「音楽が他のビジネスと違うところは……」 新フェーズに突入したdodoが語るこれまでとこれから
「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載では日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちに話を聞いていきます。いろんな人たちのいろんな言葉が連なったとき、日本が独自の感性で育んできた音楽文化を重層的に表現できるのではないかと思っています。
今回のゲストはdodoさん。8月に最新作「neutral」をリリースしました。今作には人気プロデューサー・ZOT on the WAVEさんや、新バックDJのDJ SHUN-Uさんとの共作曲も収録されています。変化し続ける日本のヒップホップシーンを1人で渡り歩くdodoさんに、創作、お金、モチベーションなどさまざまなトピックについて話してもらいました。
文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴
トラックメイキングを副業にしようと思っていた
――今回は「FAKE」(2016年)や「default」(2018年)から最新アルバム「neutral」(2024年)までの活動についてうかがっていきたいと思います。
ありがとうございます。「FAKE」は音大に通っているときにsoakubeatsさんと作りました。soakuさんとは代官山UNITのイベントでお会いして「一緒に曲を作ろう」みたいな感じになったんです。でも一緒にやらせていただいたら、soakuさんのビートがすごくラップしやすくて、結局EPサイズの作品を作ることができました。「FAKE」は自分的にリハビリのような作品だと思っています。
――何のリハビリですか?
スランプですね。僕は高校2年からラップを始めて、「BAZOOKA!!高校生ラップ選手権」にも出させて頂いて、その後とあるラッパーさんへのディス曲をきっかけに完全なスランプになりましたね。
――それが高校3年生?
ビーフが起きたのは大学在学中です。大学1年ぐらい。大学4年ぐらいに「FAKE」の制作をしました。
――僕がdodoさんを明確に認識したのが「FAKE」でした。
本当ですか。ありがとうございます。でも僕、基本的に自分の曲を聴き返さないんです。この前リハーサルで久しぶりに「FAKE」の収録曲を歌って若さを感じました(笑)。
――ではEP「default」はどのような経緯で制作されたんですか?
最初はEPにする気持ちもなくて。まず『swagin like that』のビートができたんです。当時は音大を卒業して、普通の会社に就職して浜松にいました。大学で勉強したことを活かしてトラックメイキングを副業にしようと思ってました。でもインストだけだと広がりにくいかなと思って、『swagin like that』にラップを乗せたんです。カニエ・ウェストのようなトラックを作るラッパーもいましたし。まあでもとにかくお金を稼ぎたかったんです。その後、勤めていた会社が自分と合わず退職し、職業技術校に通いながら「default」を制作しました。
――なるほど。
でもその段階ではあくまで副業としてやっていく予定でした。そしたら2019年の終わりに『im』が急に回り始めて一気にお金が入ってきたので、個人事業主だと税金がヤバいので法人化することにしたんです。
最初の動機を自分の中に見出したい
――dodoさんはずっと1人で活動していますが、レーベルに所属しようとは思わなかったんですか?
まあまあ活動歴は長いんですけど、いまだにレーベルが何をしてくれるのかをよくわかってなくて。イメージとしてはいろいろお膳立てしてくれて、僕は歌詞を書いてスタジオに行けばいいみたいな(笑)。ただどこからもお声がかからず、『im』がバズったのでそのまま自分でやることになりました。
――今作からDJ SHUN-Uさんが加わって2人体制になりましたが、それまで会計などの事務作業はどうしていたんですか?
経理は今も自分でやってます。
――制作と両立するものなんですか?
音楽が他のビジネスと違うところは、作品をリリースしたらあとは自動的に稼いでくれるところなんですよ。不動産に近いというか。もちろん制作の時は大変です。でもリリース後は意外と時間があるんです。
――なるほど。僕は制作について話を伺うことが多いので、そういう視点が抜けてました。
なので自分でできることは自分でやんなきゃいけないなっていう感じです。
――『im』がヒットしたとき、どんな心境でしたか?
あの曲ですべてが変わりました。人生も価値観も。あの曲がバズるまで音楽がお金になるという認識が一切なかったんです。だからテレビに出ている歌手の方を観ても「きっと実情は大変なんだろうな」とか、それ以前に「なんでこれ(音楽ビジネス)が成り立ってるんだろう」と思っていました。それが『im』がヒットしたことでようやく仕組みを理解できました。
――確かに『im』のMVの再生回数は突出しています。
はい。でも最近はYouTubeの再生も伸び悩んでいてやばいです(笑)。それで最近思ってるのは、以前よりもSNSが多様化してるということ。自分はYouTubeでUSヒップホップを知る世代だったんです。でも最近はTikTokとかInstagramとかいろいろあるじゃないですか。だからどこに何を出すか、もしくは出さないのかってことをある程度絞っていかないと、生き残っていくのが難しいなと感じています。SNSごとに観てる層も違いますし。来年で30歳になるので、10年先を見据えて戦略を作り直していかないといけないなと思っています。
――マーケティングも考えているんですか?
まあ一応。でもあんまりできてないですね(笑)。時代の流れがすごく早い。音楽という職業には実力以外の部分、つまり市場もかなり関係しているので、マラソンのつもりでゆっくりやっていきたいと思っています。
――dodoさんにはロールモデルはいますか?
憧れてるUSのラッパーはいっぱいいますけど、自分の活動に置き換えられる人はいないですね。
――コロナ禍はどのようにすごされていたんですか?
僕は『im』のバズがあったので収入面に関しては安心できました。今思えば、僕はあのバズを活かせなかったことをものすごく反省しています。ライブとかができない時期だったので、僕自身も休止期間のように過ごしてしまったんです。でも本来は『im』のバズが起こっているうちにもっと曲を出したりプロモーションをしてdodoを確立すべきでした。
――dodoさんはご自身をどのようにブランディングされていますか?
ここまでもお話ししてきましたけど、僕はどんどん変化していて、作品ごとにテイストも違う。ブランディングという意味では全然褒められない状況だと思います。
――でもそれは常に自分に正直な作品をリリースし続けているという意味でもあると思います。
そうですかね? なんかありがとうございます(笑)。最近はお誘いに応えるようなスタンスが多かったので、今後はもっと自分発信でいろいろやっていきたいです。最初の動機を自分の中に見出したい。
『nirvana』の歌詞に込められた感情
――8月に最新アルバム「neutral」をリリースされました。これまではdodoさんのビートのみでしたが、今作にはZOT on the WAVEさんやバックDJも務めるSHUN-Uさんとの共作曲が収録されています。
これまでのアルバムに共作曲が少なかったのは、自分がヒップホップコミュニティにいなかったというのが大きいです。クラブに頻繁に遊びに行くタイプでもないので、ラッパーさんやトラックメイカーさんとの出会いが全然なかったっていう。あと僕は自分が作ったトラックが大好きなんです(笑)。1人のほうが利益率も高いですし。それが1人でやってた理由だったりします。
――僕はtofubeatsさんと制作された『nirvana』(2021年)が大好きなのですが、あの曲はどんな経緯で制作されたんですか?
『nirvana』はもともと何かの企画だったんです。いろいろお世話になってたshakke-n-wardaaが「トーフさんと曲を作りませんか?」と声をかけてくれて。トーフさんと一緒に制作させていただきました。
dodo & tofubeats – nirvana (Official Music Video)
――『nirvana』はトラックもトーフさんと一緒に制作されてますよね。
はい。トーフさんのスタジオに初めて遊びにいかせていただいていろいろなストックを聞かせてもらいました。その中に『nirvana』のイントロのフレーズがあって。あそこがすごく好きだったので、そのデータを持ち帰ってアレンジしてトラックに仕上げた感じですね。
――イントロのフレーズはdodoさんが作ったのかと思ってました!
あそこはトーフさんなんです(笑)。すごくかわいいですよね。
――『nirvana』は何について歌っているんですか?
犬です。僕が小学6年の時に一匹、中学1年のもう一匹それぞれ飼い始めたんですけど、あの曲を作るちょっと前に二匹とも立て続けに死んじゃったんです。
――そうだったんですね……。
最初の犬が死んじゃった時には『missu』という曲を書いてるんですね。
――「importance」(2019年)の収録曲ですね。……だからジャケットにワンちゃんがいるんですね。
そうです。ずっと一緒にいたので本当に悲しかったんですよ。ペットを亡くす悲しさは、結構わかってもらえないんですけど(笑)。
――自分も犬と暮らしているので、その気持ちはめちゃくちゃ共感します。毎日一緒に散歩に行くけど、毎日「この時間がいつまで続くかな」って思います。
そうなんですよね。僕は死ぬ瞬間をたまたま1人で見ていて、自分にとってはそれが結構強烈な体験だったんです。10年くらいずっと一緒に暮らしてて。10年って結構長いんです。僕は父方と母方の祖母も亡くしているんですが、その悲しさともまた違う感覚だったので曲として残しました。
dodoのファンダム・ひんしとは?
――dodoさんはメロディを作る力がものすごいと思うのですが、どのような意識で制作されているんですか?
それはすごく嬉しいです! メロディは最初に音楽を始めたときから受けが良くて、自分の強みになると思いました。そこを伸ばしたくて音楽の大学に行ったんです。論理的な理解も深まったし、楽器の構成とかも学ぶことができました。
――ではトラックメイキングも音楽理論に裏打ちされているんですか?
はい。音大ってどの先生につくかがかなり重要なんです。僕が教わっていたのは大学の卒業生で、いまはJ-POP畑で活動されている人です。いい意味でお兄ちゃんみたいな気楽な感じ。最初は別の先生の下でやっていたんですが、途中からその先生に変えました。それがすごく良かったです。わからないことを全部教えてもらいました。
――メロディに関して影響を受けたアーティストはいますか?
歌メロに関しては中学か高校くらいにめちゃバズったIyazの『Replay (Prequel)』とか、Wiz Khalifaの『Black And Yellow』とか。あとはSoulja Boy Tell’emも。2010年代初期のUSヒップホップが体に染み付いちゃってる感じです。
――トラックのメロディーに関しては?
昔父が姫神の『神々の詩』というニューエイジミュージックにハマってた時期があって(笑)。テレビ番組のVTRとかにもたまに使われてるから知ってる人も多いかもしれない。なんかやたらと車でこの曲を聴いていたんですね。こういうヒーリング要素と自分が影響を受けたUSのヒップホップを融合させたいという気持ちはありますね。『era it』なんかはそのへんを意識して作ってます。
――なるほど。では作詞についても伺いたいんですが、スリーマンでVaVaさん、tofubeatsさん、dodoさんの3人で鼎談したとき、「dodo」と「近藤大貴」をどのように両立すればいいのか悩んでいるとお話しされていました。その問題は「neutral」である程度解消されたのでしょうか?
確かにあの鼎談をした時はまさに「neutral」の作詞をしていた時期でしたね。
――僕は「neutral」を聴いて勝手に解消されたのかなと思っていました。例えば1曲目の『it more』。よくよく歌詞を読み込んでいくと、ファッションセンスへの自虐と食べ物としてのお芋というつながらない要素をラブソングとしてまとめているんですよ。すごくさらっと書いてるけど、実はものすごく高度な作詞術だと感じました。dodoであり近藤大貴でもある「neutral」な状態。
自分としてはそこまで考えなかったです(笑)。でもそう読み込んでいただけたのはすごく嬉しい。悩み抜いた結果、自分はラッパーとして韻をすごく重視していると再確認したんです。加えて今回の作品では、キーとなるもの、テーマを意識しました。作詞の種明かしをすると、まずテーマを決めて、次に韻を出していきます。『it more』だったら「芋」で踏める単語を探していくんです。「微妙」「異常」「基本」とか。それを書き連ねてセンテンスを作っていく感じですね。
――めちゃめちゃ韻が硬いのに、ゴリゴリした雰囲気にならないのは、メロディセンスの妙かもしれないですね。
まあでも最近のバズってる曲とか聴くとあんまり韻が求められてない気もするんですよね。そのバランスは正直難しいです。
――dodoさんにとって、自分がかっこいいと思う音楽と、マーケットが求める音楽の比重はどちらが大きいのでしょうか?
dodoの活動で言うと、自分のやりたいことより、マーケットに求められることをやりたいです。でもインスピレーションを受けたり、モチベーションの根源にあるのはUSのヒップホップだったりもします。だからそこは完全に分かれてますね。USのヒップホップはすでに完成されているので、僕はそれでもう満足です。そういう要素を自分の活動に反映させたいという意識はもうあまりないかもしれません。自分の役割じゃないというか。
――では今作からジャケットのテイストが変わったのはなぜですか?
「defalut」(2018年)から「coronas」(2024年)にかけて横フェーダーが徐々に上がっているんですね。あれは自分の熱量なんです。でもこのままいくとあと1〜2作でマックスになってしまうので新しいシリーズを立ち上げた感じですね。あとこれまではすべてLogicで制作してたからああいうアートワークにしていたんです。でも今回はバックDJのSHUN-UくんやZOT on the WAVEさんにも参加していただいてるというのも大きいですね。
――なるほど。dodoさんの活動が新しいフェーズに入ったと。
そうですね。
――そして9月23日(祝)には東京・Spotify O-EASTで「dodo『neutral』release one-man live~第3回ひんしの会~」が開催されます。
今年は4都市で「dodo ひんし巡業 2024」というツアーをやらせてもらったんです。日本全国にdodoちゃんのことを気にしてくれるひんし(dodoのファンの名称、ポケモンの「ひんし」状態に由来)たちと会えて嬉しかったんですよ。あと面白いなと思ったのは、来てくれたひんしたちの雰囲気がどの土地でもみんなちょっと似てるんですよね。
――それはdodoさんが明確にファンダムを形成できているからだと思います。
確かに僕は意識的に自分に嫌なことを言わない人たちを囲っていきましたから(笑)。
――具体的にどのようにファンを囲っていったんですか?
ヒップホップという偉大なジャンルには、ジャンルのファンがいらっしゃるんです。特に最近また増えてきてると思います。そういう方たちは、かなり厳しい審査員でもあるんです。好きという感情よりも、ヒップホップ的にイケてることであったり、アツさみたいなものを求めてらっしゃる。僕はそこだけで判断されるのは辛い。だから僕は僕を好きと言ってくれる人たちに向けてラブを返していったんです。
――なるほど。先ほどから言ってたマーケットが求めることというのはdodoさんのファンダムという意味なんですね。
そうです。でももっと母数を大きくしたいので、マーケットの動きは常に意識しています。そして金銭的に充実したいです(笑)。
――では最後に「第3回ひんしの会」に向けた意気込みを聞かせてください。
僕が長年「ひんし」という言葉を使っているのには、諦め続けないで頑張るっていう意味があります。そういう会でもありますので、やっぱり生で観てもらいたいです。当日は僕自身が物販を売ったりもします。今回は東京公演のみなので、ぜひ地方の方も遊びに来てもらいたいです。よろしくお願いします。いぇい。
dodo
1995年生まれ、神奈川県川崎市育ち。
高校2年生のときにラップを始め、「第3回BAZOOKA!!高校生ラップ選手権」に出場。
高校卒業後は洗足学園音楽大学に入学。大学2年生のときからトラックメイキングを始める。
大学在学中の2016年にsoakubeatsとEP「FAKE」を発表。
2017年の就職とともに音楽活動を本格化。2018年に退職したのち職業技術校で自動車整備について学びながら、実家の一室に設けたスタジオ「10goqstudio」で精力的に楽曲制作を行い、同年にEP「default」「pregnant」をリリース。
2019年には1stアルバム「importance」、2ndアルバム「normal」をリリース。同年、レッドブルがキュレートするマイクリレー「RASEN」#2にも出演。
2019年9月にリリースしたシングル『im』のヒットもあり、職業技術校を卒業したのちは音楽活動に専念。
3rdアルバム「again」(2022年)、4thアルバム「coronas」(2024年)を経て、2024年8月に5thアルバム「neutral」をリリース。
https://www.youtube.com/c/dodoinda10goqstudio
https://x.com/SheisFNT
(LIVE info)
dodo『neutral』release one-man live~第3回ひんしの会~
日時:2024年9月23日(月・祝) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京・渋谷 Spotify O-EAST
料金:ADV. ¥4,500 (1D代別途)
チケット:ぴあ
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