよう」って気持ちになったのはいつだったの?
Skaai:2025年の年始ですね。1月1日の時点で「今年(2025年)はアルバムを出す」とストーリーズで宣言したし。覚悟はあったけど、具体的なイメージは全然でした。曲も『FR WIFI』しかなかったし。
uin:『MILLION』はいつだっけ?
BadFriends:今年に入って月1〜2くらいのペースでここ(yonawo house)に集まってみんなでビートを作り始めたじゃない? 初めてSkaaiがヴォーカルを乗せたのが『MILLION』だった気がする。
Skaai:そうだ。「とりあえずいっぱい曲を作ろう」ということで、ビートのストックをいっぱい作って、その中から選ぼうという話になったけどなんかあんま選ばれず……。
一同:(笑)。
uin:「Gnarly」の収録曲はほぼこの半年くらいで制作していますね。
――ちなみに、yuyaさんはギターやトラックメイクを担当していたんですか?
yuya:いや、俺は全然ギター弾いてないです(笑)。(素材となる)音を作ったり、ドラムの録音の環境を作ったり。あとミックスとかエンジニアっぽいこともしていました。
――ではメインでギターを弾いていたのは?
BadFriends:キュアかいと、っていうやつですね。ライブでもギターを弾いてくれています。
――『Am I Sick』はギターが印象的です。
BadFriends:気がついたらこういう仕上がりになっていたんですよ。
Skaai:この曲がリード曲になります。一番キャッチーだし、ドカンとくる。
yuya:で、ちゃんとヒップホップ。
Skaai – Am I sick? (or just party)
――この雰囲気を出すにはミックスがかなり重要だと感じました。
uin:この曲と『Namima (feat. 岩崎桃子)』だけ俺がミックスしました。
BadFriends:『Am I Sick』に関しては、ギターがバキバキに入っているので、俺やyuyaがミックスするとバンドサウンドになっちゃうんですよね。
yuya:なので、ヒップホップのミックスができるuinにやってもらいました。
BadFriends:ミックス前と後だとかなり曲の感じが変わったと思います。ミックスでかなり磨きがかかって、バランスもよくなって、ヒップホップになったというか。uin先生、ありがとうございました(笑)。
――マスタリングも難しそう……。
Skaai:アルバムのマスタリングは『MILLION』『Runaway』、『FR WIFI』をお願いしたKota Matsukawaです。僕とも仲が良いし、僕らの音楽に対してめちゃくちゃ理解があって。僕らから「こうしてほしい」とお願いしたこともないし、上がってきた音源も完璧でした。あとMatsukawaはw.a.uというレーベルも運営しているので、いろいろなアドバイスをいただける先輩ですね。
――岩崎桃子さんはどんな経緯で『Namima』に参加することになったんですか?
Skaai:ももちゃんは大学の後輩で、同じ会社で一緒に働いていたこともあるんです。だからほぼ毎日、同僚として顔を合わせていたんです。それが4〜5年前かな。もともと彼女がシンガーソングライターであることは知っていて。僕はももちゃんの歌が大好きだからどうにか一緒にやりたいと思っていたけど、「こっちはヒップホップだしな……」みたいなことで勝手に壁を作ってしまっていたんです。でも今作は「そんなものは取っ払ってしまおう」という発想で作られているから、もう真っ正面からオファーしました。
――岩崎さんは声もリリックも素敵でした。
Skaai:ですよね! 言語感覚が独特なんですよ。ももちゃんがラップしているヴァースはExcelの関数の話から広がっています(笑)。そういうセンスも最高なんです。
音を任せられる仲間たちがいたから、僕は歌詞に集中できた
――アルバム「Gnarly」を制作する上で、「みんなと一緒にアルバムを作る」「最高の曲を作る」というテーマに加えて、大切にしていた感覚はありますか?
Skaai:レコーディングと同じメンバーで、とんでもないライブをするっていうのを目標にしていました。2026年の1月にワンマンが決まっていたので、その日を歴史的な日にするっていうことを念頭において作っていましたね。
uin:音楽性という面では、結構やりたいことが制作中に変わっていきました。Skaaiは最初、歌いたいって言っていたし。
――そこでKMさんの「Skaaiはラップやりなよ」というアドバイスがあって。
Skaai:そう。EP「Podium」を作って、ラップが楽しくなった。それで「Gnarly」でも「ちゃんとラップをしよう」というモードになれたんです。
uin:トラックの雰囲気も変わったよね。最初は割と歌っぽいのを作っていた。
Skaai:僕は自分で作曲できるわけではないから、音像とかには疎いけど、すごいライブをしたいっていうのは当初からずっとコンセプトとしてありました。僕は日本のヒップホップを愛していて、自分のやり方でシーンやリスナーに何かを還元したかった。どうすればいいだろうって悩んだ結果、みんなが作ったことのない、すごいヒップホップミュージックを仲間たちとみんなで作って、そのメンバーと一緒にみんなが観たことないものすごいライブをしたら、シーンやリスナーへの還元になるかも、と思ったんです。
――「Gnarly」はそういう作品だと思います。10月29日にリリースされた『FR WIFI』でも度肝を抜かれましたし。あとSkaaiさんがより自由に羽ばたいている印象を受けました。
Skaai:これまでの作品も妥協してきたわけではないんだけど、今作は目の前にある選択肢がものすごく多かったので、より自分の理想に近いものを選べるようになった感じはありますね。それはこのメンバーに出会えたこともそうだし、自主でアルバムを出すっていうことも関係していると思います。
――自主制作だからこそ腹を括れた的な?
Skaai:というよりも、自主制作は全部自分たちでコントロールできるわけじゃないですか。そういう中で、自分には何ができて、どこを人に任せればいいかがわかるようになったんです。自己理解が深まったというか。そこが自分的には大きかった。より自由になれたし、自分の色が濃くなったように感じますね。
――信頼できる同世代の仲間たちと制作することで。
Skaai:攻めの姿勢をとりつつ、バランスをとることも忘れない。その温度感がみな完全に同じだったんです。だから僕は歌詞に集中したんですよね。今作はより自分らしい言葉でしゃべれていると思う。

ドレミファソラシドじゃない音に感覚で辿り着ける
――みなさんから見たSkaaiさんはどんなアーティストですか?
BadFriends:彼はもともとラップがすごいじゃないですか。でも歌のセンスもすごいんです。他の人には出せない味がある。「ここをこのメロディーでいくんだ!?」とか。
――どういうことですか?
BadFriends:感覚値だけで歌っているというか。ドレミファソラシドじゃない音、つまり正確なピッチじゃない音を出せる。これはやろうと思ってもできない。例えば他のアーティストさんで、下手っぽく歌うけど、それが味になってなんか良いみたいなことあるじゃないですか。それに近い。もちろんSkaaiの歌が下手とかそういう意味ではなく、正確ではないからこそかっこいいというか。
yuya saito:俺らだったら、たぶんそういうのは修正しちゃうんだよね。
BadFriends:そうそう!
――今作だと『Sign』はSkaaiさんの歌の魅力が出ています。
Skaai:あざます。『Sign』は歌うのも聴くのも大変な曲ではあるっす。ものすごくエネルギーがある。僕にとっては魂削り系(笑)。これ、かいとのギターソロがめちゃくちゃ長いのもポイントです。本当はこんなに長い予定ではなかったんですけど、かいとのギターを聴いていたら俺、泣いちゃって。「これは短くできない」と思い、全部入れることになりました。
uin:32小節ぐらいあるもんね。
yuya:真ん中と後ろの二箇所あるじゃないですか。俺らは(ギターが)途中でやめるかなと思って、ドラムをバーって組んでいたんですよ。そしたらかいとが最後まで弾き切った(笑)。
Skaai:大変な曲であるけど、個人的にはトップに入るくらい好きです。
Skaaiは一生自分と戦っている
――いつも一緒に制作されているuinさんはどう感じましたか?
uin:僕からすると、いつも通りですね。最初に「俺は絶対もうこれだから」って固めるけど、どんどん脱線していく。途中で「これじゃなかったわ」と言い始めて(笑)、納期の2〜3ヶ月前にバーっと作品ができていくパターンが多かった気がします。
Skaai:いつもと一緒だね(笑)。
uin:僕はSkaaiの「これをやりたい」をあんま信用してない(笑)。
一同:(笑)。
yuya:Skaaiは常に自分と向き合い続けているから、自然とやりたいことが変わってくるタイプなんですよ。最初は「歌いたい」って言っていたけど、EPを作って、出して、「やっぱラップやろうかな」みたいなのも、その結果なんですよね。
uin:ストイックだよね。
yuya:そうそう。なんか一生自分と戦っている感じはしたかな。
――なるほど。前回インタビューしたタイミングは、まさに歌とラップの境目だったような気がします。
Skaai:そう。何を作ればいいかわかんなくなっていた時期でした。例えば、今はこういうのが流行っているから、そのアンチテーゼのような曲を作ってみる。けど、全然ときめかない。あの頃は自分の中から言葉が出てこないので、リリックを書くこともストレスでした。
――一時的に言いたいことがなくなってしまった、と。
Skaai:はい。でもKMさんといっぱい話をしてEPを作って、並行してFR WIFIのメンバーともアルバムを作りながらたくさん話をした結果、「好きな音楽を作ればいい」という本質が理解できたんですよね。言葉でいうと簡単だし、普通のことだけど、実行するのはかなり難しかった。たぶんこのメンバーとじゃなかったら絶対にアルバムはできなかったと思う。「幸せだな」って思いながら作っていました。自分が引っ張るとか、そういう気持ちが完全になくなるというか。それに来年もこのメンバーでいるかわかんない危うさもあって。
――というと?
Skaai:悪い意味じゃなくて(笑)。今作はスタジオに入っているときにフラッと来てくれた友達が参加していたりもするし、ここにいるみんなもそれぞれスケジュールがある中で、同じ日に同じ場所に奇跡的に集まったグループでもあるんですね。だから、絶対にこの瞬間を逃したくないというか。マジで日程調整がめちゃくちゃ大変だったんで(笑)。みんな常に2〜3ヶ月先のスケジュールまでパンパンなんです。

人と違うことをしてカマしたい
――お話を伺っていて、BadFriendsさんは今作のキーパーソンだと思いました。
Skaai:BadFriendsがいなかったら、このアルバムはできてないです。それくらい重要人物です。育ってきた環境はまったく違うけど、身を削って遊びに来てくれる。
BadFriends:俺らは似ているよね。人と違うことをしてカマしたい。目指していることも、やっている音楽のジャンルも違うけど、深い部分が一致している。
Skaai:例えば、僕が『MILLION』のリリックを書いてきて、アレンジについて話していたら「アコギを多重録音したら良い音になるかもしれない」とか言っていて。話だけ聞いている分には意味がわからなかったけど、実際にやってみるとすごくいい感じになった。自分の引き出しにはない音像をイメージしていて、制作中は驚きの連続でした。
BadFriends:イントロからストリングスっぽく聴こえる音ですね。
――後ろで鳴っている音ですよね。あれ、バイオリンかと思っていました。
BadFriends:アコギを一音だけでピロピロピロっと弾いて録音して、そこにまた別に一音を弾いて録音したものを重ねて。それを何回もやって作った和音なんですね。こういうアイデアがどんどん制作中に湧いてきました。あまりヒップホップにはない音像だと思います。今はアルバムを作り終えたばかりなんだけど、実はもう新しい曲を作りたくてしょうがない(笑)。
――そういう音の発想にロックのアヴァンギャルドさやエクスペリメンタリズムを感じます。さっきお話しされていた攻めの姿勢というか。
Skaai:理解されないことをするのって超簡単で。新しいことをやるなら、こっちがお客さんたちを説得したり、かっこよさを証明する責任があると思う。今後はライブも含めてそういうプロモーションをたくさんやっていきます。その一環として、ライブ映像をフルで撮ったんです。
楽器弾ける人がいっぱいいるのに、ループをまんま使ってる曲もあったりする
――アルバムのタイトルを「Gnarly」にした理由を教えてください。
Skaai:もともとはサーファー・スケーター用語なんです。Gnarly Waveで「良い感じにうねった波」みたいな。そっから派生して「ヤバい」みたく使われるようになって。前からこの単語が好きなんです。綴りも、Gを発音しない感じもかっこいい。自分の中でずっと頭に残っていました。アルバムのタイトルに関しては随分長いこと考えていたけど、最終的に「Gnarly」にしました。みんな読めないかもしれないけど、まあいいか、みたいな。
――『Alex Interlude』を入れた理由を教えてください。
Skaai:これはもともとAlex Stevens(TRIPPYHOUSING)が「アルバム用に」って僕にくれたビートです。インタールードみたいな感じで、みんなに渡してアレンジを組んでもらいました。ここ1〜2年の自分を語る上で、Alexの存在は欠かせない。
――というと?
Skaai:僕とAlexは人間のコアな部分で似ている。違う環境で育って、違う悩みを持っているけど、苦しみが似ているというか。だからか、Alexとは結構ディープな話をすることが多い。お互いの悩みを打ち明けながら、アドバイスしあったりするわけではないけど、なんか一緒に会話するだけで救われている面がある。それはすごく大事なことだと思うから、アルバムには絶対にAlexの要素を入れたかったんです。
――Skaaiさんにとって大切な仲間と作った作品であることが伝わるエピソードです。あと『how do you feel?』や『Keity 141』も日本にはあまりないサウンド感だと思いました。
BadFriends:『how do you feel?』は、サウンド的には現行のUSのR&Bみたいな感覚ですね。
Skaai:『Keity 141』に関しては、僕は坂本慎太郎さんをイメージしていましたね。乾いたサイケって感じ。
yuya:漏れたクリックも良しとしちゃう感じというか。ミスも愛せるバイブスがある。
Skaai:この曲は制作が終わって、音楽をかけながらご飯食べたり、お酒を飲んだりしていたら、Keityがベースを弾き出したので、そこに適当に宇宙語のヴォーカルを重ねただけの曲なんです。
――ものすごくこだわって制作した作品の中ではかなり異色な1曲なんですね。
BadFriends:そうそう。俺はそのとき、いなかったですもん。制作がひと段落して帰ったんです。そしたら次の日に『Keity 141』ができていて、「めっちゃかっこいいじゃん」って(笑)。ギターは俺があとから全部考えて、次の制作のタイミングでレコーディングしました。
――BadFriendsさんは本当にいろんな楽器が弾けるんですね。
BadFriends:もともと楽器を触るのが好きだったんですけど、あんまり自分では意識してなくて。この制作で気付いた部分があります(笑)。
Skaai:ヤバいやつを覚醒させてしまった(笑)。BadFriendsは作曲や演奏だけじゃなく、ミックスまでやってますからね。
BadFriends:結構面白かった(笑)。
uin:このアルバムは楽器を弾ける人がいっぱいいるのに、ループをまんま使っている曲もあるのが面白いんですよね。『Keity 141』のドラムは普通にサンプルを打って、引き伸ばしているだけで。それがヒップホップっぽくて好きなんです。
ノウハウを教えるからみんなそれぞれ自分たちらしいものを作ってほしい
――FR WIFIとして今後はどのように活動していく予定ですか? それぞれのソロアルバムとか?
Skaai:ソロアルバムはわかんないですけど、FR WIFIとしてコンピレーションアルバムを作りたいなと思っています。僕らは新しい音楽をやっているし、楽しいので、いっぱい曲を作りたい。コレクティブとしてみんなで作って、いろんなサウンドにチャレンジして、いろんなアーティストとも曲を作って。あとプロデュースもやってみたい。
――この動きは真似できないですね。
Skaai:いやむしろ教えたい。ノウハウは教えるので、それぞれ自分たちらしいものを作ってほしいんです。
uin:たぶん別の誰かが集まったら、全然違う音楽になると思うんですよ。僕らも意図してこうなったわけではないから。
BadFriends:今回の制作で思ったのは、やっぱ楽器のやつは楽器のやつしか仲間内にいないんですよね。俺1人ではここまでヒップホップの色が強いものは作れない。逆もまた然りだと思う。
uin:あと、この家がデカいんですよ。1ギタリストが所有しているとは思えない規模の機材が揃っているんです。
――しかし、一時は引き払うなんて話もあったyonawo houseからこんな音楽が生まれるなんて、なんか感動的ですね。
yuya: SkaaiやAlexが引っ越してくるタイミングが本当に良かったんです。
Skaai:なんかでも、今日、FR WIFIとしてインタビューを受けたけど、実際は今後のことなんてまだ全然考えられてないんですよ。みんな揃ってゆっくり話す時間なんてなかなか取れないから。もはや公開ミーティングに近いっす(笑)。
uin:やっぱコンピじゃない? 1番は。
Skaai:だよね。僕としてはFR WIFIというレーベル/コレクティブのブランド力がどこなのかを考えないといけないと思っています。最近はアーティストが独立して自分でレーベルを運営する形も増えてきて、そうなってくると自分だけの作品をリリースするレーベルなのか、それともいわゆるミュージックレーベル的な動きをするのかってなったとき、やっぱ僕は後者になっていきたい。そうなったら市場はどこにあるのか。このサウンドだったら海外に行きやすいと思う。じゃあそのコネクションをどうするか、とか。そういうところもしっかりやっていきたい。
――今日の取材に立ち会ってくれた、Skaaiさんの親友であるライターのRenya John Abeさん(ゲツマニぱん工場)はFR WIFIのA&Rを務めているんですか?
Skaai:うん。こういう感じで身近なみんなが関わってくれています。今、日本ではいろんなヒップホップがすごく盛り上がっていて、素晴らしいと思っているけど、同時に懸念することもあります。例えば、アメリカのビルボードのトップ40にヒップホップが1曲も入らなかった。それが、ヒップホップへの関心の薄れを直接示しているわけではないとは思うけど、やっぱ時代は変わってきていると思う。今後は一層、ヒップホップアーティストがどういう作品を作っていくのかについて本気で考えなければならないのかなと思っています。
――最後に、理想としているレーベルがあれば教えてください。
Skaai:J.ColeのDreamville Recordsかな。あとStones ThrowとDirty Hit。現役感のあるところが好きですね。僕はヒップホップのみんなで一緒に作ろうぜって前に向かせる力が大好きなんですよ。このセッションに1ヴァースお願いしますと言われても、それが本当に採用されるかはわからない。でもJ.Coleに呼ばれたら行くっしょ、みたいな。対価じゃないっていうか。みんなが重い腰を上げて、駆けつけてくれるようなレーベルを作れたらいいなと思っています。
――日本に来た海外のアーティストがフラッとスタジオに来てコライトするような環境ができたら、また広がっていきそうですね。
uin:それで言うと、AG ClubのJody Fontaineが遊びに来たんですよ。
Skaai:あと本当は「Gnarly」にWHATMOREをフィーチャーした曲があったんです。メンバーのYoshi T.が大分にルーツがあって。話してみたらめっちゃフィールできて。そしたらWHATMOREが一気に忙しくなっちゃったから、話がなくなっちゃったんですね。だからそれも実現させたいと思っています。

左からuin、Skaai、BadFriends、yuya saito

FR WIFI
(読み:フリーワイファイ)
AbemaTV「ラップスタア誕生2021」への出演をきっかけに、ラッパーとしての活動を本格化させたSkaaiが、長年共に歩んできた盟友でもあるプロデューサーのuin、ギタリスト/プロデューサーのyuya saito(yonawo)、BadFriendsとともに2025年に立ち上げた自主レーベル。
2025年2月にリリースした『MILLION』以降、5月に『Runaway』、10月に『FR WIFI』とSkaai名義のシングル3作をリリースしたのち、12月3日にSkaai初のフルアルバム「Gnarly」をリリースしている。
(アルバム情報)
Skaai「Gnarly」
2025年12月3日リリース
レーベル:FR WIFI
配信リンク1. Gnarly
2. Tambourine man
3. FR WIFI
4. Runaway
5. Your techno (feat. 寺久保伶矢)
6. Sign
7. Alex Interlude
8. Am I sick?
9. Keity 141
10. Namima (feat. 岩崎桃子)
11. how do you feel?
12. MILLION(ライブ情報)
『Skaai ONE MAN LIVE Gnarly』
日時:2026年1月31日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・渋谷 Spotify O-EAST
料金:前売 ¥5,500(ワンドリンク代別途)
チケット:イープラス
宮崎敬太
1977年生まれ、神奈川県出身。音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。WEB媒体での執筆活動の他、巻紗葉名義で「街のものがたり」(P-VINE BOOKS)を執筆、D.O自伝「悪党の詩」(彩図社)の構成なども担当。
Instagram:https://www.instagram.com/exo_keita/
X:https://x.com/djsexy2000

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