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~世界一かわいい音楽に潜むパトスとロゴス(後編)

KENDRIXインタビュー ヤマモトショウ
~世界一かわいい音楽に潜むパトスとロゴス(後編)

KENDRIX
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前編 では、プロデューサーとしての fishbowl との関わり方、バンド活動を始めてから「かわいい音楽」を作るようになるまでの経緯、ヤマモトさんにとっての「かわいい音楽」の構成要素などをお聞きしました。
後編では、FRUITS ZIPPER『わたしの一番かわいいところ』とプロモーションのこと、権利とお金のこと、テクノロジーを活用した対価還元の仕組みなどについてお聞きします。

(プロフィール)
ヤマモトショウ

作詞家、作曲家、編曲家
静岡県出身

東京大学文学部(思想文化学科哲学専修課程)卒業。
大学在学中に始めたバンド活動をきっかけに、音楽で生活していくことを決意。
2012年、エレクトロ・ポップユニット ふぇのたす を結成。
2015年のふぇのたす解散後はアイドルグループなどへの楽曲提供を精力的に行う。
2018年、ゲストボーカルを迎える自身のソロプロジェクト SOROR としてアルバム『new life wave』をリリース。
2021年、オーディションにより結成された静岡県を拠点に活動するアイドルグループ fishbowl のプロデューサーとなる。現在ほどNFTが加熱・浸透していなかった2021年3月には、fishbowl のデジタルコンテンツをNFTで販売するなど、従来の枠組みに囚われない音楽ビジネスのあり方を模索し続けている。

『わたしの一番かわいいところ』とプロモーションのこと

FRUITS ZIPPER『わたしの一番かわいいところ』についてお聞きしたいです。
まずアイドルとファンという特殊な関係性を表現する歌詞が印象的でした。

アイドルってそういうものだよね、というのが入口ですけど、多くの人にとって自分事になるような普遍性みたいなものを一切排除しているつもりではないんです。でもそんなにボヤッとしたことを言っても意味ないじゃんっていうのもあって。
僕は基本的に多様性を重んじる歌詞を書いているつもりなんですけど、多様性って「みんな違ってみんな良い」って言うことではないよなと。多様なものがあって、その中に僕がいるからこういうアウトプットが生まれている、ということにしないと、表現としては当たり前になってしまうんです。

アイドルって相対的なかわいさで語られることが多いですけど、『わたしの一番かわいいところ』は絶対的なかわいさを歌っていて、みんなが希望を持てるなと思いました。

まさにそういう曲を作りたいなと思っていました。
アイドルの子達と話していると、彼女たちが一番イヤだったり辛く感じたりすることって「隣にいる人と比較されること」なんです。それはどうしても仕方ないんですけど、だからこそファンだけは一番かわいいと思ってるべきじゃん、実際にそういう空間を作ってくれていることはすごいことだよ、と伝えるべきだと思いました。

『わたしの一番かわいいところ』のサビやメロディーについてもお聞きしたいです。

サビは二段サビですよね。僕のなかで二段サビの曲といえば、ゴールデンボンバーの『女々しくて』なんですけど、サビは二つあっても良くて、それぞれ別の中毒性があって良いと思ってます。『わたしの一番かわいいところ』も、これは人によって違うと思うんですけど、サビのどちらかが頭に残ってくれれば良いので。

それと、僕の曲は基本的にメロが多いですね。構造が一瞬分からなくなるように作る、というのは、fishbowl の曲でよくやってるんですが、作り手としては結構単純なことで、全部サビだと思って作ればいいんです(笑)。
最初からサビのつもりで書いて、さらにそれより良いサビを作るんです。そうするともっと良いサビがそのあとに出てくる。fishbowl は大体Cメロから始まる構成で、C→A→B→C→サビ、とか。メロが3つあって、そのなかで一番サビっぽいところから始める。

『深海』がそうですよね。

まさにそうです。「fishbowl構成」と呼んでます(笑)。
僕は「曲の構造オタク」みたいなところもあって。例えば、曲のタイトルは歌詞でどこに出てくるのが良いのか、というテーマもずっと考えていて、サビの折り返しで出てくるのが一番エモいとか。レミオロメンの『粉雪』みたいに、最初とサビで2回出てくるパターンはどうか、とか。

『わたしの一番かわいいところ』の二段サビの話に戻ると、あれはTikTok対策というところもあります。15秒で完結するフレーズを2個作る、という狙いがあって、サビの前半と後半を両方15秒に収めているんですね。ワンフレーズで30秒だと長すぎる。

TikTokで人気が爆発したのは狙いどおりという感じでしょうか。

TikTokで流行るかどうかは「運」です。
もちろん流行るように作ったつもりですし、メンバーが日々投稿して運を手繰りよせたのは確かですけど、良い曲で同じようにやっていてもうまくいかないことのほうが多いから、あれが流行ったのは偶然です。
これは流行らない、ということはあらかじめ分かりますけど、流行る可能性のあるものが全て流行るとは限らないじゃないですか。
TikTokマーケティングというのは、流行り出したらそこにどうやって乗っかって回していくか、というところで、そのノウハウはかなり体系化されているんだけど、最初の流行るきっかけは運でしかない、というのが僕なりの結論です。

以前ヤマモトさんが、音楽のプロモーションというのは、同じ曲に対してAパターン、Bパターンなどの比較テストができないとおっしゃっていて、目から鱗でした。
最近だと、海外のアーティストが最新の配信リリース曲で前のシングル曲をカップリングにしてました。

それに似た話かもしれませんが、アイドルの「新曲」ってそんなに無理に作らなくても良いのではないかと思うことがあります。
必ずリファレンス曲があると思うんですけど、その曲のカバーで良くないですか、っていう。これまでみんなが作ってきた良い曲は絶対に再利用したほうが良くて、それはリスペクトの表現方法としても正しいと思います。

学びの場を提供するということ

2018年に、作詞を学べる場として「ロゴススタジオ」を立ち上げています。どんな想いがあったのでしょうか。

今は止まってしまっているんですけど…。
作詞を体系的に学んだり、作詞家同士が交流したりできる場が意外にないなとずっと思っていて。そういう場を作るために、まずは「興味がある人がどれくらいいるのか」ということを探りたくて。
僕が教えるというよりは、みんなで議論する、みたいな場です。

例えば、替え歌って誰でも一度はやったことがある作詞だよね、というテーマがあって。作詞も替え歌みたいなものじゃないですか、だってメロディーがあって仮の歌詞もある、さらに言えば仮の歌詞に引きずられる部分もある。じゃあ本当にオリジナルの歌詞ってあるのだろうか、仮の歌詞じゃなくてシンセメロでデモが来たら違うだろうか、とか。作詞という軸で考える要素が色々あって、このテーマだったらこの作詞家の方に来ていただいてお話を聞こう、という構想もあったのですが、コロナになってしまって。試しにオンラインでもやってみたんですがちょっとしっくり来なかったんですよね。

まだ自分のことが最優先でもおかしくない年齢かなと思うのですが。

僕にとって作詞や作曲というのは自己表現ではないんですよね。やりたくてやってるんですけど、自分の言いたいことを言っているとか、自分が出したい曲を出しているというのとは違っていて。
ということは、そのやり方ってもっと他人と共有できるんじゃないかなって。

5~6年作家をやって思ったのは、作詞家や作曲家になる道が本当に少ない、コンペで当てるしかない状態だなということで。だけど、僕自身がそうだったように、面白いことを考えている人がどこに埋もれているか分からない。むしろ僕が想像もしていない音楽の作り方をしている人こそ作家になるべきだと思うので、そういう人を発見できるルートを少しでも増やせるなら自分がやってもいいかなと。

ただ、これはちょっと言いたいことなんですけど。
僕のところにも、曲作りますよってデモを送ってくださることがあるんですが、みなさんプロフィールに手掛けたアーティストを列記されているんです。だけど、色んな曲を歌っているアーティスト名を言われても、その人がどんな曲を作るのかは全然ピンと来ない。コンペで採用された有名アイドルへの提供曲が、その人の一番売れた曲だったとしても、あなたの代表曲って本当にそれでいいんですか、と思ってしまう。
僕としては、その人が最近作った自信のある曲を聴かせてもらいたいんです。分かりやすいキャリアがないと聴かない、なんてことはないですから。自分の場合は手掛けたアーティストの情報はいらないんです。

権利とお金とクレジットのこと

以前「ヤマモトショウへの仕事の依頼の仕方」を公開されていて、作詞・作曲は印税方式(著作権管理団体から著作権料の分配を受け取れるようにちゃんと作品登録すること)、編曲は定額報酬、と明言されていました。それは今でも変わりないですか。

そうですね。仕組みとして、作詞・作曲は印税収入で回収するのがベターだと思ってるんです。回収コストが低く、売れたら沢山もらえるというのはフェアだなと。
問題点も多々あると思うんですけど、個別の問題は都度解決していけば良いだけだと思っています。
僕にとっては何よりも、印税方式って投資的な感覚があって、単純にそのほうが楽しい(笑)。
一方で、今いちばん問題意識があるのは「CDが売れていた時代と同じギャランティ、同じ支払いシステムのままではまずい」ということかなと思います。

編曲のほうはいかがでしょうか。

これも仕組みとして今は定額になってますけど、イントロを作った人は作曲していない、と決め付ける必要もないですよね。コライトということにして、話し合って取分を決めれば良いと思います。
今となっては、一番聴かれているパートは誰が作ったの、ということまで対応できなくもないですよね。TikTokだと全体のうち聴かれているのはサビだけだったりする。そこを作った人は誰なの、というところまで分かるのが究極的なクレジットだと思います。果たしてそれが正しいことなのかどうか、今答えは持ちあわせていないですけど。

テクノロジーを活用した新しい仕組みのこと

現在ほどNFTが加熱・浸透していなかった2021年3月に、fishbowl のデジタルコンテンツをNFTで販売されたきっかけは何だったのでしょうか。

やっぱり、タレント、アーティスト、ミュージシャンみたいなプレイヤーが、ギャラだけでやっていくことは難しくて、時代に合ってないと思っていて。
彼らもクリエイトしてるよね、そこから収益があがっているなら還元された方が良い、そのための新しい技術があるなら使わない理由はない、という発想でしたね。

NFTはお布施や投げ銭に近いものだ、と醒めた見方もされますけど、ブロックチェーンによって実現される真正性に価値を見い出して新たなお金の循環が生まれるなら、それは有意義なことだと思います。
電力やGAS代の問題も、コンソーシアム型のブロックチェーンであれば回避できますし。

作家の方ともっと新しいテクノロジーやマネタイズの話をしたいんですけど、どうしても怪しまれてしまう部分がありますね(笑)。特に今、NFTは世間からの見られ方として厳しいところがあるなと正直思います。なので、NFTであっても、もうNFTとは呼ばないほうがいいと思っています(笑)。
実は2020年に fishbowl がNFTの提案を受けている時も、僕が「これってNFTですよね」って言うまでは会議の参加者は誰もNFTと呼んでいなかったんです。ずっとデジタルトレカというワードで会議が進んでいて。恐らく当時はNFTって言っても誰も分からないから、プレゼンする人もデジタルトレカと呼んでいたんでしょうね。今となってはその状態に戻すべきだなと思います。

NFTもやっている fishbowl が、一方ではすごく地域密着で、地元企業が各メンバーの応援企業となって、静岡市の駿府城公園で応援企業の出店や体験ブースがずらりと並ぶイベント(大特典会)を開催しているのも本当に面白いと思います。

応援企業からお金はいただいてなくて、地元を盛り上げるためのお友達なんです。Jリーグのチームでも、地元で愛されることで強くなって、そこから日本一のチームが生まれるじゃないですか。2020年にローカルアイドルに可能性を感じてfishbowlを始めたのは、アイドルを通じて静岡もそうなってほしかったからです。
「静岡に転勤になっちゃったけど fishbowl がいたから良かった」みたいな声も聞こえていて。地元の誇れるものの一つとして「アイドル fishbowl」という存在にしたいです。


fishbowl(左から久松由依さん、木村日音さん、新間いずみさん、大白桃子さん)

最後に、KENDRIX、KENDRIX Mediaへの期待や要望をいただけたらありがたいです。

僕は比較的、著作権とかお金のことに興味があって勉強してきたつもりですけど、それでも十分には理解できていないことがまだまだある。多くのシステムは、詳しく分かってなくても使えますよ、という設計がされてますけど、全てがそうなるべきではないと思うんです。
ちゃんと理解したら次のステップに進むことができる、という設計にしてほしいなと思います。
勉強する場はシステムの外で提供するのか、システム内に組み込むのかというのは両面あると思いますけど、そういう啓蒙的なところでも何かご協力できたら良いなと思います。

(リリース情報)
fishbowl『1st oneman live オランダシシガシラ in 静岡市清水文化会館マリナート大ホール』
Blu-ray / DVD(2022年11月16日リリース)

※画像はBlu-ray版

TEXT:KENDRIX Media 編集部

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