CDができるまでをのぞいてみた
JVCケンウッド・クリエイティブメディアさま(後編)
前編 では、あらためてCDとはどんなメディアなのか、その特徴を学びたい! という想いから、株式会社JVCケンウッド・クリエイティブメディアのプレス工場を訪ね、CDができるまでをのぞかせていただきました。
後編では、営業部長の山崎勝和さん、生産部長の小川操さんにインタビュー。
CDの価値・魅力、コロナ禍での変化など、貴重なお話を伺いました。
(左:山崎 勝和さん、右:小川 操さん)
業務内容について
-あらためて、御社の業務内容について簡単にご説明をお願いします。
山崎:弊社は光ディスクのプレスを主要事業としており、今はCDとDVDとBlu-ray Discの3メディアを製造しています。レコード会社などのお客様からマスター音源、レーベル印刷するためのデータ、ブックレットなどの印刷物を提供していただき、この工場の中で一から作り上げて、完成品を物流倉庫に納品します。そこから各お店に配送されて発売されます。マスターをいただき、アッセンブル(組み立て)して商品化するところまでが弊社の業務範囲です。
-どのくらいのタイトル数を扱っていらっしゃるのでしょうか。
山崎:月間で言うと、6,000タイトル程度のリピートオーダー(リリース済みタイトルの追加生産)を扱っています。新譜のタイトル数も数百はあるかなと思います。最近では、同じCDでも複数の仕様を発売することが多く、多品種・小ロット化が進んでいます。
-現在はどのくらいのロット数が一般的でしょうか。
山崎:昔はイニシャル(初回生産)で300万枚というのもありましたけど、今は100万枚を超えるのは、人気アイドルグループを除くとほとんど聞かなくなりました。特典が付いていないCDとなると、多くても50〜60万枚程度ではないかと思います。
CDの魅力について
-CDの価値・魅力について、どのようにお考えでしょうか。
山崎:物として存在する一つの作品として、アーティストの世界観を味わえることと、手軽に高音質で聴けて、半永久的な耐久性もあるという技術的な特徴を兼ね備えていることがCDの一番の良さだと思っています。
アーティストからすると、例えば一枚のアルバムの中に10曲あると、1曲目はこの曲、2曲目はこの曲と曲順もこだわっていて、ここは1秒だとか、1秒半だとか、曲間にもこだわっていると思います。CDもランダム再生できますが、通常はプレーヤーに入れて1曲目から聴くじゃないですか。そこにブックレットとかジャケットも加わり、一つの作品になっているというところがなによりの魅力だと思います。
さらに、CDでも厳密に言うと、作る工場によって音が変わると言われていて、うちで作ったCDと他社が作ったCDでは、音が微妙に違うんですね。音にこだわっているアーティストは、事前にテストプレスを聴いて、この音が良いと言って発注していただくこともあります。このようなアーティストのこだわりを感じられることがCDの魅力だと思います。
小川:当然のことながら、弊社では音に関してこだわりを持っており、オリジナル音源を忠実に再現する「原音探求」という理念の下で開発した「K2テクノロジー」という独自の音質改善コア技術があります。音源をデジタル化する際の高音質化情報処理技術を「K2」と呼んでおり、現在までに様々な「K2」技術が開発されています。
1987年に開発された最初の「K2」技術が「K2インターフェース」です。マスター音源をデジタルに変換する際に音質が変化する要因となる、データを記録したり読み取ったりする際の電気的な歪み等を排除して、音質の変化や劣化を改善する技術です。
(生産部部長 小川 操さん)
「原音探求」に関する資料
-こちらの資料にある「SHM-CD」とは何でしょうか。
山崎:2007年にCDの活性化を図るために、ユニバーサルミュージックさんと弊社で共同開発した高音質CDです。通常のCDとは異なる液晶パネル用ポリカーボネート樹脂を採用しており、高音質CDの先駆けになっています。その後他社さんも開発して、現在では数種類の高音質CDがあります。高音質CDはCDのフォーマットで高音質化しているので、一般的なCDプレーヤーで再生できることがポイントになっています。
発売当初は、ジャズ・クラシックが多く発売されましたが、今では、ポップスとかロックにも採用されています。高音質CDブームが数年続いて、ある程度市場は形成されたんですけど、その後にハイレゾブームがあり、配信や、USBやSDカードで音楽を聴く方向にシフトしていきました。
ただ、ハイレゾを聴くには専用の機器やアプリが必要となりますが、高音質CDは既存のCDプレーヤーで再生できるため、いまだに根強い人気があります。
新たな課題とその対応について
-コロナ禍でこれまでと変わったことはありましたでしょうか。
山崎:業界で一番影響があったのは、ライブができなくなってしまったことだと思います。ライブができなくなると、アイドルグループなどは即売のCDが売れないんですよね。ライブをやると、その後に、ライブ映像の商品(DVDやBlu-ray Disc)を発売するんですけど、それもライブをやらないから、作られなくなりました。
また、レコーディング等のスタジオ作業で遅れがありました。そもそもスタジオって密な空間ですので、新型コロナが始まって、マスターの製作自体が半年から1年ぐらい遅れて、リリースが延期になることがかなりありました。
こうした新型コロナの影響については、徐々に良くなってはいるものの、コロナ前に戻るにはまだ時間がかかると思います。感覚的にはかなり厳しいですね。
-アルミニウム等の材料価格の高騰の影響は出てきているのでしょうか。
山崎:原材料の値上がりが始まったのは去年の後半からで、全面的に影響が出てきたのは、今年の春先ぐらいからです。今までは値上がり分を企業努力で吸収するように頑張ってきましたが、収束が見えないので、最近は少し製造費に転嫁して、お客様にご協力をいただいています。
-そのような状況の中、各メーカーで工夫されている点はありますでしょうか。
山崎:CDを売るために握手券を付けるのも一つの手段だとは思うんですけど、最近はユーザーが欲しくなる特典を付ける特殊パッケージが非常に増えています。昔だと標準仕様(一般的なプラスチックトレーに入ったCD)が6割ぐらいあったんですけど、最近は標準仕様のものが減っていて、特殊仕様のものが圧倒的に増えてきています。
特典としてDVDを付けることが多かったんですけど、最近は様々な種類の特典が作られています。例えば、アナザージャケットといって、グループだったら各メンバーのジャケットがランダムになっていたり。いかに購買層にコレクターズアイテムとして買ってもらえるかという方向性になってきています。結構複雑な仕様が多くて、製造するうえでは間違えないようにするのが大変だったりするんですけど(笑)。
小川:その他によくあるのは、Tシャツや缶バッチ等のグッズが特典として付いたもの。これらのグッズは海外で作られることが多いんですけど、それを納品していただき、うちの工場で最終アッセンブル(組み立て)して倉庫に納めています。
若い音楽クリエイターに向けて
-自主制作のCDも取り扱われているのでしょうか。
山崎:弊社では基本的には、レコード会社さんや映画会社さんから、BtoBでオーダーを受注しますので、個人のお客様から直接受注することはありません。
個人のお客様からCDの制作を受注している商社があるのですが、我々もこうした商社とお取引をしていて、その中には自主制作のCDが含まれています。特にここ数年、コミケなどに出品するCDやDVDの需要が多く、そういうものもかなり製造させていただいています。
-メジャーなレコード会社が制作するCDとの違いはありますでしょうか。
山崎:外見的な違いは特にないですね。あくまでメーカーがきちんと作って、一般的な物流に乗せて販売するか、個人で作って手売りするかという違いですね。
最近の若い人は何でもできてしまうので、パッケージの完成度も高くて、昔みたいに明らかに手作りという感じはないですね。ただ、ロット数は少なく、多くても3,000枚、4,000枚ぐらいで、普通は数百枚が多いかなと思います。
-CD-Rとプレスの違いはどのようなところにあるでしょうか。
山崎:一番は、音が当然違います。プレスしたCDは、ピットという形で物理的に穴をあけているので半永久的に穴の形が変わらないんですけど、CD-Rは書き込むときにレーザーを当てて変色させることで、擬似的に穴を再現しているんです。大まかに言うと、緑色の色素にレーザーを当てると、一部だけが黒くなります。黒と緑の反射率に差があるので、それで信号を疑似的に読み取るというやり方なんですね。実際に穴があいているわけではないので、音の再現性は、プレスしたCDと違ってきます。
もう一つ、圧倒的に違うのは耐久性です。CD-Rだと色素が劣化しますので、短いものでは2年ぐらいで読みとれなくなってしまいます。長くても10年は持たない。なので、ずっと聴きたいと思って、CD-Rにしてもいつのまにか聴けなくなってしまうということが起こります。きちんとしたプレス品は、保存するという意味で適していると思います。
(営業部部長 山崎 勝和さん)
-最後に音楽クリエイターに一言、メッセージをお願いします。
山崎:おこがましいですが(笑)、代表して私から。
便利だから配信で、という流れはあると思いますけど、CDは手軽に高音質で聴けて、半永久的な耐久性もある、ということは再評価していただきたいなと思います。
そのうえで、「一つの作品としての世界観を味わえる」というパッケージの良さも再認識していただきたいです。最近ではアナログレコードの需要が大きくなっているので、CDを飛び越してアナログレコードに戻っていくかもしれないですけど、アナログレコードでもCDでもパッケージの音楽作品として素晴らしい世界観を残してくれると嬉しいです。
このお馴染みのビクターのマーク(タイトルは「His Master’s Voice」)は、亡き飼い主の声が吹き込まれた蓄音機に、「ニッパー」という名前の犬が耳を傾ける様子を描いたもので、最高の技術と品質の象徴とのことです。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
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