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~世界一かわいい音楽に潜むパトスとロゴス(前編)

KENDRIXインタビュー ヤマモトショウ
~世界一かわいい音楽に潜むパトスとロゴス(前編)

KENDRIX
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女性ボーカルMICOとのユニット ふぇのたす の楽曲に加え、寺嶋由芙、タルトタタン、SHE IS SUMMER、フィロソフィーのダンス、リルネードなど、数々のアイドルやアーティストへの楽曲提供を重ねるうちに、いつしか自他ともに認める「世界一かわいい音楽を作る」作詞家・作曲家となったヤマモトショウさん。

FRUITS ZIPPER『わたしの一番かわいいところ』(ヤマモトさんが作詞・作曲を担当) は、研ぎ澄まされたかわいさとキャッチーな中毒性が相まって、2022年4月のリリース直後からTikTok上で人気が爆発。急遽ミュージックビデオが制作されたり、人気テレビドラマの重要シーンで使用されたりする事態となっている。

そんなヤマモトショウさんは、クリエイターやアイドルをサポートするシステムやビジネスモデルのことを研究し、自ら率先して試行錯誤している音楽プロデューサー兼実業家でもある。
音楽クリエイターの皆さんに、ヤマモトさんの活動や考え方をご紹介するとともに、ブロックチェーンを活用した音楽クリエイターのためのDXツール「KENDRIX」の今後の開発に向けたヒントやご意見もいただければとインタビューを申し込んだところ、快く応じていただけた。

ヤマモトさんがプロデュースするアイドルグループ fishbowl が出演するイベント会場(恵比寿リキッドルーム)に押しかける格好で、リハーサルの合間やイベント終演後にじっくりとお話を伺った。

(プロフィール)
ヤマモトショウ

作詞家、作曲家、編曲家
静岡県出身

東京大学文学部(思想文化学科哲学専修課程)卒業。
大学在学中に始めたバンド活動をきっかけに、音楽で生活していくことを決意。
2012年、エレクトロ・ポップユニット ふぇのたす を結成。
2015年の ふぇのたす 解散後はアイドルグループなどへの楽曲提供を精力的に行う。
2018年、ゲストボーカルを迎える自身のソロプロジェクト SOROR としてアルバム『new life wave』をリリース。
2021年、オーディションにより結成された静岡県を拠点に活動するアイドルグループ fishbowl のプロデューサーとなる。現在ほどNFTが加熱・浸透していなかった2021年3月には、fishbowl のデジタルコンテンツをNFTで販売するなど、従来の枠組みにとらわれない音楽ビジネスのあり方を模索し続けている。

fishbowl のプロデューサーとして

リハーサル、おつかれさまでした。
音源で fishbowl を聴いていた印象と違って、ライブ用のトラックの迫力がすごかったです。

イベントごとに持ち時間とセットリストが変わるので、毎回トラックを調整しています。
音源とアレンジが全然違う場合もありますし、共演者がいるイベントだと共演者を意識したアレンジを施すこともあります。今日だったらメインアクトが「でんぱ組.inc」なので、彼女らをリスペクトしたアレンジも入っていたりします。
こういうことができるのは、ちゃんと音楽プロデューサーが付いている fishbowl の強みだと思いますね。


ヤマモトショウさんとfishbowlのメンバー(左から新間いずみさん、久松由依さん、木村日音さん、大白桃子さん)

fishbowl のデビュー曲『深海』は、ソロシンガーの 諭吉佳作/men さんが歌唱したバージョンから公開されたのも驚きでした。

アイドルの曲って何となく舐められがちだけど、fishbowl は「いい曲」ということも一つの売りにしたかった。経験のないメンバーたちが歌唱する際にその良さを引き出すということも自分はプロだと思いますが、一方でその曲の良さを皆さんに伝える、メンバーに対してちゃんと目標を作ってあげるという意味で、全く別のシンガーに歌ってもらうのは面白いだろうなと考えていて。
誰かにお願いできないかなと思っていたら、ちょうど静岡出身で素晴らしいミュージシャンがいたので、諭吉さんに。かなり挑戦的なやり方でしたけど。
アルバム1枚を、fishbowl のメンバーが歌唱したもの(『主演』)と、ゲストボーカルが歌唱したもの(『客演』)と2種類作ったので、レコーディングやミックスの作業量としてはキツかったですね。誰の何をやったっけ? ってだんだん混乱してきて(笑)。

音楽活動を始めたきっかけ

東京大学で哲学を学びながらバンドを始めて、卒業後は音楽でやっていこうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

もともと音楽はめっちゃ好きで、一番はとにかく「やってみたかった」んです。
中学の合唱発表会とか、音楽の授業とかあるじゃないですか。そうすると、小さい時からピアノやってるとか、そういう楽器をやってる人と比べて、自分が音楽をちゃんとやってきたわけではないことがちょっとコンプレックスだった。自分は音楽が好きで色々聴いていて詳しいと思ってたけど、音楽そのものは得意ではない、もしかして苦手? という感じで。他のことではあまりコンプレックスはなかったけど、唯一音楽だけが…、という。
学校の授業に出てくるような音楽は、自分が好きな音楽とは別物で全然理解できない、という状態でした。

どんな音楽を聴かれていたのですか。

親の影響で70年代のロックとかを聴いていて、ギターを始めた時もまずはディープ・パープルとか。
でも小中学生のころから普通にJ-POPとかも好きで、チャート番組とか観るのも好きでしたね。
バンドは中学からで、もちろん最初はコピーバンドでしたけど、大学の時に「音楽でやっていくならオリジナル作らないと」「それだったらこういうのが売れそうだな」みたいな感覚で曲を作るようになりましたね。一応当時からそういう発想ではあったんです。当時は全然ダメだったんですけど。

そんな学生時代に、対バンしたアイドルグループの方が客席が盛り上がっていることを目の当たりにして、アイドル的なアプローチを志向していったとか。

どっちがロックか、という定義とかはどうでも良いと思うんですけど、そっちの方がお客さんは断然盛り上がっている、というのは確かだったので。この人達が反応してくれることをやったらバンド側からでも何か起こせるんじゃないかと思いましたね。
それからは本当に試行錯誤でした。才能はないとは思わないですけど素養はないんです(笑)。
ふぇのたす の前身のバンドでもアイドル的な女性ボーカルとやってたんですけど彼女が来なくなってしまって、どうしようとなっていた時に、レコード会社の方からMICOを紹介されて、声を聴いたら目指していた方向性がクリアに見えてきたので、ふぇのたす として始めたという。
とはいえ確信があったわけでもなく、技術はないのでアイデアで勝負していこう、というなかで、最初のデモとして『スピーカーボーイ』を作ったら、これだ!ってなったんですよね。
ねぇ青笹さん(fishbowl のマネジメントを担当している株式会社ASPEQの青笹伸さん、ふぇのたす デビュー時のレーベル担当者)。

青笹さん:え?なになに? 『スピーカーボーイ』? ああ、あれは衝撃的でしたね。あの時スタッフ全員がイケると思いましたよ。

自分ってこういうの作れるんだ!って。自分の当時の技術と持っていた機材で、一番おしゃれなものを作ったんですけど、あの曲で「イケる」という確信みたいなものを持てました。その時に青笹さんのところでCDを出してくれたんですよ。青笹さんとはそれ以来の仲です。

今でこそ「かわいい音楽を作れる」とか言ってますけど、ふぇのたす をやろうとした時点ではそういう意識は全くなくて、MICOの声に合うものを作ろうとしただけだった。実際やってみて「あ、得意なんだな」とその時に分かった感じです。

よくかわいい声の方を挙げられて「こういうの好きですよね」って言われたりするんですけど、別にそういうことではないんです(笑)。
声がかわいいから好き、とかではなくて、かわいい声が活かされた音楽が好きなんです。
どっちかっていうと男性ボーカルのバンドが好きなんですが、自分でやるなら好きじゃない方をやろうと。好きなものには勝てない、どうしても好きなものの劣化版を作ってしまいそうだなと。

かわいい音楽の構成要素とは

ヤマモトさんにとって「かわいい音楽」の前提条件は、かわいい声になるのでしょうか。

いや、そんなことはないですよ(笑)。声を活かせれば、どんなひとでもかわいくなると思います。
かわいい要素っていかようにでも取り出せるんだけど、声質を、僕がよくやる意味でのかわいいに寄せたほうがもっと活かせるのに、と感じる人はいて、そういう時はもったいないなと思ったりはします。
でも本人がやりたいことをやったほうがいいと思います。
難しいですよね、自分の声に合ったことが、自分の好きなこととは限らないというのは。ただ、せっかく一緒にやるなら、ちゃんとやりとりしてちょうど良いところを探したい、というのはあります。
トラックはかっこいいけど、歌だけかわいいということもできる。
ふぇのたす でいえば、トラックは80年代のテクノポップやニューウェーブ、メロディーと歌はアニソンという構成なんですけど、それが僕のやりたい音楽でもあるし、MICOの声にも合ってて、MICOもアニソンみたいなこともやりたいという部分はあったので。プランニングとしても成り立つところでどう折衷するかということをじっくりやりました。

ふぇのたす が7年ぶりに復活して今年リリースしたミニアルバム『ピース2022』を聴きましたが、やはりアニソンの影響を強く感じました。KENDRIX Mediaにもご登場いただいている神前暁さんの影響もあるかなと。たとえば『恋愛サーキュレーション』(2010年)とか。

神。ふぇのたす を始めた時から神前さんの作品の影響はむちゃくちゃ受けてます。
日本語でかわいくてユニークなものを音楽的にもレベル高く作りたいと思うなら、あの時代のアニソンを聴かないのはあり得ないと思う。もちろん現行の作品もそうですけど、特にあの頃、アニメの世界ですごくクオリティの高いものが生まれているということは、ちょうどアイドルグループの盛り上がりを目の当たりにしたことと同時期に受けたもう一つの衝撃です。

ヤマモトさんはボカロシーンには向かわなかったんですか。

時期的には並行していたので、あの時ボカロPになっててもおかしくなかったとは思います。なんでそっち行かなかったのかな…。
今となってはボカロ出身の方がアイドルをやったりしてますし。どっちもありだったと思いますが、歌い手が二次元か三次元か、というところですよね。三次元だとスキャンダルとかもあって大変だったりするんですけど(笑)、自分はライブが好きだったので、ライブをやれるほうが良かったんだと思います。

後編 につづく。

後編では、FRUITS ZIPPER『わたしの一番かわいいところ』、権利とお金の話、テクノロジーを活用した対価還元の仕組みなどについてお聞きしました。

TEXT:KENDRIX Media 編集部

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