アーティストのロゴはどう作る?いつ作るのがベスト?
プロのデザイナーに聞いてみる
アーティストごとの特色が現れる「ロゴ」。
音楽ファンなら必ず見たことがあるものだが、個性豊かなあのロゴ達はどうやって生み出されているのだろうか。
今回は、一般企業のロゴの他、音楽関連のロゴデザインも手がける久保木香さんに、アーティストのロゴができるまでを伺った。
<久保木香プロフィール>
アートディレクター、グラフィックデザイナーとして、企業や店舗、サービスのロゴ、パッケージ、書籍の装丁などのデザインとともに、多くのバンド、シンガーソングライターのロゴ、ジャケット、フライヤーのデザインを手掛ける。さらに映像ディレクターとしてMVなども制作している。
楽曲やライブをもとにロゴのデザインを作っていく
――久保木さんがアーティストのロゴデザインを始めたきっかけはなんですか?
もともと音楽が大好きなんです。音楽って、嬉しいときでもつらいときでも、こちらの感情に関係なく、ずっとそばにいてくれる存在だと気がついた経験があって。
そういう音楽に、自分なりに恩返しができたら最高だなと思って、音楽のデザインに関わりたいなと思い始めました。
それから、自分では(音楽を)作れないから、メロディを作ったりアレンジができるなんてすごいなというリスペクトがありまして。
そういう尊敬できる人と仕事できるのが嬉しくて、デザインの仕事をしています。
久保木さんのお仕事の例。ロゴの他に、ジャケットデザインなども手掛けている。
――素敵ですね! では早速、ロゴのデザインの裏側についてお聞きしたいです。まず、アーティストのロゴはどういう流れで制作されているのでしょうか?
アーティストご本人から依頼が来る場合と、レコード会社さんから依頼が来る場合でかなり違うと思います。
レコード会社さんの場合は、「こういう人たちに聞いてほしい音楽だから、それに合わせて作ろう」というご依頼だったり、作りたいロゴのイメージがはっきりしていることが多いです。
アーティストご本人の場合は、人によって依頼の内容も方法もばらばらです。
はっきり箇条書きで依頼内容を伝えてくれる方もいるし、「優しい雰囲気にしたい」「この色を使いたい」という抽象的なイメージから形にしていくことも多いです。
――おもしろいですね。抽象的なイメージの場合、どうやってデザインを作っていくのでしょうか?
一番参考にするのは、その人の作品や楽曲の雰囲気です。
音源や歌詞をずっとそばに置いておいて、それをもとに依頼内容に合わせて考えていきます。
それから、ライブもすごく大事です。ファンの方の様子も含めて、たくさんのものが一気に見れると思っています。
あとは、実際にお会いしたときの雰囲気やファッションも参考にしていますね。
ロゴに限らず、久保木さんのデザインにはアーティストの世界観や楽曲が表現されているものが多い。
――ロック・ポップス・ヒップホップといった、そのアーティストの音楽ジャンルやテイストも意識していますか?
私はあまり盛り込まないですね。アーティストご本人が押し出したいときだけ意識します。
ロゴって、デザイナーではなくアーティストのものだと思うんです。だから、「私はこういう音楽だと思う」「ファンから見るとこうだ」というイメージを押し付けるのは違うかなと思っていて
もちろん第三者からどう見えるかという視点はどこかで入れた方がいいと思うんですけど、差し込むタイミングは注意がいるなといつも感じています。
――あくまでアーティストの作品や世界観を中心にしてデザインを作っていくんですね。大変おもしろいお話です!
グッズにするときのことまで考えてデザインする
――アーティストのロゴならではの難しさについてもお聞きしたいです。
アーティストのロゴだからこそ意識することはいくつかありますね。
たとえば、Tシャツやキーホルダーにしたときに(ロゴに使っている)色の数が多いと、それだけで値段が高くなってしまうんです。
だからできるだけ色数をおさえたり、単色に変えやすいロゴかどうかは意識します。
それから、日本語名のアーティストは、印刷したときにロゴが潰れてしまうことが多いんです。
特に漢字は小さくすると読めないことがあるので、線の太さにはかなり気を使います。
線が細いアルファベットのロゴの例。柄の上に重ねても読みやすいようデザインされていることがわかる。
――「名前は日本語だけど、ロゴだけアルファベット」というアーティストは珍しくないですが、デザイン上のメリットもあるんですね!
あとは、一般の企業さんと比べると温度感の違いがあります。
私は音楽以外のロゴデザインもやらせていただくことがあるのですが、一般企業だと業界・顧客・今後の展望といった経営に関する情報をできるだけ含めて作ります。
でも、音楽だとそういう情報を入れると(ロゴが)うるさくなってしまったり、作品の印象とずれてしまう気がして。
なので、一般企業より載せる情報をしぼってアイデアを出すことが多いですね。
――おもしろいですね! 音楽デザインの場合、ロゴのアイデアはどれくらい出すのでしょうか?
アーティストによって「たくさん見たい」「数をしぼって出してほしい」というスタンスが違うので、それに合わせます。
デザイナーにとっては、出すアイデアの数も試行錯誤です。
――なるほど! アーティストのロゴは通常、どれくらいの期間で制作しているのでしょうか?
求められた期間です。アイデアはすぐに思いつくんですけど、そこからブラッシュアップしていくのに私は時間がかかります。
使える時間は長ければ長いほどいいんですけど、無限に時間があるわけではないので、もらった条件の中で毎回ベストを尽くしていますね。
――久保木さんがプロとしてお仕事に向き合っていることが伝わってきます。
デザイナーには一番得意な方法で思いを伝えるとよい
――最後は、これからロゴを作ろうと思っているアーティストの方にも役立つお話を聞いていきます。まず、音楽活動を始めてからどのタイミングでロゴを作るアーティストが多いのでしょうか?
これまで受けた依頼だと、結成時と結成後しばらくしての人が、半々ほどです。
あとは、活動開始から2〜3年後に「方向性を変えたい」という相談を受けてリデザインすることも多いです。
――リデザインのときは前のロゴをどの程度意識するのでしょうか?
「これまでのファンがびっくりしないように変える」というのが大前提だと思っています。
具体的には、ぱっと見て「前のロゴとここが繋がっているな」とわかるポイントを入れるようにしてますね。
――ロゴを発注するとき、アーティスト側が気をつけるとよいポイントはありますか?
「こういうロゴが作りたい!」という思いが言葉にできるならベストだと思います。
もし、それが難しければご自身が一番得意な見せ方で全力で伝えていただければ、こちらも全力でそれを受け止め、愛を注いで、一緒に創り上げていきます!
――大変おもしろかったです!本日はありがとうございました!
久保木香さんのその他のデザインはこちらから
TEXT:まいしろ
(プロフィール)
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。音楽と映画が特に好き!
Twittter:https://twitter.com/_maishilo_
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