「ガラスのマインドもわるかない」何回も打ちのめされたDaichi Yamamotoの2025年
「1of1」とは世界にひとつしかないもの/ことを指す言葉です。この連載では日本で「1of1」な活動をしているアーティストたちに話を聞いていきます。いろんな人たちのいろんな言葉が連なったとき、日本が独自の感性で育んできた音楽文化を重層的に表現できるのではないかと思っています。
今回は三回目の登場となるDaichi Yamamotoさん。2025年は、夏をテーマに制作したEP「Box of Summer」と、昨年リリースしたEP「Secure」から派生したフルアルバム「Secure +」を続けてリリースしました。ライブやイベントはもちろん、客演としても引っ張りだこ。現在は9都市を回るツアー「Daichi Yamamoto – “Tidy Up Tour 2025″」の真っ最中です。
「1of1」では個人の複雑で矛盾した内面のありようを優しい視点で繊細に描いたアルバム「Secure +」の話題を中心に、2025年の活動を振り返ってもらいました。
文:宮崎敬太 写真:雨宮透貴
「Box Of Summer」は「Secure」で描いた恋愛の良かった時間を抽出した番外編
――Kzyboostさんとの対談で、昨年(2024年)の夏は1日に3〜4曲書いていたと話されていました。EP「Box Of Summer」の収録曲もこの頃に制作されたんですか?
そうですね。アルバム「Secure +」の曲も同じ頃に作っていましたね。
――「Secure +」の曲があったのに、先に「Secure」をEPとして発表したのはなぜですか?
2024年のうちに(「Radiant」に加えて)もう一個出したいっていう感じで動いていたからですね。「Secure +」の楽曲もある程度は揃っていたんですけど、客演ものが戻ってきてなかったり、最後の微調整が必要だったりという感じで。でもベースはほぼ去年には終わっていました。『メルセデス』を作ったのは今年の3月くらいだったかもしれないけど、それ以外は今年の頭に一言足したり変えたりして、あとブリッジ足したり、そういうのをしました。
――渡辺志保さんも指摘されていましたが、ご自身の内面を視覚や体感に喩えて表現する作詞術はダイチさんの特徴です。それでいうと『Rain』を書いていた頃は恋愛がうまくいっていたのかな、と思いました。
『Rain』を書いたのはいつ頃だったっけ? フックは去年の末くらいに書きました。で、年明けに(A&Rの)マサトさんにデモを送ったら電話が来て「いいじゃん」となって。ヴァースを書き直して完成したので、恋愛という話で答えるとうまくいってないというか、もうお別れしたあとかもしれない(笑)。
Daichi Yamamoto – Rain [ Official Music Video ]
――僕は「Box Of Summer」で恋愛の楽しさを夏の高揚感になぞらえて描き、「Secure +」でその恋愛の根底にあったジレンマと、ダイチさん自身が失恋から再生していく過程を描いた作品なのかなと思ったんです。それで一つ前の質問をしてみました。
確かに。「Box Of Summer」は夏に録ったものが多くて。『Summertime Freestyle ’25 (feat. Rama Pantera)』は今年の夏、『100%』と『Toshiki Kaigan』は去年の夏、『Salty Dog』は2~3年前の夏頃だったかもしれない。
――個人的にはまず「Secure +」のテーマが前提にあって、「Box Of Summer」はその前段としてのスピンオフ的な作品集、という位置付けなのかな、と感じていました。
うん、そうですね。「Secure」は結構ねっとりとしていたんで、(「Box Of Summer」は)その中にあった(恋愛の)良かった時間を抽出した番外編みたいな感覚です。さらっと聴いてほしいというか。
QUNIMUNEさんはすごくかっこいいんですよ
――なるほど。あと「Secure +」と「Box Of Summer」ではQUNIMUNEさんのビートが目立っていました。
そう。QUNIMUNEさんはすごくかっこいいんですよ(笑)。細かい部分まで気を配って調整しくれるプロデューサーです。『Summertime Freestyle ’25』のビートを最初に聴かせてもらったのは、3年前に2人でロンドンに行った時で、「やばいっすね」と思ったんですけど、当時はあまり気分じゃなかったから書かなかったんです。今年になってそのビートのことを思い出してラップを書いて、QUNIMUNEさんに送ったら、全然違う感じで帰ってきました。もう原型はひとかけらもない(笑)。
――そもそもおふたりはどのようにつながったんですか?
つながったのはSoundCloud上ですね。QUNIMUNEさんが2017年の「BEAT GRAND PRIX」で優勝した時、「今年の人やばいよ」って友達が教えてくれたんです。これはめっちゃ余談なんですが、僕はその時、なぜか関西のビートの大会で優勝した人に連絡をとって友達になったんです。それがPhennel Kolianderさんで。教えてくれた友達に報告したら「え、それ違う人だよ」って(笑)。その時にQUNIMUNEさんをちゃんと教えてもらって、改めてSoundCloudに上がってる曲を聴いたらめちゃくちゃかっこよくて、連絡をとって今に至るという。
――その早とちりがなかったら、現在もライブDJを務めているPhennel Kolianderさんと出会ってなかった可能性もあった、と。
そうなんです(笑)。
――ということは、QUNIMUNEさんとはかなり古い仲なんですね。ダイチさんとの相性もばっちりだと思います。
(QUNIMUNEさんとは)最近何が好きかとか、どういうのを聴いていて、どんなことをしたいのかとか、「この曲のこういう部分が」みたいな話をすごくしますね。
――ただトラックをもらってラップを入れるだけではなく、お互いにいろいろなフィードバックをしながら曲をブラッシュアップして制作しているんですか?
そうですね。そういうふうに作る時もあるし、実際に会って、「今こういうテンションのことをやりたいんですよね」と伝えて、一緒にスケッチみたいな音源を作って、それを後日僕が1人で膨らませて、QUNIMUNEさんに送るとさらに調整してくれたり。いろいろ形で制作していますね。

モチーフがあるほうが自分的には納得はしやすい歌詞が書ける
――ダイチさんは「Secure」を「結構ねっとりとしていた」と話されていましたが、「Secure +」からはもっと俯瞰で状況を捉えている印象を受けました。この「Secure +」こそが、当初思い描いていた本来の形だったんですか?
はい。「Secure」はあの段階でリリースできる楽曲の中で、恋愛にフォーカスした曲をまとめた作品です。だから、僕が当初思い描いていたのは、この「Secure +」ですね。書いているうちにどんどん(テーマが)広がっていったので、結構削った要素もあるんです。
――『Million Dollar』と『Newtone』を外したのはなぜですか?
一番大きな理由は、テンション感が違うな、ということ。アッパーな曲を入れたくないわけじゃなかったけど、(「Secure +」とは)ちょっと軸が違う気がしちゃって。
――なるほど。『Million Dollar』はルーツに言及してるし、『Newtone』もラッパー然としたリリックですもんね。しかし、「Secure +」の1曲目『Orange Juice』はすごいですね。恋人とのオシャレな朝食を描いているのかと思いきや、最後に「OJ OJ 新鮮じゃなきゃOJ」と。この「OJ」ってO・J・シンプソン(※)のことですよね?
そうなんですよね(笑)。というか、最初は「OJ OJ シンプソンじゃないOJ」だったんです。オレンジジュースってキーワードから膨らませて書いていったんですけど、QUNIMUNEさんに「これは違うんじゃない?」と指摘されて。なんか笑っちゃいます、みたいな。それでリリックを書き直しました。
※O・J・シンプソンとは? 「O・J」の愛称で知られていたアメリカンフットボールの元名選手。1994年に元妻と友人を殺害した疑いで逮捕された。一度は釈放されたが、二度目の出頭要請を拒否して、警察と壮絶なカーチェイスを繰り広げた。また裁判も大きな注目を集めた。
――『Orange Juice』は、コミュニケーションにおいて、言いたいことをその場で伝えないと、どんどん内面に蓄積されて「濃縮」状態になり、最悪O・J・シンプソンのようなパラノイアに陥ってしまう、ということを歌っているのかなと思いました。オレンジジュースというワードから、内面の深いところまで到達する発想力に驚きました。
僕、普通に書いていると同じような言葉ばかりが出てきてしまって、それに嫌気がさしていたんです。でもオレンジジュースとか、特定のものがあると、そこから広げていけるので、同じような曲になりづらいのかなと。
――ビートを聴いてゼロから発想していくより、例えば今、目の前にあるこのアイスコーヒーから大喜利的に話を広げていくと、自分の想定外の歌詞になりやすい?
そうですね。なんか1個モチーフがあるほうが自分的には納得はしやすい歌詞が書けるみたいです。モチーフがない曲も書きたいんです。例えば『Let It Be』みたいな。でも今は逆にそれがすごく難しくなっていますね。

きっかけの言葉が出てきたら
――『MMS&I』は1ヴァース目のフロウに驚かされました。
この曲はフローと言葉が同時に出てきたかもしれない。
――それはスッと出てくるものなんですか?
時と場合によるんですが、例えば『MMS&I』だと「予定より遅く起きて」みたいのが出てくると、自分的に「はいはいはい」みたいな。
――あとに続く言葉がどんどん出てくる、みたいな。
そうですね。「やったー!」となる瞬間(笑)。逆に全然出てこないこともあります。でもこの曲は最初にラップを入れた時は違う歌詞でした。その時から「ってお前はなんなん」ってフックはあったけど、その問いかけは他者や周りに向けられていたんです。
――リリースされた曲は自分に向けて言っていますもんね。Apple Musicに掲載されている全曲解説では、「予定より遅く起きて」の後にすごく嫌な言葉が入っていたので、最終的に削ったと語られていました。
「俺はダメなやつだ」みたいな歌詞が入っていたんです。けど、ライブの練習をしている時に「ここすげえ嫌だな」と思って。きっとこの歌詞は聴いている人も嫌だろうなと思って、その部分は削除しました。
――ダイチさんは『Drain』(「Radiant」収録曲)でも朝について歌っていましたよね。「急な元気や意気消沈 朝立ち」。あの歌詞、ものすごくびっくりしました。
なんかでも「朝立ち」って漢字だけ見たらすげえ美しい言葉じゃないですか? 鳥みたいな。太陽とか、立ち上がりとか、朝焼けみたいなイメージで入れたんですよ(笑)。あのリリックをトランスレートして海外の人に見せても意味わかんないでしょうね。

自分の体が楽器
――ダイチさんは日本語の美しさにはかなりこだわっていますもんね。続く『O2』にはBenjazzyさんが参加しています。
この曲は結構早い段階で書いた曲かもしれない。「Radiant」をリリースした後、JJJさんのライブ現場で会って、ちょくちょく喋っていて「なんか一緒にやりたいっすね」って結構前から話していました。
――ライブといえば、ダイチさんの発声がどんどん力強くなっている印象があるんですが、どのように鍛えているんですか?
レコーディングの時からライブでの歌いやすさを考えるようになりました。あと自分の体が楽器だな、という意識が出てきたというか。筋トレしたり、運動したりっていうケアが声のボリュームや豊かさに直結している気がしていて、ここ1〜2年はかなり意識しています。しっかりと1ヴァースいけるフィジカルを持っていたい。スキルに関してはどうだろうな……。ずっとやっているから自然にできるようになってる部分もあると思います。
――『O2』はかなりすごいことになっていますよね。
それで言うと、言うのが難しいリリックは良くないリリックだと思っていて。書く時に、「言いにくい」と感じたら、これは良くないリリックだな、と思って直しますね。単純な早口ならたぶんどこでまでも早くできる。でも言いにくいと聴きにくいはリンクしていると思っていて。自分でちゃんと覚えて言いやすいリリックを書くことはかなり意識しています。
――Benjazzyさんのラップも大変なことになっていました。
ヤバいです。あと発想もすごい。Benjazzyさんは本当にラップが好きなんだなっていうのが、聴いていて伝わってくるんですよ。そこが嬉しい。このラップが送られてきた時びっくりしましたもん。本当に最高でした。
――ダイチさんもBenjazzyさんに送る前にラップを録り直しているんですよね。
なんか釣り合わない気がしちゃって、自分も高まった状態でBenjazzyさんに送りたいと思いました。

テキサスで感じたカルチャーショック
――STUTSさんとの『いい感じ』、ものすごく好きです。特に「気分は自分で変えてくラップのセラピー」というラインは今作のフィーリングだと思いました。
実はその1行がめっちゃ迷ったんです。曲自体は去年の3月くらいに録ったんですけど、その1文をどうするか、本当にリリースするギリギリまでやっていました。この『いい感じ』はRed Bullの『64 bars』と同時期に制作していたから、似たようなことを言っちゃっていたんです。過小評価のなんたらかんたらみたいな。あとから気づいて、最後に変えました。
――「景色にリバーブかけて」という表現が好きです。
「SXSW」というアメリカのオースティン(テキサス州)で開催されているでっかいカルチャーフェスみたいなイベントで、楽屋がトレイラーハウスだったんですね。本当に何もない砂漠に泊まっていたので、街にいたら少ししか見えない星空も、リバーブがかかったみたいに地平線まで広がっていて。視野が広がったような感覚になったんです。
――STUTSさんとはどんな話しをしたんですか?
それこそ恋愛相談を(笑)。一緒にお酒を飲みながら。
――制作はどのように進めたんですか?
実はアメリカに行く前から4〜5個くらいビートをもらっていて、1個はラップも録ったんですけど、なんかあんま自分が納得できなくて終わっちゃったんです。それで帰ってきて、もらったビートをまたしっかりと聴いて、『いい感じ』のビートを選んで仕上げました。
――ダイチさんにとってSTUTSさんとのアメリカ滞在はどんな体験になりましたか?
「SXSW」が開催される3〜4日前にアメリカに着いたので、STUTSさんと一緒にエル・パソ(テキサス州)とかを旅行したんです。乗り継ぎで立ち寄る程度はあったんですけど、僕、アメリカをちゃんと観光するのは初めてだったんです。LA(カリフォルニア州)からエル・パソに行ったんですけど、州をまたぐと別の国に来たんじゃないかってくらい違う雰囲気になったのには驚きましたね。メキシコとの国境沿いはさらに雰囲気が違っていて。お店に入ると「銃の持ち込み禁止」みたいなのが貼ってあったり。まあ当たり前なんですけど(笑)。
――タイラー・ザ・クリエイターもこの前の来日公演のMCで日本は本当に平和で素晴らしいよ、みたいなこと言ってましたもんね。
そうそう。やっぱりみんなが当たり前に銃を持てる環境だと、「そりゃ緊張感が違うよな」と改めて思いましたね。そういう環境で育っているというか。最後はオースティンで、STUTSさんの弟さんも合流してみんなでご飯を食べました。
――まさに、いい感じ(笑)。
うん。面白かったのが、僕のお姉ちゃんがアメリカに住んでいて、テキサスに行くと伝えたら「気をつけな」ってすごく言われたんですね。でも個人的にはLAのほうが冷たい感じがして、むしろテキサスのほうがみんな優しいというか、ちゃんと対応してくれた印象でした。
――意外かも。
ですよね。でも「SXSW」でライブしたら、観客から「なんであいつは日本語で歌ってるんだ!?」みたいな感じになっちゃって。ミックスの僕が日本で日本語を歌うことに対して、そこまでフィルターを感じたことはなかったし、ロンドンでもそういう経験はしたことがなかった。みんなそれぞれ僕のバックグラウンドをちゃんと理解してくれている感じがした。でもアメリカというかテキサスでは、逆に「お前のやってることは文化盗用じゃねえか」みたいな。
――アフリカンアメリカンのカルチャーやストーリーは自分たちだけのものだ、という意識が非常に強かったんですね。
はい。ステージを降りたあとも「何語で歌ってたの?」と結構話しかけられましたし。歌う前に説明しなきゃいけなかったのかな、とか、アメリカのテキサスという土地柄もあるかな、とかいろいろ考えさせられましたね。で、その話をお姉ちゃんにしたんですよ。そしたら「そりゃそうよ。だから言ったじゃん」って(笑)。
――アメリカくらい国土が広いと、特に田舎のほうでは、東京やロンドンのような人種の多様性や、個人の複雑な背景などは感じづらいのかもしれないですね。
まさに。あの体験はかなりカルチャーショックでした。

「もうこんなの泣いちゃうよ」
――そういえば、Kzyboostさんとの対談でも『夜中の爪』のElle Teresaさんの「秘密言わないタイプの充電器」について話されていたじゃないですか。「Secure +」で改めてこのラインを聴くと、もしかしたらここはダイチさんのことを言ってるんじゃないかと思ったんです。
そういうことなんですかね?
――『なんとかなるさ』に「提唱するINFJ」というラインがありますよね。僕もMBTIがINFJで、結構思ったことをその場で言えずに、ストレスを溜めてあとで爆発させちゃうほうなんです。ダイチさんが自分と同じかはわからないけど、『夜中の爪』は、INSECURE(不安定/不安)な状態を歌っているので、もしやあのラインは充電器のようにストレスを溜め込んでいるダイチさんのことなのでは……?と思い。
確かに僕は溜め込んでモヤモヤするタイプですね。……腑に落ちました。いやなんか、Elleさん、ありがとうございます、という感じです(笑)。やばいです。(Elleさんは)めっちゃリリシストですよね。今年リリースされたEP「YUKAKO」のリリックもすごかったし。毎回驚かされます。
――「Secure +」で新たな曲が追加されて、全体の解像度が上がったから気づけた部分もあります。アルバムにおける恋愛のストーリーは『1999』で終わって、『Central Line feat. MFS』から再生に向かっていく。
自分ではそこまで深く考えずに、「この次はこれかな」みたいに曲を並べていたんですけど、ミックスエンジニアの得能(直也)さんも、『Orange Juice』〜『1999』の5曲と、『Central Line feat. MFS』〜『メルセデス』でレコードの表裏みたいな感じがするって言っていました。
――『1999』はそんなに言葉数が多くないけど、1語1語に別れの予感と遣る瀬なさが圧縮されていて、無駄な言葉がない。KMさんのビートと絡み合ってセンチメンタルなムードが増幅されていました。この曲も特に好きです。
これはサビのメロディーだけが先にあって、前後のラップが全然ハマらなかったんです。そしたらある日、デートした時のことをふと思い出して、そこからすらすらラップが出てきました。その話をKMさんにしたら「もうこんなの泣いちゃうよ」みたいな連絡が来て(笑)。
――制作の順番としては、KMさんから仮トラックが送られてきて、リリックを乗せて、さらにKMさんが直して、というキャッチボールがあったんですか?
この曲はもともと客演が入る予定だったんです。けど僕がなかなか歌詞を書けなくて、入ってもらう人からも「ちょっと書けないかも」というお返事をいただいて。そこからさらに何回か書き直しました。そこで、最初に出てきたサビのメロディーを大事にしようと立ち返って書き直したのちに、ようやくこの形に落ち着きました。
――めちゃくちゃ紆余曲折を経ていたんですね。
そうなんですよ。……今思い出したんですけど、『夜中の爪』のところで、INFJの話しをしてくれたじゃないですか。僕が「もっと感じていることをちゃんと言おう」と思ったのは、KMさんとの『なんとかなるさ』を書いている時だったんです。
『なんとかなるさ』が巻き起こしたポジティブな現状
――『なんとかなるさ』はライブでもかなり歌っていると思いますが、お客さんの反応など、どんな手応えを感じていますか?
『なんとかなるさ』は歌いやすい曲なので、いつもセットリストに入れているんですが、みんなサビだけじゃなくて、ヴァースもちゃんと歌ってくれるんです。あとMVのYouTubeコメント欄がすごいんです。みんな優しい。良い奴らばっか集まっている。それを読んで、僕も嬉しくなるっていう(笑)。『なんとかなるさ』は、ライブの空間も、YouTubeのコメント欄も、ポジティブな現象みたいな感じになっていると思いました。
――素晴らしいですね。今回の流れで、『No More』を聴くと、これも「Secure」の時とは全然違う印象で。特に鈴木真海子さんのヴァースは、本質的に「秘密言わないタイプの充電器」と同じことを言っている気がしました。
僕からこういう歌詞を書いてほしいとオーダーしたんですけど、僕自身も聴くたびに印象が変わるというか。真海子さんのヴァースが誰に向けて歌っているのか、その捉え方でだいぶ印象が違うと思います。僕は最初、歌の主人公は自分に向けて言っているのかと思っていたんです。でも、改めて聴いてみると相手に向けて言っているように捉えることができる。
――僕は鈴木真海子さんの歌詞が良い意味でグサグサ心に刺さりました。
(笑)。
――あと、次の『メルセデス』との流れで、1人の内面は本人が自覚できないほど複雑で、そんな自分を肯定していく視座があると思ったんです。特に「心に響かねーなら 心にヒビがねぇなら 感動も響かねーから 感度が割れちまうくらい ガラスのマインドもわるかない 君ちょっと繊細 それは才能さ天才」は今作のハイライトです。
確かに。そんな気がします。この曲は4LONくんのビートです。彼はこういうエモーショナルなのも実は得意なんです。この曲は今年の2月か3月くらいに作りました。

――気が付けば2025年もあと少し。現在はツアー「Daichi Yamamoto – “Tidy Up Tour 2025”」の最中ですが、改めて振り返るとどんな1年でしたか?
本当に色々あった1年でした。去年の年末に別れて、「今年はやってやるぞ」というマインドでいたら、なんかこう、何回も打ちのめされた気がしていて。その度にどうしようって感じでしたね。実は、ちょっと前にライブ中にパニック発作みたいのが出ちゃったんです。その時は「音楽なんてこんな思いをしてまでやることじゃない!」と思って、「もうライブをやめよう」となりました。
――そんなことが……。
会場によって環境も違いますし、移動の疲れとか、ちょっとしたことの積み重ねがあったんでしょうね。ライブ中はアドレナリンが出ているから、なんとか乗り切れたけど、次の日は本当に何もできない状態で、ずっとベッドに突っ伏していました。というか、僕はどのライブでも基本的に翌日は何もできない。その日は特にひどかったけど、毎回似たようなものというか。
――DJ Scratch Niceさんのアルバム「Let This Be The Healing」に収録された『Phase (feat. JJJ & Daichi Yamamoto)』でもライブ後の感覚を生々しくラップしていました。「Secure +」のマインドとはかなりトーンが違うので驚いたんですよね。
確かにそうですね。そのパニック発作の件で、改めて自分は人前に立って何かするのが得意ではないなって再認識させられたんですよ。ずっと「いや、俺はいけるっしょ」と思っていたけど……。
――自分を騙しきれなかった的な。
うん。無理していたみたいです。だからと言ってライブが嫌いなわけではない。それこそさっき話したような『なんとかなるさ』でお客さんがヴァースまで歌ってくれたりするのを見るとすごく嬉しいわけで。
――苦しさも楽しさもどっちもある。
そうっすね。交互に来る。ただこの前、とある女性のエッセイを読んだんです。その人は拒食症で、人生の困難から逃げたくてアルコールとドラッグに手を出したんです。でも妊娠が発覚して。それを機にあらゆる誘惑を絶って、人生と本気で向き合うことにしました。でもやっぱり苦しいことは絶えない。それを読んで、人生ってそういうものなのかなと思ったんです。つまり真っ当に生きているからこそ打ちのめされたと感じられるというか。このしんどさは、自分が正常であり、真面目に頑張っている証なんだ、と考えられるようになりました。
――『メルセデス』のリリックにも通じますね。そういう意味でも、真面目に生きている不器用な人とっては、『なんとかなるさ』のようなデリケートな優しさを見つけた時、救いになるのかな、と思いました。
うん。今は辛いけど、きっとまた楽しいこともくるかなって。2025年はそんなことを考えさせられた1年でしたね。
――最後に、余談なんですがメルセデスを購入したんですか?
僕、マイカー持ってないです(笑)。
――「稼いでベンツをゲットしたぜ」的なニュアンスもあるのかと思っていました。
いや全然。『Orange Juice』と同じく語感で選んで書きました(笑)。

Daichi Yamamoto
1993年京都府生まれのラッパー。19歳からラップとビートの制作を開始。
大学留学を経て、インターネットで自身が制作した楽曲を発表。
2018年にSTUTSのアルバム「Eutopia」の収録曲『Breeze』に参加したほか、Aaron Choulaiと共作したEP「WINDOW」などを発表。
2019年9月に1stアルバム「Andless」をリリース。
2ndアルバム「WHITECUBE」を経て、2024年5月に3rdアルバム「Radiant」をリリース。
さらに「Secure」(2024年12月)、「Box Of Summer」(2025年8月)というEP2作を経て、2025年9月に4thアルバム「Secure +」をリリース。
宮崎敬太
1977年生まれ、神奈川県出身。音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。WEB媒体での執筆活動の他、巻紗葉名義で「街のものがたり」(P-VINE BOOKS)を執筆、D.O自伝「悪党の詩」(彩図社)の構成なども担当。
Instagram:https://www.instagram.com/exo_keita/
X:https://x.com/djsexy2000
撮影協力
dish-tokyogastronomycafe(東京都渋谷区上原1-33-16 大塚ビル2階)

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