TOP記事投稿「バンド入れるよ、タンバリンなら」は本当か?タンバリン奏者に聞いてみる

「バンド入れるよ、タンバリンなら」は本当か?タンバリン奏者に聞いてみる

バンドをやっている人なら、一度は「バンド入れるよ、タンバリンなら」というジョークを言われたことがあるだろう。

この世には様々な楽器があるが、なぜか「初心者が手を出せるバンド向けの楽器」として引き合いに出されるのはだいたいタンバリンである。

身近な楽器ゆえ簡単だと思われがちなタンバリンだが、実際に簡単な楽器なのだろうか。プロのタンバリン奏者・大石竜輔氏に、タンバリン演奏の難易度についてうかがった。


大石竜輔
レク(アラブタンバリン)奏者。
テレビ朝日系「報道ステーション」4代目テーマ曲『Brave』にアラブタンバリンで参加。
南郷サマージャズフェスティバル2018、2024に泉沢果那ニューオリンズピアノカルテットで出演。
YouTubeチャンネル登録者数19.9万人(2025年6月1日現在)。楽器店大賞2021特別部門大賞受賞。
スマートフォン用ゲームアプリ「ファイアーエムブレムヒーローズ」の企画動画である『Lonely Puppeteer(Spring Remix)』のタンバリンの演奏とモーションキャプチャーを担当。
「パーカッション・マガジン vol.8 SUMMER 2023」にて表紙モデルを担当。
公式サイト YouTube X

「たたける」と「演奏できる」は違う

――初めに、大石さんがタンバリンを始めたきっかけを教えてください。

もともとドラマーだったのですが、あるときヘルニアになってしまったんです。
ちょうど音楽に挫折していたので、ドラム以外の趣味の楽器を始めようと思って、寝ながら練習できるタンバリンを始めました。

いまはそこからプロのタンバリン奏者として、ピアノやアコーディオン、バイオリン、タップダンサーなど様々な方と共演させていただいてます。

――寝ながら練習するなんてすごいですね……! 今回はタンバリン演奏の難しさについてお聞きしたいのですが、正直なところタンバリンは簡単な楽器なのでしょうか?

タンバリンは世界中にあり、様々な種類があります。どのタンバリンも、追求していけば果てしなくキリがない難しい楽器です。

――キリがない難しい楽器…!?

タンバリンはよく「たたけば音が出る」と言われます。
でも、ピアノやギターもたたけば音は出ます。でもそれでピアノやギターが簡単とはいえません。

タンバリンも同じで、たたくことはできても演奏するのは難しい。音楽活動している人であれば、とても簡単とはいえない楽器だと思います。

――「タンバリン=たたくだけ」というイメージがありますが、実際演奏するにあたっては様々な難しさがあるんですね。

タンバリンは、国や地域によってたたき方が違うんです。タンバリンが盛んなイタリアでは、同じ国内でも様々なたたき方やタンバリンの種類があります。

伝統的な楽器ですが最近は現代音楽やポップスでも使うので、いろんなアレンジもされていて、すごく奥深いんですよ。

――少し聞いただけでも難しそうです。初心者でもわかるタンバリンの難しさがあれば教えてください。

たとえば、シャーンと鳴るので音が抜けやすく、バンドで間違えるとすぐにバレます

――急に初心者に向いていない気がしてきました。

周りのフィールと違うフィールで入ってしまうとズレがすぐにわかる怖い楽器とはいえると思います。

――特にタンバリン演奏が難しいジャンルはありますか?

どのジャンルもいろいろ難しいところはありますが、個人的にはバラードが難しいと感じますね。
ロックなどの激しい曲に比べて、タンバリンの音が浮きやすいです。

状況を考えて演奏しないと、楽器やアプローチのチョイスによってはエキゾチックになりすぎたり浮いたりしてしまいます。

――イメージに反してかなり難しい楽器なんですね。

たたいても音が出ないタンバリンがある

――ここからは大石さんがよく使うタンバリンを教えてください。

ひとつめは、普通の教育用タンバリンを改造したものです。


使い込まれている大石さんのタンバリン。金具(ジングル)を入れ替える改造をしているとのこと。

イタリアのタンバリンの叩き方で演奏しています。これひとつでドラムセットのような音を出せます

――目を閉じて聴くと本当にドラムを聞いているようです!

この改造タンバリンはドラムのような役割もできるので他の楽器をまとめる力もあります。ただドラムと音がかぶるので扱いが難しいんですね。

だから、ドラムがいるときはアラブのレクという別のタンバリンを使ったりします。

――先ほどのタンバリンより少しエキゾチックな見た目ですね。

レクは、いまの僕のメインのタンバリンです。
音が独特かつ繊細で、曲に応じてシンプルに叩いたり、しっかりとしたソロもできたりします。

ただこれは本当に難しいタンバリンで、音が鳴らせるようになるまでに練習が必要です


実際にやらせてもらったところ「ポン」という音が鳴るはずなのに何度やっても「ぺち」という音しか出なかった。

――「たたいても音が出ない」はタンバリンの常識をくつがえすタンバリンですね…!

でもレクは音色が無数にあるし、ミュートの程度も調整できるし、指一本で響きも変えられて、すごく演奏の幅が広いんですよ。

――たたく場所でまったく違う音が出るのもすごいです。

そうですね、レクはけっこうたたく場所を移動させるので、慣れるまでは大変です。
あとレクの場合は楽器が重いので、その点も難しいです。

――少したたいただけでも手が痛くなりそうでした。

その通りで、レクはかなり腱鞘炎になりやすいんですよ。

――大石さんは大丈夫なのでしょうか?

僕はなんだか腱が強いみたいで大丈夫です。


「他の人の10倍たたいてもなぜか腱鞘炎にならないんです」と語る大石さん。

ただ、レクは首と背中が凝ります。重いからずっと持っているだけでも大変なんですよ。

――タンバリンは連続で何時間ぐらい演奏できるのでしょうか?

激しい演奏をし続けたときは6時間が限界でした。そのときは指先が切れて、ツメもなくなりました。休みなく速いフレーズを大音量で叩き続けたら、もっと短くなると思います。

逆にまったりしたジャンルで、小さい音量でずっとたたくならかなり長時間でも問題ないです。

――同じタンバリンの演奏でも様々な違いがあるんですね!

タンバリンをやっているといろんなものをたたけるようになる

――他によく使うタンバリンがあれば教えてください。

この本皮パンデイロですね。

さっきのふたつのタンバリンだと、エイトフィールなどの一部のリズムと合わないときがあるんです。このパンデイロはそこを補えるので重宝しています。


パンデイロはブラジルの打楽器でタンバリンの仲間。

バンドの中で音が浮きづらく、様々な場面で使えるので気に入っています。

――ずっと気になっていたのですが、タンバリンの横に置かれている水筒は何に使うのでしょうか?

これは、コンテンポラリー系の音楽でよくたたく水筒です。


取材中、ずっと大石さんの足元に置いてあった水筒。タンバリンのメンテナンスに使うのかと思いきや楽器だったらしい。

――不思議な音色でとても素敵です!

おみやげでもらった海外の水筒をたたいてみたら、ちょうどいい音がしたんですよ。
こうしていろんなものがたたけるのはタンバリン奏者のいいところですね。

――大石さんはいろんなタンバリンを持っていますが、どこで買われているのでしょうか?

昔は職人さんに直接連絡していたんですが、最近は楽器店でも見るようになりました。
海外の伝統的なタンバリンを作る日本の職人さんも増えてきていて、いろんな種類のタンバリンが国内で入手しやすくなっています。

値段はクラシックのプロが使うコンサートタンバリンで数万円ほどですね。
ヘッドレスタンバリンと呼ばれる皮が張ってないタンバリンなら、数百円から1万円以下で買えると思います。

――ひとくちにタンバリンといっても様々な種類、演奏、使われ方があることがわかりました!最後に、タンバリンに興味がある方向けにメッセージをお願いします。

タンバリンをやっていると、他のたくさんの楽器と共演できるので、いろんな音楽に出会いたい人にはすごくおすすめです。

それから、タンバリンは世界中にあって、歴史が長く、ひとつだけで様々な音が出せるすごい楽器なんです。
エジプトではレク、ドフ、ダラブッカという著名な打楽器のうち、ここで紹介したレクが一番難しいと言われているほどです。

そうしたタンバリンの奥深さをもっと知ってもらえると嬉しいです。

――本日はありがとうございました!

TEXT:まいしろ

(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
X:https://x.com/_maishilo_
note:https://note.com/maishilo

PHOTO:雨宮透貴

Top Top
merumaga merumaga
E-mail Newsletter

メルマガ登録はこちら