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「名も無き感情を形にする」ままならない4年で絡まった感情を解きほぐした Lil’ Leise But Gold の最新アルバム

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「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載は日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちにフォーカスして、活動の軸になっている信念、制作へのこだわり、ライフスタイルなどさまざまなテーマを深掘りしていきます。

今回のゲストは、2026年8月にセカンドアルバム「Emotional Spectrum」を発表したLil’ Leise But Goldさん。音楽好きから広く注目されたファーストアルバム「喧騒幻想」から四年。彼女はどんな時間を過ごしていたのか。そしてDaichi Yamamotoさんが主宰するレーベル・Andlessからリリースされた新作で彼女が表現したかったこととは。複雑に交差した自身の感情を振り返ってもらいました。

文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴

喜怒哀楽のどこにも当てはまらない、名も無き感情

――最新作「Emotional Spectrum」はDaichi Yamamotoさん主宰のレーベル・Andlessからのリリースとなりました。

KMくんを通してレーベルの方からお声がけをいただきました。1st EP「Sleepless 364」はadd. some labelsから、1stアルバム「喧騒幻想」はMary Joy Recordingsから出させていただいているんですが、ご縁と言いますか、毎度本当にありがたいと思っています。

――今作はテーマを掲げて制作されたんですか?

「喧騒幻想」を2022年にリリースしたんですが、あっという間に4年も経っていました。今作に収録されたのはその間に少しずつ書き溜めた曲たちです。だから最初から何かテーマがあったという訳ではありませんでした。ただ、この4年ライフステージ的にいろいろなことが重なって、誰もが通る人生の通過点と分かっていても、受け止めきれずに体も精神もぐらぐらと揺れ動いていました。そういう中で、心持ちというか、自分を見失わないため記録するように制作しました。なので結果的にいろんな感情にフォーカスしたアルバムになりました。日々ちっちゃい達成を一個ずつゲットしていくように1曲1曲完成させていった感じです。

――リル・レイゼさんにとってどのような4年間だったのでしょうか?

一番大きいところでは母を看取ったことです。「喧騒幻想」リリース後、徐々に母の病気が進行して、最後の1年は父と妹と協力して在宅介護と看取りをしました。と同時に、上の子が小学生から中学に上がって子供たちそれぞれが違うステージになったというところで、私は結構戸惑ってしまったんですね。

――戸惑い?

うまい言葉が思いつかないんですけど。今作は私自身に起きた一つひとつの出来事と、それぞれの楽曲が並走しているというか伴走してくれているイメージで、8曲目の『Emotional Spectrum』でようやく自分がどういう思いでいたのか、もがいていたのかということにたどり着いたんです。この期間は家族もそうだし、母を囲むあらゆる方々にもたくさん助けてもらいました。あと何より、出演するライブやタイミングで行けたパーティーで友達や人と会って話すということが自身にとって素敵な息抜きになったし、すごく日々の救いになりました。おかげで気持ちが暗くなりすぎずに済んだのだと思います。制作を進めて完成していくうちに、私自身がこのアルバムで何を伝えたいのかがだんだん見えてきて、この曲を作り始めました。一番最後にできた曲です。

――『Emotional Spectrum』がアルバムを総括する曲なんですね。

はい。感情には喜怒哀楽のどこにも当てはまらない、例えば色には三原色というものがあるけど、その色にまつわるグラデーション・無限の色があるように感情にも4つでくくるには収まらない名も無き感情があるんじゃないかって。なんだろうな、そういうすべてを色とりどりに混ぜたものを形にしたくてこの曲を作りました。

――それが先ほど話された、戸惑いに似た、言葉にならない感情だったんですね。制作時にKMさんとはどのようなディスカッションをされたのでしょうか?

『Emotional Spectrum』以外は割と自由に作っていたんですが、この曲はイメージを伝えてくれました。1曲の中に3つ展開があるので、リズムの取り方に関してはかなり細かく指示がありましたね。

――ちなみにレコーディングはどこで?

ベッドルームに録音できるスペースがあるので、いつもエアコンを消して録ってます(笑)。できたらデータをKMくんにエアドロするっていう。子供たちが学校に行っている間に録る時もあるし、仮歌は夜に録ることもあるので、「ちょっとうるさいかも、ごめんね」と家族にことわってから小さい声でやることもあります。

Raggaeのリズムが体に合っている

――今作にはリル・レイゼさんのバックグラウンドにあるレゲエやダンスホールのカラーが色濃く出ているように感じました。

聴いてくれる人から、結構そういう感じのことを言ってもらえて嬉しいです。でも自分ではそんなに意識しているわけではないんですけどね。歌いはじめたきっかけは「天使にラブ・ソングを…2」のミュージカルを学祭で演じたことです。そこからいろいろ経てジャズヴォーカルの先生と師弟関係だった時期もあったけど、挫折して。でもどうしても音楽を辞めることはできなかった。そんな中で親友とReggaeのイベントに遊びに行きました。それまでHipHopやR&Bのパーティーは行っていたし、レコードも集めるくらい大好きだったけど、Reggae 100%のパーティーはあまりに衝撃的で、刺激的だったんです。そこからは寝る間も惜しんでよく遊び、どっぷりReggaeを聴きました。自分にとってはものすごく新鮮で、同時にものすごく体に合っているなと最初から感じたんです。

――最初から!

うん。しかもサウンドクルーの人たちもお店の人たちもみんなウェルカムで。パーティーに通い出すうちに、フロアで踊っているだけではなく、自分も選曲したいと思うようになってセレクターとして活動するようになりました。そして現場でジャマイカのReggae、ヨーロッパのReggae、アフリカン、南米音楽などいろんな人たちにいろんな曲を教えてもらいました。私はダンスホールも、ブランニューも、ルーツも、ラバーズもダブもジャングルもなんでも好き。あの音楽に魅せられ、体に深く馴染んでいるので、リズムの取り方やフローに自然と好きが出てしまうのかもしれません。

――自分はレゲエを全然知らないのですが、リル・レイゼさんがよく通っていたのはどこのクラブだったんですか?

国立にあるバーやライブハウス、元は渋谷にあって今は三茶にある32016、あと新宿の老舗レゲエバー・REGGAE / DUB club OPENというお店です。そこのみなさんには本当にお世話になっています。

パーティーは会いたい人にまとめて会える

――『Heaven』はアルバムの冒頭を飾るに相応しい勢いのある曲ですが、どのように作っていったのですか?

自分のライブだった日に友達が道玄坂あたりでDJをするからと誘われて、ライブ後に移動している時になんとなく車内で思いを書き留めました。これを書いた時はちょっと問題を抱えて悩んでいた時期だったんですけど、この瞬間は自由な時間でもあるから楽しみたい気持ちもあったんです。その場に居合わせた酔いどれエンジェルたちとガヤガヤしている中に混じることで癒されたいというか。

――パーティーの空間に混じると、一旦悩みを忘れることができますよね。

そうですね。なんていうか、自分が仕事で出られるタイミングは、息抜きもできるタイミングだから、そういう眺めというか、ざわざわと各々が楽しんでいるところを描きたかったんですよね。

――心の中に何かを抱えている雰囲気は伝わってきました。

パーティーのいいところって、会いたい人にまとめて会えるところなんですよね。もちろん個々で会えるに越したことはないけど、意外と日程調整が大変だし、私自身が誘うことに消極的だったというか「迷惑かな」と思っちゃうほうで。パーティーはみんながお酒を飲んでリラックスしているし、そういう空間の中でちょっと顔を見られるだけでホッとしたり、癒されたりするんですよね。ほんと感謝って感じの曲です(笑)。

――大人が遊んでいるイメージですね。

そうですね。大人になるといつでも遊びに行けるわけじゃなくなるから、私自身は1回1回が結構貴重で(笑)。

――“いらないもの全部Sweep”というラインが今作の決意表明なのかなと思いました。

うん。雑念は掃いて蹴散らして、というところから、“どこへだってさ あたしはあたしだからいけるね”という『Emotional Spectrum』に続いていくイメージです。

――『airplane mode』の歌詞は面白いですね。“hepatic, I’m ready night”とか“アイライン大気圏外”とか。

(笑)。この曲は肝臓(hepatic)オッケー、全部一回置いておいて、バカンス全開っていう感じです。

強気にならざるを得なかった

――『EXTRA 15』はシングルにもなりました。タイトルにはどんな意味があるんですか?

私は1月5日生まれで、ワンファイブが私のラッキーナンバーと思ってるんですよね。だから『EXTRA 15』は自分をスペシャルな感じに鼓舞するイメージ。強気になるというか、戦闘モードとまでは言わないけど、バイオリズムが攻撃的になっている時があるじゃないですか。この曲はそういう状態を示しています。


EXTRA 15

――なるほど。その意味ではリードシングルとしても相応しいですね。

そうですね。この4年間は1人の力ではままならないという状況に陥る瞬間が少なくなくて。沈み込んで落ちきる寸前にもう「全てKill !!」みたいなマインドになって瞬間的に自分を鼓舞するというかやさぐれるというか。後から思い出すと、その謎に強気になっている自分に恥ずかしくなっちゃったりもするんですけど(笑)。

――逆に言えば、そう思わないとダメなほど追い込まれた状態だったということでもあります。

「悲劇のヒロインみたいになってはいけない!」と自分にストップをかける瞬間がありました。「山あり谷あり、人生ってそういうものだ」って、そう考えられると気が楽になるんだけど、いろいろ重なってくるとそのマインドに辿り着けない。

――「なんで自分ばかり……」と思ってしまいますよね。“溶けないもの砕いて捨てたnight”というリリックにはどんなニュアンスが込められていますか?

八方塞がり。いろんな方向から解釈して自分を納得させようとしてみてもストンと落ちることはなくて。飲み込んでも飲み込みきれない、全部無駄だ、みたいなジレンマを感じていた瞬間ですね。

――『底の海』は今作で一番ダークな楽曲です。

この曲は親も含めて老いや、思考も含む自分自身のエイジング、そしてなんのために生まれてきたのかとか、どこへ向かうのかというような、漠然としていて、朝になったら忘れてしまうけどつい夜の闇に飲み込まれるような、深夜に湧く不安について描きました。母を看取ってからなんですが、「自分にはあとどれくらいの時間が残されているのだろう」と常に考えるようになりました。「現役とは?」とか。なので、抗いというか、心身ともに老いていくことへの恐怖は性別問わず少なからずあると思うのですが、そういう気持ちを歌詞にしました。でもこういうことを意味があるか無いか抜きに、とにかく考えることで最終的に「この悩みは私の残された人生に必要ないのでは?」とプラスにマインドチェンジもできていて、制作が自分との対話になっていると感じています。

ままならない4年間を過ごして

――個人的には『Love』が一番好きでした。

この曲は両親、私たち夫婦、息子たちという三世代の視点を私の感覚で描きました。私は両親からしたら娘で、息子たちにとっては親。そして間にいる私にも親や息子たちへの眼差しがある。そういう中で、私は親に対して「もう過剰に庇護しなくても大丈夫だよ」と思ってきたし、息子たちは近い将来同じことを私に感じるのかなって。少し前までは手を繋いでいたけど、今度は手を離して、何度も信じて、何かあったら支えられるように後ろから見守らなくてはいけないんだなっていう。

――母であるリル・レイゼさんが歌う“I said ‘mama don’t cry’”にはいろんな感情が込められているんだろうなと思いました。

私の母がすごく心配性だったんですよ。時にはぶつかったし、私の中で確執があった時期もありました。母の愛を重いと感じたし、実際にがんじがらめになった感覚でした。その反面、これは母の愛だと頭では理解しているのに受け止めることができない自分は悪い子だとも思っていました。だけど自分が親になって初めて、母だって子育て初心者だったわけだし、色々心配しすぎちゃったんだろうな、みたいなことをわかるようになったんですよね。そんな時に、SNSで似たシチュエーションの方の投稿に“愛のすれ違い”という言葉を見かけて。母が私に向けていた愛情の方向と私が母に求める愛の方向が別なだけだったんだなって。そこから『Love』の歌詞をまとめることができました。

――『stella』は自分と対話している曲のように感じました。

そうですね。うちのカーテンって薄い生地なので、夜だとお月様が見えるんですよ。ベッドにいて、家の中もシーンとしている状況で書いた記憶があります。たぶん私自身が誰かに話を聞いてもらいたかったんだと思います。ずっとぐるぐる、ああでもないこうでもないと考えていたし、何より、誰かの話も聞きたかった。


stella

――この4年間は、ご自身のライブやDJがある時以外は基本的に自宅で家事などをされていたんですか?

基本的にそうですね。でもそれこそ今年になって、さっき話していた自分の残り時間を考えるようになって、積極的に人と会うようになりました。母を看取り、子供たちも小学校高学年と中学生になったので、以前より自由な時間ができたのも大きいです。あいかわらず「今忙しいかな」とか「今誘ったら迷惑かな」とか考えるし、誘い下手で文面を何度も書き直すタイプではあるけど、「こういうのは元気なうちだよな、会いたいときは会いたいって言わなきゃな」って思うようになってからは、割と頻繁に友達とご飯に行く約束をするようになりました。

――“No, this isn’t a sad song”と歌っていたけど、どこか寂しげでもあって。こうしてお話しをうかがうと、今作は本当にリル・レイゼさんの4年間が詰め込まれているんですね。

改めてままならない4年間でしたね。

リリースパーティー自体が初めてなんですよ

――Andlessとアルバムを制作したことで、リル・レイゼさんの生活で変わったことはありますか?

Andlessの方たちがいろんな企画を提案してくださるんです。誘い下手な私にはそれが本当にありがたい。「こういう感じのことやってみませんか?」みたいな。私自身のマインドもだいぶ変化したので、Andlessとの出会いはすごく良いタイミングだったと思うし、いろいろ受け止めてくれるような気がしています。

――9月26日にはORD.DAIKANYAMA でワンマンライブが開催されます。

実は、私、こういう感じでしっかりリリースパーティーをするのって初めてなんです。

――え、意外!?

Andlessからお話をいただいた時は「夢かな」って思いました(笑)。前回はKMくんのパーティーで15分だけ時間をもらって歌うという感じだったので、「わーい」みたいな感覚だったんですけど、今回は私がお客さんをもてなすわけです。どう楽しんでもらおうかな、どう伝えようかなとか、今はぐるぐる考え中。緊張感もありますね。

――構想の一部を言える範囲で教えてほしいです。

今回のアルバムの収録曲を中心に、過去作も交えて歌うつもりです。ストーリー性を持ったセットリストを考えているところですね。過去から現在、一歩踏み出す未来につながる感じ。そのあたりを楽しみにしてもらえると嬉しいです。

――スタミナもつけないと。

そうですね。私、本当に全然運動をしないので、ちょっとヤバいなと思いつつ、お酒は控えるようにしています。昨日の夜から(笑)。ここ数ヶ月はむくみを抑えるために、ローズヒップティと黒豆茶を飲んでます。摂取系ばっかだ(笑)。リリースパーティに向けてビジュアルも仕上げていきたいので。と言いつつ、やっぱり継続した運動は難しい気がします。

――青春、というと10〜20代のイメージが強いけど、自分も歳をとって、30代にも40代にも青春みたいな瞬間はあるなと思っていたんです。『hashigo』を聴いてそんなことを思い出しました。

ちなみにあの曲も恵比寿のBaticaから道玄坂のbounceに移動するタクシーの中で構想を書きました(笑)。最近はいろんなチャンレジをさせてもらって本当にありがたいです。それとセーブしていたDJも最近徐々に復活中で小さい一歩をまた進めているところです。今思えば10代~20代のころは何かすごいことを成し遂げようとか、すぐに結果を出したい/出さなきゃって意識しがちだった気がします。知らず知らずのうちによくわからない何かと比較して、影と戦って焦っちゃうというか。でも今の自分は残された時間を精一杯生きようと一個一個積み重ねている感覚なので、そういう思いが少しは減ったような気がするし、すごく良いマインドで歌もDJもやれていて楽しいですね。これについては大人の良さってやつかなって思います。

(イベント情報)

Lil’ Leise But Gold “Emotional Spectrum” Release Party
日程:2026年9月26日(土)
時間:OPEN 18:00 / CLOSE 21:00
会場:ORD. DAIKANYAMA
料金:ADV ¥3,000 / DOOR ¥4,000 ※各1ドリンク別
チケット:イープラス

LIVE:Lil’ Leise But Gold
DJ:KM、4LON


Lil’ Leise But Gold
東京都出身のオルタネイティブR&Bアーティスト、シンガーソングライター。プロデューサーKMとは公私ともにパートナーであり、二児の母の顔も持つ。
幼少期から音楽のある環境に育ち、学祭のミュージカルでソロを演じるなど歌うことは身近にあったが、DJであったKMとの出会いからより音楽に傾倒していった。
2019年、シングル『(no)Reason』をリリースしアーティスト活動を始める。2020年5月にコロナ禍で制作したシングル『Aenaiya』を、2021年2月にはEP「Sleepless 364」をadd. some labelsよりリリース。6月にリリースされたKMのアルバム「EVERYTHING INSIDE」にも参加し、WWW Xで開催された「KM EVERYTHING INSIDE LIVE」では初ライブながら圧巻のパフォーマンスで会場を魅了した。
また、日本とアメリカのカルチャーを繋ぐレーベルFrank Renaissanceのプロジェクト「A-Team’s Fables」や、シカゴ在住アーティストSen Morimotoのリミックスアルバムへ参加するなど活動の幅を広げている。2022年12月、ファーストアルバム「喧騒幻想」をリリースし、2026年8月にはセカンドアルバム「Emotional Spectrum」をリリースした。

宮崎敬太
1977年生まれ、神奈川県出身。音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。WEB媒体での執筆活動の他、巻紗葉名義で「街のものがたり」(P-VINE BOOKS)を執筆、D.O自伝「悪党の詩」(彩図社)の構成なども担当。
Instagram:https://www.instagram.com/exo_keita/
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