「言語化できない感情を音で表現してみたい」キャリアの新たな局面を迎えたSkaaiの変化に迫る

「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載では日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちに話を聞いていきます。いろんな人たちのいろんな言葉が連なったとき、日本が独自の感性で育んできた音楽文化を重層的に表現できるのではないかと思っています。
今回のゲストはキャリアの新しい局面を迎えたSkaaiさん。2021年の「ラップスタア誕生」で天才ラッパーと絶賛され、これまで「BEANIE」「WE’LL DIE THIS WAY」という2枚のEPを発表してきました。さらに2024年からはyonawoのyuya saito、Alex Stevensとのユニット・TRIPPYHOUSINGをスタート。インディロックやオルタナティブなダンスミュージックをミックスしたサウンドにも挑戦しています。そんな彼が2025年に新曲『MILLION』をリリースしました。バンドサウンドと打ち込みを大胆に取り入れ、「もうミリオンセールじゃなくてもいいし」と歌っています。今回はそんなSkaaiさんの自宅に伺って、現在の気持ちを赤裸々に話してもらいました。
文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴
仲間と遊んでいる中で自然とできた『MILLION』
――実は3月に一度インタビューしたんですが、文字にしてみたら思っていた以上にヘヴィな雰囲気になったので、もう一度インタビューすることになりました。
Skaai:前回のインタビュー時はまだ考えがまとまってなかったのと、たまたまとてもテンションの低い日だったので、思っていた以上にネガティブなことを話してしまいました……。いまアルバムを制作しているんです。初めての経験だし、自主だし、必要以上に考えすぎて自分で自分を追い込んでいました。
――昨年のSkaaiさんはTRIPPYHOUSINGで活動されていた印象が強いです。
Skaai:そうですね。12月に『変な空気 feat. 荘子it』をリリースしたけど、あの曲は「アートとアカデミアの融合」をテーマにしたイベント『DE-SILO EXPERIMENT 2024』のアフターソングなんです。僕も荘子itさんも出演者で、主催者の方に提案していただいて作り始めました。
Skaai & 荘子it – 変な空気 (Music Video)
――企画曲なんですね。
Skaai:うん。だから自分的には2024年はSkaai名義の作品を出してない感覚で、そこに一聴してヒップホップとは言えない『MILLION』を発表した。「リスナーが困惑するかもな……」と考えていたタイミングのインタビューだったので、「自分、これからどうすればいいのかわからないです」みたいなスタンスになっちゃったんです(笑)。
――前回のインタビュー後にMET『say no more feat. Skaai』のMVが公開されました。インスタのストーリーズで「すごく良い経験になった」的なことを言っていたのが印象に残りました。
Skaai:『say no more』はチャレンジングな曲だと思う。METくんと「俺たちがやらなきゃ」って意気投合して作りはじめました。制作中、自分はこういう音楽でラップするのが好きだなと思えたんです。そしたら同業者がすごく反応してくれて。「ラップやっていてよかったな」って思ったんですよね。
MET – say no more feat. Skaai (Official Visualizer)
――チャレンジした曲で反応がもらえたのは嬉しいですね。
Skaai:はい。僕は、自分がオルタナティブなラッパーだと認識しているんですが、もしかしたらそのシーンからも外れているのではないかという不安もあったんです。
――その危惧は意外です。
Skaai:めっちゃインドアなので、日常的につるむ友達があまりいないんです(笑)。
――しょっちゅうクラブに遊びに行っているのかと思っていました。フッドのコミュニティに属しているわけでもないとなると、確かにふとした瞬間に自分の立ち位置が気になっちゃいますね。
Skaai:そうなんです。さっきの話で言うなら、本来リリース後の反響や再生回数なんて気にせず、ただ作りたいものを作ればいいんでしょうけど。
――まさに『MILLION』で歌っていたような。
Skaai:うん。やっぱり「ラップスタア」の影響はすごくて、当時は何を出してもものすごい反響があったんです。でも今は逆に自分と向き合えていると思います。「僕が本当に作りたい音楽って何だろう?」っていろいろ考えて、そこから光を見出せているというか。自分の脚で進んでいる感覚があるのでとても気持ちいいです。覚悟が決まりましたね。
――覚悟。
Skaai:僕はヒップホップが好きだけど、同じように他のいろんなジャンルの音楽もたくさん聴いてきました。でもほとんどの人はまだそれを知らない。だから急に『MILLION』のような曲を出すと、「ああ、またSkaaiが器用にやってんな」と思われる。あの曲はああいうサウンドを狙って作ったのではなく、仲間と遊んでいる中で自然とできた曲です。もしかしたらこれまでの作品が好きでSkaaiを聴いてくれていた人たちは離れてしまうかもしれない。けど、それを恐れて自分を殺した作品を出すのは違うんじゃないかなって。
――本末転倒ではないか、と。
Skaai:そうです。僕が好きで尊敬するアーティストは周りの意見に関係なく自分の音楽をやっていますし。仮に誰にも聴かれないとしても、僕はこのスタンスで音楽をやっていくべきだと思いました。
――急に作風が変わって、しかもクオリティが高いと、「器用」と思われてしまいそう。実際、Skaaiさんはラップも歌もうまくて学歴も華やかだし。
Skaai:(笑)。僕はまだ全然自分を出せてない。これからどんどん作品を出して、自分の音楽を証明していけたらなって思っています。
「まさかこうなると思わなかった」という反応が一番嬉しい
――「BEANIE」と「WE’LL DIE THIS WAY」はMary Joy Recordingsからリリースされていましたが、アルバムは自主制作なんですね。
Skaai:はい。レーベルを立ち上げます。アルバムはその前哨戦です。
――なぜレーベルを立ち上げるのですか?
Skaai:Skaaiを超えた先を見据えないとダメだなと思ったんです。
――「Skaaiを超えた先」とは?
Skaai:なんて言えばいいんだろう。大好きな音楽を僕自身がこれからも楽しむためにレーベルを立ち上げようと思いました。それは、僕がSkaaiというキャラクターのマネージメントを通じて自己実現するよりも大切なことだと考えています。僕は音楽の中で生きていきたいんです。
――今後、Skaai以外の別プロジェクトが始動する可能性がある?
Skaai:はい。TRIPPYHOUSINGとは別にバンドでの活動とか、海外展開とか。生音にしか出せない魅力があるから、自分も挑戦してみたいんです。レーベルでは色んなアーティストやバンドと一緒に活動していくつもりです。
――そういう意味では、『MILLION』も1曲の中にいろんな要素が入っていて、今後のSkaaiさんのムードが反映されているのかもしれないですね。
Skaai:この曲はKMさんが教えてくれた「ヒップホップの特徴はいろんなジャンルをミックスできること」という言葉がイメージにあって。初めてD’Angeloを聴いた時、これって歌やラップとかではなく、ただすごく美しくて胸を抉られる音楽だなと思ったんです。そういう感覚を表現できたらいいなって。あと、僕、昔からサプライズが大好きで、どうやったらみんなの意表を突けるかいつも考えているんです。学生時代にみんなから優等生扱いされてきたから、ラップをやってみたり。
――インテリの同級生が突然ラッパーになったらびっくりしますね(笑)。
Skaai:でしょ? そういう感覚が活動の軸にあるんです。「まさかこうなると思わなかった」という反応が一番嬉しい。
――実際はピュアなエモーションで創作しているから「器用にこなしている」と思われたくないんですね。
Skaai:そうなんですよね。もちろんこっち次第ってことは重々承知しているんですが。自分としてはPost Maloneの感じは理想的なんですよね。すっごい歌がうまくて、ヒップホップシーンに愛されていて、フォークやカントリーをやっていてもコーチェラのヘッドライナーになるほどのプロップスもあるっていう。自分の好きな音楽を愛しながら、アーティストとしても愛され続ける存在というか。
――Lil Yachtyも最近はJames Blakeと共作したり、自由に好きな音楽を発信してますしね。
Skaai:超サイケな作品を出していましたよね。日本だとPeterparker69 さんは新しい音楽にチャレンジされていて、しかもシーンからも愛されていてすごいなって思います。
――個人的には『MILLION』もすごく斬新な曲だと思っています。特に後半の展開に驚きました。ここまでやるのかって。
Skaai:それは嬉しいですね。そう思ってくれる人が一人でもいるなら発表した意味があったなと思います。『MILLION』は本当に自分のために作った曲なんです。でも後半の展開に関しては一人で作っていたら、もっとマイルドになっていたと思う。今の制作メンバーとアレンジを組んでいく段階で、ラストのフックに入る前に「これやったら熱いっしょ」みたいな雰囲気になったんですよね。ほんと勢いでやっちゃったけど、むしろそれが突き抜けてよかったんだと思っています。
ライブでしか感じられない熱狂
――リリックも突き抜けていますよね。
Skaai:今回は日常的に思っていることや考えていることをそのまま書きました。これまでは自分の感情の中でも最も極端な面を歌詞にしていたんです。毎回意外性のある画期的なことを言いたかったから。それでみんなを驚かせたかった。ただ気づいたら、自分を追い込みすぎていたんですよね。
――そのままの気持ちを歌詞にしようと思ったのはなぜですか?
Skaai:なんでだろう……? なかなか曲が作れなかったんですよね。それで、焦れてイライラしていたんです。その感情をどうにかポジティブに変化しようと思っているなかでこの歌詞になっていったんですよね。
――これまでのSkaaiさんにとって音楽を作ることは特別な行為だったけど、より自分の日常に溶け込んできたということですかね? 勝手な想像ですけど、『MILLION』からすごくナチュラルなSkaaiさんが見えたんですよね。
Skaai:それはあると思います。実際、日常的に聴いている音楽がリファレンスになっていますし。『MILLION』の歌詞も結構ネガティブじゃないですか。ミリオンセールだって狙えるなら狙ったほうがいいと思うし(笑)。ただ僕はこういう人なんですよねっていう。
――アルバムはどんな感じになりそうですか?
Skaai:まだわからないですね(笑)。先にEPをリリースします。そちらを作り終えたら、また気持ちが変わるような気がするし。ただなんとなくライブが楽しみになる曲ができてくると思う。この曲をこういう演出でこう見せたら超かっけえだろうな、みたいな曲が揃うアルバムというか。
――前回のインタビューで、「ライブは苦手」と話していましたよね?
Skaai:今でも人前に立って歌うのはだいぶ苦手ですよ(笑)。ステージに立ってしまえば平気ですけど、そこに至るまでにかなり魂をすり減らしています。基本的には家にいたい人間ですし。
――矛盾していますね(笑)。
Skaai:なんで僕はライブをやるんだろう(笑)。……特に活動の初期はすごく苦手で、ずっと「やりたくねえな」って思いながらやっていたんです。でも、だんだんライブにしかない熱狂があるってことに気づいてきたんですよね。狂っているというか。たとえば映画「セッション」の主人公ってドラムに狂っているじゃないですか。ああいうのがすごく好きなんです。音楽に打ち込んで他は何もいらないみたいな。ライブにはああいう熱狂があるんですよ。
――なるほど。
Skaai:EPはKMさんと制作しているんです。
――まじですか!
Skaai:自分自身がすごくテンションが上がる曲を作ってますよ(笑)。KMさんは大尊敬しているアーティストで、心を委ねられるメンターでもあるんです。KMさんと一緒に制作することでしか得られないエネルギーがあるんですよ。そういうのを全面に出した作品が作れたらなって思っています。たぶんみんなびっくりすると思う。
――ちなみにKMさんとはいつ出会ったんですか?
Skaai:正直よく覚えてないんですよ。でも仲良くなった日のことはめちゃめちゃ覚えています。福岡の「lit」というパーティーでご一緒したんですね。KMさんがDJしている時、僕とuinがブースの後ろで爆踊りしたんです。そこでめちゃめちゃ打ち解けられました。
――良い話ですねー。
Skaai:それがキャリア1年目。もう4年前です。
――SkaaiさんにとってKMさんのどんな面がメンターたり得るのでしょうか?
Skaai:KMさんは心がマッチョなんです。絶対にブレない。ずっと怒っているんですよ。同時に悲しみも感じていて。僕自身が怒りや悲しみを創作の原動力にしている面があるから、悩みを相談しやすいんですよね。あとKMさんの音は誰が聴いてもKMさんってわかるじゃないですか。そこもすごく尊敬しています。しかもあの音をパソコン一台で作り出しているんです。そのこだわりもかっこいい。
――EPも楽しみです。
Skaai:あと5月に新曲『Runaway』(逃げる)が出ます。こちらはアルバムの先行曲になります。uinがメインですが、yuyaも含めた今のチームで制作しています。かなり変な曲です。ジャケも超変なので、驚いてくれたら嬉しいですね。
――良いタイミングで話を聞かせてもらえた気がします。
Skaai:前回のインタビューも含めてですけど、リアルな気持ちってこんなにも言語化できないんだなって思いましたね。全然言葉が思い浮かばない(笑)。でもそういう言葉にならない気持ちまで喋ろうとしたっていうのは自分としても大きいですね。
――それは活動が新しいフェーズに入ってきたことが関係しているんですか?
Skaai:それもあるけど、目指す人間像が変わってきていると思うんです。大学までは言語化が正義だったんです。社会のさまざまな事象を理路整然と話せる。しっかり体系化して、よりうまく説明できたやつが勝ち。そういうゲームをしていた感覚でした。僕の中にはまだそういう部分が残っている。けど、今は自分の中にあるどっちともとれない、言語化できない感情を音で表現してみたいと思っているんです。
――それこそKMさんのように。
Skaai:まさに。Skaaiとして4年間活動して、ようやくそこに辿り着きました。今KMさんと作っているEPも、並行してチームと進めているアルバムも、そしてレーベルも、まだわからないけど、そのときどきの自分の気持ちに沿って活動していきたいと思っています。
Skaai
1997年、アメリカ・ヴァージニア州生まれ、大分県育ちのアーティスト。
幼少期から韓国、マレーシア、シンガポール、カナダ、アメリカでの滞在を経験。
九州大学の大学院で情報法を研究していた2020年、SoundCloudでの楽曲リリースを皮切りにラッパーとしての活動を開始。
AbemaTV「ラップスタア誕生2021」への出演をきっかけに、ラッパーとしての活動を本格化。
2022年9月に1st EP「BEANIE」、2023年9月には2nd EP「WE’LL DIE THIS WAY」をそれぞれリリース。
2024年~元yonawoのyuya saito、Alex Stevensと共同生活を送りながらTRIPPYHOUSINGとしても活動している。
(リリース情報)
Skaai『Runaway』
2025年5月7日配信リリース
https://linkco.re/vBc1mNXp
Written by Skaai, BadFriends, uin, yuya saito, Keity
Mixing: yuya saito
Mastering: Kota Matsukawa
Label: FR WIFI
宮崎敬太
1977年生まれ、神奈川県出身。音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。WEB媒体での執筆活動の他、D.O自伝「悪党の詩」、輪入道自伝「俺はやる」(ともに彩図社)の構成なども担当。
Instagram:https://www.instagram.com/exo_keita/
X:https://x.com/djsexy2000
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