若手クリエイターが突撃取材!クリエイターリサーチ
芸団協 CPRA に突撃取材(調査員:Fionn Mily)(後編)
若き音楽クリエイターが調査員となり、音楽業界を影で支える企業・団体・キーパーソンに突撃取材を敢行する「クリエイターリサーチ」。
現役大学生でラッパー・シンガーのFionn Milyさんが調査員となり、
「公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター」
通称「芸団協CPRA(ゲイダンキョウ・クプラ)」
を取材した模様の後編をお届けする(前編は こちら)
(プロフィール)
Fionn Mily
2000年生まれ、神奈川県出身。
ラッパー/シンガーソングライター。
2020年1月に1st EP『Princess』をリリース。
2020年春にはレッドブルが主催するオンラインマイクリレーコンテスト「Red Bull Our Bars」で350以上の応募の中から優勝を勝ち取った。
HIP HOPの枠に収まらない多彩な表現力と透明感のある歌声を武器とする新進気鋭のアーティスト。
取材にご対応いただいたのは、芸団協の常務理事である松武秀樹さんと芸団協CPRAの職員の方々。
(プロフィール)
松武秀樹
1951年生まれ、神奈川県出身。
シンセサイザー・プログラマー/作編曲家/プロデューサー
1971年に冨田勲氏のアシスタントとして、モーグ・シンセサイザーでの音楽制作を経験。
1978年〜1982年にかけてYMOの作品に参加、ワールド・ツアーを含めたライブにも帯同。
1981年には自身のユニットであるLogic Systemでの活動をスタートさせ、数多くのアルバムをリリース。
公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)常務理事、実演家著作隣接権センター運営委員。
音楽の実演家の権利とは
Fionn ここまで実演家の権利について教えていただきましたが、自分みたいな音楽の実演家には具体的にどんな権利があるんですか?
CPRA まず財産権のうち許諾権で例を挙げると、例えばFionnさんが路上でパフォーマンスしている様子を撮影しようとする人に対して、OKとかNGと言えるのが「録音・録画権」ということになりますね。
それをインターネットにアップロードして良いか、ということに関しては「送信可能化権」。
さらに、録音されたものを小売店とかで販売して良いですよ、というのは「譲渡権」となります。
ただ、「譲渡権」は、一旦適正に販売されたら権利がなくなるので、例えばレコードショップでCDを適法に買った人が中古屋に売りに出す際に何か言うことはできません。
これは実演に限らず、著作物でも同じですね。
松武 そういうのって、なぜだって思いません?
Fionn なぜだ?としか思えません。
松武 私なんかもそうで、中古屋さんで自分のCDが高く売られても、自分のところには1円も入ってこない。権利が消尽するっていうんだけど。
KENDRIX Media(KM) アナログレコードの人気は再燃していて、リリースしたいのに生産体制が追いついていない、くらいの状況があって。
やっぱり価値が上がっていく状況というのはまだまだ続きそうです。
松武 脱線しますけど、レコードというのは自分も大事にしていて。
あれは究極のハイレゾですよ。あれ以上のものはない。
データのハイレゾというのは人工的に作られたものですが、レコードは聴き方によってはそれを凌駕するので。
あそこにマニアが集まる理由は、自分の好みの音が出せるからではないでしょうか。
CPRAが管理する実演家の権利とは(音楽編)
CPRA レーベルから音源をリリースする場合は、実演家の録音権・送信可能化権・譲渡権などはレーベルに譲渡されて、印税という形で実演家に戻ってくる、あるいは買い取られるというのが基本になります。
なので、レーベルを通す場合は、あまり意識する必要がなかったりします。
CPRA 引き続き、Fionnさんに関係する音楽の部分に限ってご説明します。
これからご説明するのは、CPRAが管理する実演家の権利です。
商業用レコードの貸与権
貸与というのはCDレンタルのことです。
実演家の権利は、実演から70年間保護されるのですが、商業用レコードの発売から最初の1年間は使用をコントロールできる権利(許諾権)です。
その後の69年間は「レンタルして良いけどお金はちょうだいね」と言える権利(報酬請求権)となりますが、CPRAは「報酬請求権」を1年間の許諾権とあわせて管理しています。
商業用レコード・配信音源の放送・有線放送における二次使用料請求権
音源をテレビやラジオ等の放送・有線放送で使う場合、実演家は放送事業者に対して「使わないで」とは言えませんが、やはり使用料を請求できます(報酬請求権)。
CPRAはキー局からコミュニティ放送局まで、1000以上の放送局と契約して使用料を集めています。
もし各実演家がバラバラと権利を行使できる状態ですと、放送局としても大変ですよね。
貸与についても同じことが言えると思います。
このため、これらの使用料を請求できるのは、文化庁長官から指定を受けた団体のみ、とされていて、CPRAはその指定を受けて業務を行っています。
なので「CPRAしか管理できない」んです!
二次使用料であれば、放送局から使用楽曲データの提供を受け、実演家のデータベースと突き合わせを行い、CPRAで実演家の権利を管理している方に、使用料をお支払いしています。
Fionn それならば即登録したいですね(笑)
松武 NOW!ですよ。
CPRA ただ、CPRAは個人と直接契約することができないため、FionnさんはCPRAを構成する団体のいずれかと契約していただくことになります。
権利委任団体と呼んだりしますが、詳しくはCPRAのWEBサイト(https://www.cpra.jp)をご覧ください。
知識を持っていないと損してしまう
KM 権利委任団体に加入しないと、実演家の貸与報酬請求権と二次使用料請求権を管理してもらえない、ということを、既に加入されている方はどうやって知ったのでしょうか。
松武 やっぱり、レコーディングやライブの現場で、人づてに聴くことが多いのかな。
「きみ、貸与権のお金、もらってないの?!」とか。
CPRA CPRAや権利委任団体も一生懸命広報しています。
そうしたこともあって、委任者数はどんどん増えていますよ。
(芸団協CPRAへの権利委任者数の推移)
出典:https://www.cpra.jp/profile/result/
Fionn 音楽の権利について、人やお金がどのように動いているかを全く知らずにデビューしている人もいると聞きます。
ぼくはこの時期にいろいろ聞くことができて良かったです。
CPRA レコード会社が実演家の権利を取りまとめている場合でも、「商業用レコードの貸与報酬請求権」と「商業用レコード・配信音源の放送・有線放送における二次使用料請求権」はレコード会社経由では送金できないため、分配できずにお金が宙に浮いちゃっているんです。
損しないためにも、ぜひ実演家の権利やCPRAについて知ってもらいたいですね。
KM 配信のアグリゲーターからお金をもらえているから間に合っています、という方も多いですよね。「印税」っていう名前のものが、どの権利のお金なのかということが分かりにくいと思います。
Fionn 「印税」って、音楽をやっていても正確には分からないのに、音楽をやっていない一般の方に説明しようとしたら、、、もう無理だと思ってしまいますよね。
何とか、今日お聞きしたポイントをまとめると、こうでしょうか。
✔ CPRAに権利を預けないと行使できない実演家の権利がある!
✔ CPRAに直接加入するのではなく、権利委任団体のいずれかに加入する!
CPRA そうですね!
もう教えることはなくなっちゃいました(笑)。
日本と海外の違いって?海外で曲が使われたらどうなるの?
KM 権利委任団体に加入した後に自分の作品の登録をしたり、何かやらなければいけないことなどはあるんですか?
CPRA JASRACだと契約した後に「私はこういう作品を作りましたよ」という届け出を出す必要があると思うんですけど、CPRAの場合は実演家の方がご自身でそういう登録をする必要は基本的にはありません。
じゃあどうするか、というと、CPRA側で調べます。
我々に権利を委任してくれている人たちがどういう活動をしているのか、リリースされた音源の情報を取りまとめてくれている会社などから情報を仕入れてデータベースに取り込んでいます。
もちろんご本人の基本的な情報などは提出していただく必要はありますが。
KM Fionnさんの曲であれば、アーティスト「Fionn Mily」というクレジットが絶対に出ますもんね。
Fionn クレジットもすごい大事なんですね。
松武 氏名表示というのは本当に大事なことなんですよ。
CPRA CDなどでも一番トップでクレジットされる人のことを「フィーチャードアーティスト」なんて呼び方をします。昔はその情報すらも集めるのが大変でした。
今はデータが整備されてきていて、「フィーチャードアーティスト」の情報も高い精度で手に入れることができます。
データで効率的に管理ができる良い時代になってきたなと感じます。
KM 海外の団体との関係性やネットワークなどはどうなっているのですか?
CPRA 世界各国の団体と相互にネットワークを組んでいます。
例えば放送の二次使用料などは国際条約上で権利の枠組みがあり、日本もそれに沿って権利を創設しています。
なので、海外でも多くの国で国際条約に沿った形で「放送の二次使用料請求権」的なものがあります。
各国の実演家の権利を管理している団体とCPRAが協定を結んでいて、例えばイギリスの曲が日本で使われたら二次使用料はCPRAが徴収してイギリスの団体に送ります。
その代わりイギリスでCPRAのメンバーの曲が使われたら、ちゃんと集めて送金してもらう。そうすることで日本にいながら世界中で徴収できる仕組みを築いています。
ちなみにアメリカでは、放送に関する実演家の権利はないんですよ。なぜかインターネットラジオにはあるんですけど。
Fionn そうなんですね、びっくりです。
でもマニアック過ぎる知識ですね。友達に言っても誰も分からなさそう、、、
KM 海外と比較して日本では認められていない部分もあるんですか?
CPRA 日本では、バーやレストランなどのお店で流れるBGMについては、実演家の権利が認められていないです。
著作者には「演奏権」があって、JASRACはそれを管理しているので、著作権者であるFionnさんの曲がバーで流れたら使用料が徴収・分配されると思いますが、作詞・作曲はしていないけれど歌っている・演奏しているという実演家には、権利が認められておらず、使用料が発生しないので、何も受け取れないです。
Fionn ぼくは著作権者としては使用料がもらえる、ということですね。
CPRA ヨーロッパの国々などでは当たり前に認められていて、実演家にとって大きな収入源になっていたりします。
さきほど、国際的にお互い管理し合う、という話をしましたが、日本で権利が認められておらず、管理していない分野の使用料は、送金してもらえないんですよ。
なので、日本の実演家の音源が、ヨーロッパのお店でBGMとして使われたとしても、その使用料は日本には送金されて来ないんです。
コロナ禍における芸団協の活動とこれからのCPRA
Fionn コロナ禍での活動を教えてください。
CPRA 芸団協では、文化芸術推進フォーラムという団体の一員として、国に対して文化芸術分野への支援を要請する運動をしてきました。
コロナ禍で、2020年の音楽のライブ関係は全体で80%も収入が落ち込みました。ライブエンターテインメント分野にも休業要請に対する補償や事業への支援をしてくださいという運動をかなり積極的に行いました。結果として、事業に対する補助金も含めた補正予算が文化庁や経済産業省でつけられました。
もちろんしっかりと感染症対策をとる前提ですが、ライブなどのエンターテインメイトもやっていかないと皆さんの心が回復しないと思います。コロナ禍で病むのは身体だけじゃないですよね。
なので、これまで仕事として音楽に携わっていた人たちが今後も継続していけるように、土台をもう一度しっかり作り直しましょうと、この2年間ずっと働きかけています。
松武 芸団協の役目としてはそういった活動も重要です。
もちろん権利を守ることも大事なんですが、国に対して文化的な予算をもっと出すべきだ、ということを訴えていって、皆さんの心を豊かにしたいと思っています。
KM 放送・有線放送の二次使用料はコロナの影響は受けていないんですか?
CPRA 影響があるかないかで言ったらあります。
CPRAの場合は徴収額の大半が放送関係なんです。コロナの影響で企業がCMを控えた時期があって、放送局の広告料収入が減った分、CPRAにも影響はありました。
一方、海外の団体では、日本では認められていない「CDをレストラン等のBGMで流すこと」に関する徴収の割合が大きい団体もあり、そういう団体は大打撃を受けたと思います。
Fionn 音楽の世界に限らず、数年先のことが全く想像つかない気がしています。
CPRA そうですね。単純にCPRAの収入の増減という話ではなくて、その先には確実に分配すべき個々のアーティストがいらっしゃるので、実演家の糧となる使用料が減らないように、むしろ増やしていけるように、さまざまな運動や政策提言を行っています。
さきほどあった、実演家にも演奏権を認めてほしい、とか、放送と同じようなことをやっている配信プラットフォームからの使用料も集中管理を行えるようにする、とか。
時代とともに利用形態が変わっていって、内訳が変わることはあっても、実演家の収入自体が減ることはないように、対応していかなければいけないと思っています。
松武 新しい権利は努力して獲得しなければいけないと思います。
IT技術は日進月歩ですが、それらの餌食にはならないように。
我々がやっていくことは、やっぱり権利をしっかり主張していく、ということになると思います。これは絶対に忘れちゃいけない。
若手クリエイターへのメッセージ
KM 最後に松武さんから若い音楽クリエイターの方々にアドバイスをお願いします。
松武 私は権利とかそういったものは、後から学んでも良いと思うんです。
やっぱり好きで始めたものは諦めない、やり続けることが大事。
人の意見を聞きつつ、自分の個性をきちんと持ち続ける、ということが、クリエイターとしてやり続けなきゃいけないことだと思います。
よく冨田勲先生が言っていたんですが、「設計図をきちんと書くよう」にと。
要するにデッサンですね。
デッサンができて、音楽ですから音色を、色として塗っていく。その色は無限に作れます。
どういう色をそのデッサンに入れていくのか、それが作曲の起承転結になります。
今後音楽を作っていくときに一番大事なのは「デッサン」。
それがイコールで「オリジナリティ」だと思っています。
ぼくは冨田先生から「きみはデッサンができるか」と言われて「いや、どういうことでしょうか」と聞いたら、今みたいなことを言われて。
当時は深すぎてよく分からなかった(笑)
KM デッサンですか、、、
松武 何を訴えたいのかっていうことだと思います。
音楽は自己満足っていうところもあるんですけど、やっぱり人に聞いてもらって、鳥肌立ててほしいじゃないですか。
Fionn 本当にそうです。
松武 そのためには何が必要か。
それは単にアレンジができるとか、色々な音楽を聴いているとかではないと思うんです。
オリジナリティを出しなさい、自分の音を作りなさいと。
実は、冨田先生は音の作り方は何も教えてくれなかった。
で、あるときYMOっていうバンドで、売れたじゃないですか。
作品を先生のところに持っていったら、「やっときみは自分の音が作れたね」と言われて。
その時は、むちゃくちゃ嬉しかったですよ。
個性と自信を持ってやり続けてほしい。
Fionn 自信はすぐ失いそうになってしまいます。
松武 自信が一番大事だと思います。頑張ってください。NOW!ですよ。
TEXT:KENDRIX Media 編集部
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